この世に生まれたことを後悔させましょう!
マデリン子爵は商談と言っているが、これは商談ではない。
手下の兵を使っての単なる恐喝だ。
元より金銭を払う気は無いのかもしれないが・・・。
それより、この男、
マデリン子爵は雨よけの範囲から外れたはずなのに雨に濡れる様子はなかった
それどころか雨のおかげで薄らと障壁のような物を纏っているのが判る。
「障壁か・・・。」
「ご名答。
むひょひょひょ。
こう見えてもそれなりぃの強さはある。
まぅぁ、魔導帝国において、このぐらいの魔道具を持っていなぁい貴族はいなぁいがね。」
障壁の魔道具を持っている事を悟らせない様に雨よけを使っていたらしい。
妖しい言動と態度からすっかり油断していた。
他にもいくつか魔道具を隠している可能性があり、迂闊に動けない。
僕の脳裏にはある呪文の塊が浮かぶ。
究極流星の効果×499,970本
この呪文の効果を一つ、ぶつければマデリン子爵に勝つことは出来るだろう。
だがこの呪文の効果の大きさは未知数だ。
あの時、山の形を変え、数多の魔獣を倒したのは、この呪文のはずである。
だけど、究極流星の効果一本分の効果範囲は不明だ。
それに魔獣を倒す効果を人間に対して使っても良いのだろうか?
「待ちたまえ。」
僕たちが逡巡しているとロムスさんが馬車の後ろから姿を現した。
ひらりと優雅な動作で馬車から地面に降り立った。
馬車の周りは雨で水たまりが広がっているのだが、水しぶき一つたてない。
「これぉはこれぉは、アッシュランド卿。
こんな夜ぉるにどちらへおでかけぇでぇすか?」
「アッシュランド領へ戻る所だよ。
急ぎの用事があるのでね、彼らを雇って馬車を走らせていたところだよ。」
「アッシュランド卿ぐぁ?
こんな得体のしれぇない、あやしいぃ商人を雇ってぇ?。」
「な!!」
キョウカは今にもマデリン子爵に飛びかかりそうになるが、
ロムスさんが右手を上げ制止する。
「マデリン子爵のご心配には及びません。
彼らは私自身が吟味し、信用して雇ったのです。」
「でぇすが、私はこれぉでも子爵領を預かぁる身、
アッシュランド伯爵領の嫡子ぃであるロムス殿を護衛もせずぅに送り出すなど
あってぃはならなぁい事なぁのでぇーす。」
ロムスさんは少しため息をつくとマデリン子爵をじっと見据えた。
マデリンはそんな視線に身じろぎもせず、
にやにやした顔でロムスさん言葉を待っている。
「そうですか。
それでは仕方ありませんね。
では、ここからは貴殿に護衛を頼むとして、彼らには町へ帰ってもらいましょう。」
だが、マデリンはにやにやした顔を更に歪ませると
「それぇはできませぇんなぁ。
彼らはオロールかぅら来た商人、それぇもあのアルバート商会の関係者。
我が母の為ぇにも彼らには相ー応ぅの報いを受けてぇもらわねぇばなりませぇーん。」
「相応の報い?」
「そうでぇーす。
アッシュランド卿。
オロールの国王、いいーぇ簒奪ぅ者が25年前何をしたのかぁ覚えておられよぅ。
簒奪ぅ者は自らのぉやり方に歯向かう者、王侯貴族を全て、
それぇも女子供に至るぅまで残らず粛清したのでぇーす。
そして簒奪ぅ者を後ろから支援していたのがアルバート商会なのでぇーす。」
「その話は聞いている。
だが、それは隣の国の事、我々には関係ない事だ。
それに皇帝陛下自らが不干渉を宣言したのではないのかな?」
マデリン子爵は怒気をはらんだ声で唾を飛ばしながら
「何を言いますか!!
わが母の一族はたかだか平民の村を焼き払っただけで処分されたのですぞ!
それに奴らは平民の分際でギフトの授与されている。
これは我々の様な高貴な身分にしか許されない事だ!
万死に値する!!
いや、こ奴らにはこの世に生まれたことを後悔させましょう!」
興奮したのかマデリン気持ちの悪い喋り方を止めている。
だが、話の内容からすると僕たちを捕まえて拷問でもするつもりなのだろうか?
「ふむ、全く話にならんな。
アルバート商会と敵対して帝国に利点はあるのかね?
私が報告すれば貴公は糾弾されよう。」
「・・・・
く、
く、く、
くはははははははははははははははははは!!」
マデリンはひとしきり大声で笑うとにたりと気持ち悪く邪な顔をした。
「大丈夫でぇーす。
我々が到着した時には、アッシュランド卿、
あなぁたは商人に化けた盗賊に襲われ殺されるのでぇーす。
残念ぇーんなことにアディール嬢もぉその事で気がふーれ、
幽閉せざぁーるを得なくなるのでぇーす。」
前言撤回、
マデリンは僕たちを皆殺しにするつもりのようだ。




