実戦に即した訓練だ。
今日も朝から訓練所で戦闘訓練だ。
この頃はミハイルとの立会稽古が多くなっていた。
今のところ僕がミハイルに勝ち越している。
「フハハハハ!
甘い、甘いぞ!ニコラ!!」
木製ハンマーを銀の盾で弾かれたミハイルは、
弾かれると同時に手を離し攻撃方法を素手に切り替えてきた。
残念ながら手を放すタイミングが少し遅い。
僕は木製ハンマーの攻撃を弾いたことで少し崩れた体勢を元に戻す。
バィイーン!
「なんだとぅ!!」
ミハイルの拳も弾く。
銀の盾を使える様になった時だったら、間に合わなかっただろう。
だけど、あれから一年は経っている。
僕もギフトも成長しているのだ。
「くそう、スカディ先生の攻撃は当たるのに俺の攻撃は当たらない。」
ミハイルが悔しがるが、スカディ先生と比べるのが無謀と言う物だろう。
あの人は何だろう、別次元にいる人だ。
「スカディ先生の武器の切り替えは一瞬だし、
攻撃も当ててきたり当てなかったりするからね。
と言うか、スカディ先生と比べるのが間違っていないか?」
「うむ。ニコラの説も一理ある。
確かに、あの年増と若い我々を比べるのは間違っている。」
頷くミハイルの後ろには同じようにうなずくスカディ先生がいた。
「そうだな、それは尤もだ、確かに若い者と年寄りを比べるのは間違っているな。」
雑談をする僕らの後ろにスカディ先生が銀色の長い髪をなびかせ立っていた。
先生の顔は笑っているが目は笑っていない。
「先生、今日は新入りの稽古じゃ・・・。」
スカディ先生はこの訓練所に新しく入る人たちの案内も兼ねた訓練を引き受けていた。
その案内の途中でこの場所に寄った様だ。
先生の後ろには新しく入った訓練生達が僕ら二人を見ている。
「ああ、そうだ、そう思って実戦に即した稽古を見せようと思ってね。
丁度いい。若い二人に相手をしてもらおうか・・・。」
「いやー、僕ら二人今稽古が終わった所で・・・。」
ミハイルは言い訳をして何とか逃れようとするが逃れられない。
と言うか、何時になったら無駄なことだと判るのだろうか?
「若いから問題は無いだろう。
さぁ、構えて。
実践に即した訓練だ。」
その日僕らは彼岸の端で老人が手を振ってる夢を見た。
「やれやれ、とんだ災難だ。」
「いやーすまねぇ。
まさか後ろに先生がいるとは思わなかった。」
僕とミハイルは実践稽古の見本として散々しごかれ、へばって地面に座っていた。
と言っても、いつも通りなのだが。
スカディ先生は僕らに稽古をつけた後、新しく入った者を相手に訓練を行っている。
相変わらずタフな先生だ。
「ミハイル、人数増えたよな・・・。」
「ああ、ここ数ヶ月で倍増している。」
僕らの住む国、
オロール王国の西にグレゴワール魔導帝国がある。
その魔道帝国の動きが活発化していると町の大人が言っていた。
訓練所に人が増えたのは不安に思った人が訓練に来ているのだろう。
ズダダダダダダダダ
「ニコラ!帰るわよ!!」
猛スピードで駆けてきたジュリアが僕を呼ぶ。
何時の間にか、帰る時間になっていた。
ジュリアも同じ様にここで戦闘訓練をしているが、弓術なので訓練は別の場所で行っている。
僕にはジュリアの護衛と言う役目があるので一緒に帰っていた。
ほとんど、僕が迎えに行くのだが、遅れてしまった。
今日、先生にしごかれたのが原因か?
それともその後の休憩が長かったからだろうか?
何にせよ、ジュリアの方が先にこちらへ迎えに来てしまった様だ。
どうやら僕が来るのをかなり待っていた様で、少し怒った顔をしている。
僕はやれやれと言った表情で立ち上がった。
「いいですか、ニコラ。
レディーを待たせるなんて紳士としてあってはならない事なのですよ。」
ジュリアに御小言をもらいながらアルバート商店まで一緒に帰る。
途中、王都の道を慌ただしく走る王国軍の兵士を多く見かけた。
王国の兵士があんなに急いで何かあったのだろうか?
僕たちのいつもの帰り道にはワーフルの露店などがあり、
僕やジュリアはよくそこでおやつを買っている。
だけど、今日はワーフルの露店は出ていなかった。
ワーフルだけではない、野菜売りの露店も宝飾の露店もない。
そしてその場所を王国兵士があわただしく走っている。
僕はその姿に何か得体の知れない不安を覚えるのだった。