魔導帝国の終焉その1
ゼラム伯爵領は帝国の南西に位置し、帝国でも有数の領地面積を誇る。
伯爵領の居城でゼラム伯爵は首を伸ばして待っていた。
少し白髪が混じるこげ茶色の髪を短く切りそろえられ、
脂ぎった四角い顔ににやけ顔が浮かぶ。
会議室に置かれた長テーブルを配下の者で囲み戦果を待っていたのだ。
だが、駆け込んで来た伝令兵の報告は思いもかけないものだった。
「報告します。
アッシュランドへ侵攻中のアビスウォーム五匹が全滅しました!!
流星の攻撃によるものと思われます。」
「なんだと!!」
ゼラム伯爵は頭をかかえた。
名ばかりの最弱四天王の領地への侵攻である。
簡単に事は成ると考えていた。
それゆえに大々的にアッシュランドへの侵攻を喧伝、
アッシュランド侵攻失敗は次期皇帝を争うルジョン伯爵の知るところだろう。
両陣営とも魔導帝国四天王、レクト・アッシュランドを見くびっていた。
“四天王の中で格下の最弱、前線でもめったに見かけない”
事実、レクトは前線に出たことは一度も無い。
正確にはレクト自身が前線に出たことは無いのである。
皇帝グレゴワールが帝都にいる場合は、白銀の全身鎧に身を包み、顔を隠す。
着用している鎧は魔力パターンを一様に変調させることが出来る代物である。
同じ魔力パターンを持つ者が装備した場合、
レクトと皇帝グレゴワールどちらが装備しているか判別はつかない。
皇帝グレゴワールが密かに前線に出る場合、鎧を外し皇帝グレゴワールの影武者となる。
そして、皇帝グレゴワールは白銀の鎧をまとい四天王のレクトに成り代わる。
レクトはただそれだけの為に四天王として存在するのだ。
この事は他の三人の四天王は知っており、
無意識のうちに出ていたレクトを格下見ていた。
その態度が周りにも影響し、レクトを四天王最弱と見る様になったのだ。
ゼラム伯爵はうなる。
「くそっ。
アビスウォームを葬れるだけの実力があるとなると話は変わる。
魔導皇帝ほどでは無いが実力者として次期皇帝へ推挙する者も現れるかもしれぬ。
そうなる前に手を打たねば・・・
魔導通信を持て!!」
ゼラム伯爵はルジョン伯爵と魔導通信による緊急の会談を設ける様命令した。
魔導通信は帝国の貴族間で用いられる魔道具で機密性が極めて高く
傍受される危険性は極めて低い物だった。
「ほう、これはゼラム伯爵殿、ご機嫌いかがかな。」
魔導通信の水晶球に白髪の老人が浮かぶ。
ルジョン伯爵領は帝国の北に位置し、ゼラム伯爵と同程度の大きさがある。
(ちっ、腹グロ爺め。)
ゼラムは一瞬引きつった顔をするがすぐに平常心に戻る。
「恐れ入ります。ルジョン伯爵殿もご健康で何よりです。」
「「ふはははははははは」」
両者挨拶を交わして笑い合うが目は全く笑ってはいない。
「ルジョン伯爵、あなたは今の帝国の体制についてどう思われますか?」
「と、言いますと」
「帝国統一の偉業をなされたグレゴワール陛下はもういません。
皇帝は全てを統一できるほどの偉大な人物でした。
ですが、その後を継げるほどの実力を持った者はおりますまい。」
「うむ。確かに。
グレゴワール皇帝陛下はそれだけ偉大な存在だったと言う事だな。」
両者、皇帝の後を継ぐほどの実力者はいないと言う事に同意するが、
腹の中では”自分ならば可能だ!”と考えていた。
「帝国は大きすぎるのです。
ならば、どうすればよいか。」
ゼラム伯爵は話を続ける。
「私は思うのです、帝国は分割統治されるべきだと。
例えば、南部は私が、北部はルジョン伯、あなたが。」




