とてもまずいことになった
テリアは領境の町だけあり、町の周囲を木の壁で囲んでいる。
所々に見張り用の櫓があり、衛士の数も多い。
ヨルヴィックは衛士の隊長をしているのだから、相当な実力者だろう。
ヨルヴィックに勧められ、反対側の門近くの宿屋を取ることにした。
雨が強くなってきたこともあり、急いで宿に駆け込む。
宿の部屋は少し大きめの部屋をとることにする。
人数が少し増えた為だ。
食事の後、ロムスさん達と明日以降の打ち合わせをすることにした。
今日は残念ながら、衛士のヨルヴィックがいたため詳しい話が出来ていない。
夜も遅い時間だが打ち合わせを行わない訳にはいかないのだ。
「打合せが延びたのは仕方がないとして、
テリアに入るときに検査を受けることがなかったのは行幸だな。」
ゼフィールの言う通りテリアに入る時、検査を受けていない。
前回は念入りに検査を受けていた。
だが、今回はヨルヴィックがいたおかげで検査を受けることもなく町に入ることが出来たのだ。
「だけど、あの衛士のおっさん
“緑の守護騎士”の話をしている時にやたら俺を見ていたが何かあるのかなぁ?」
ミハイルの言う事は正確では無い。
衛士のヨルヴィックが見ていたのはミハイルのではなく、
その後ろを歩いていたロムスさんやアディールさんなのだ。
”緑の守護騎士”の話をしながらロムスさん達の反応を伺っている様にも見えた。
「その話からすると、ヨルヴィックの行動には注意が必要でしょうね。」
そうジュリアが注意を喚起した時、
宿の部屋を訪れる者がいた。
噂の主である衛士のヨルヴィックである。
彼は雨の中を急いで来たのか、ずぶ濡れの上、肩で息をしていた。
「ヨルヴィックさん、どうしたのですか?
こんな雨の夜に?」
僕が尋ねると、ヨルヴィックは摑みかかる様に、
「大変だ。とてもまずいことになった。
領主がこの街に来る。」
「?」
そこに居合わせた者は皆、疑問符を浮かべた。
どんな町でも領主が来る事はあるだろう。
それがまずい事なのだろうか?
「まずいのは君達ではなく、そこに居る人達、
いや、
そこに居られる方々なのだ。」
そう言って、ロムスさん達の方を見た。
「実は領主には皇帝崩御の知らせは伝わっている。」
ヨルヴィックの言葉にロムスさんは思わず声を上げた。
「ばかな!崩御の発表はまだのはずだ!」
「いえ、一部貴族にはその話は伝わっています。」
ヨルヴィックの話では情報をいち早く手に入れた者の中に
権力を拡大しようとする者がいた事だ
「領主は魔道具で崩御の情報を手に入れていたのだ。
これだけなら問題は小さかっただろう。
よりによって、領主の手先があなた方の姿を見てしまったのだ。」
ヨルヴィックさんによると見ただけならまだ対処が出来た。
その手下は衛視の詰め所にある魔道通信機を使い領主に連絡をしたのだ。
それが判ったのは領主がロムスさん達の足止めを命じたからだ。
ヨルヴィックは領主が来る前にと思い急いでこの宿にやって来たのだ。
「だが、その領主がロムスさんを手に入れてどうするつもりだ?」
「彼はアッシュランドの人間だからな。」
ロムスさんは魔導帝国四天王、レクト・アッシュランドの息子である。
四天王を味方につける、もしくは亡き者にするのにロムスさん達を利用するつもりなのだ。
「今夜はまだ雨が続く。
お急ぎください。
この雨は足跡を消してくれる恵みの雨となるでしょう。」
ヨルヴィックさんの案内の下、秘密裏に町から脱出した。
僕は少し気になった事があり別れ際にヨルヴィックさんに尋ねてみた。
「ヨルヴィックさんは何故、ロムスさんを助けるのです?」
「ワシは“緑の守護騎士”にあこがれていると言ったであろう。
その“緑の守護騎士”が最後に守った姫君、
帝国に亡命した姫君の嫁ぎ先がアッシュランドだからだよ。」
そう話すと、ヨルヴィックは少し照れ臭そうな表情をした。




