正面から乗り込むしかないわけだが・・・
黒騎士ゲルギオスはニコラ達と別れた後、真直ぐ帝都に向かった。
その場所に自分が主と定めた姫がいるからだ。
森の中をひた走る。
休む必要が無い黒騎士の移動速度ならば十日あれば帝都にたどり着く。
「メイベル姫が嫁いだ先は確かアッシュランド伯爵家だ。
だがそれよりも、どうやって帝都に入るかだ・・・」
ゲルギオスは帝都から少し離れた場所で帝都の壁を見つめていた。
黒騎士の膂力をもってしてもこの壁を昇るのは至難である。
また、壁を昇る際に見つかってしまうだろう。
「壁を越えるわけにはいかないか。
すると正面から乗り込むしかないわけだが・・・」
ゲルギオスが帝都の正面門を見ていると奇妙なことが判る。
門の両脇に兵士が立っているだけで、誰も入る者を確認していないのだ。
いや、そうではない。
時々門が光って弾かれている者がいる。
どうやら帝都の門は許可の無い者を弾く様に出来ているみたいだ。
では、ゲルギオスはどうだろうかと考えてみる。
黒騎士の武具を装備したのは帝都の研究所だった。
その場所は帝都の中にある。
つまり、帝都の門からゲルギオス自身が出たはずである。
「とりあえず行ってみるか。」
帝都の門に弾かれて、万が一、門兵と戦いとなっても逃げきる自信はある。
ゲルギオスはなんとかなるだろうという気楽な気持ちで門を通った。
門は全く反応せずゲルギオスは弾かれること無かった。
ゲルギオスは門からまっすぐアッシュランド伯爵の家へ向かう。
黒騎士となる前は何度も訪れたことのある場所だ。
帝都の形が多少変わったぐらいでは迷う事は無い。
途中見とがめられることは無く、アッシュランド伯爵の門の前まで来た。
アッシュランド家の門は大きく開かれており、誰でも訪れる事が出来る様になっている。
ゲルギオスは扉をたたいた。
しばらくすると出てきた執事のような男に自分の名前と用件を伝える。
「少々お待ちください」
執事にそう言われたが、さほど待たずに応接室に通された。
応接室に通されたゲルギオスは動きが止まってしまう。
皇帝陛下の様な男がそこに座っていたのだ。
ゲルギオスは臣下の礼を取ろうとするが男はそれを止める。
「私は皇帝陛下ではない。単なる影武者だ。
私の名はレクト・アッシュランド。
アッシュランド伯爵家の当主である。」
「私は・・・」
「判っている。ゲルギオス殿でしたな。
お掛け下さい。
鎧のままで結構ですよ。」
レクトは四天王なだけあって黒騎士の由来を知っている。
それぞれが人間を超える兵士として改造されたことも、
制御用に兜を被らせている事も知っていた。
「ゲルギオス殿。
お主が我妻メイベルを守り帝都まで送り届けてくれたことは感謝しきれない事だ、
今は亡き妻も草葉の陰で喜んでくれているだろう。」
「今は亡き、ではメイベル様は・・・。」
「はい。二年前に最後は皆に見守られて・・・。」
帝都にたどり着いた時に聞かされたのは守るべきメイベル姫の死亡(老衰)であった。
「では、姫のお子様方は?」
「それですが・・・・
我が魔導帝国皇帝陛下が崩御なさいました。
発表はまだですが、近々発表されます。
それに伴う混乱を避ける為、アッシュランドへ息子と孫を向かわせたのです。」
レクトはゲルギオスの鎧のままの手を握ると
「訪問いただいたのにこんな願いをするのは大変申し上げにくいのですが・・・」
「?」
「ゲルギオス殿、貴殿に我が息子と孫の護衛を頼みたい。
既に出発しているが、お主の移動速度ならば追いつけるはずだ。」
「レクト殿。私は姫に忠誠をささげた身。
その子供とあれば喜んで護衛をしましょう。」
レクトはゲルギオスの言葉を聞き何度も礼を言う。
「ありがとう、ありがとう。
そうじゃ、これを渡しておこう。
妻の形見のネックレスだ。
これがあれば息子のロムスもお主を信じよう。」
黒騎士ゲルギオスは街道を抜け、森を抜け、ひたすら走っていた。
途中、雨が降り出し道もぬかるんできたが速度が落ちることは無かった。
速度を落とすことなくアッシュランドを目指す。
そのゲルギオスの眼前に一台の馬車が光の球体の様な物に覆われているのが見えた。
「む?あれは・・・」
ゲルギオスには馬車の前に立つ一人の若者に見覚えがあった。




