使えないと言えるのは、本当に使い道が無いと判った時なのだよ。
教会からの道をどう帰ったのか、よく覚えていない。
気が付いたらアルバート商会の前まで戻って来ていた。
「おーい、ニコラ。お帰り~。」
店の前で食べ物を買いに来たのか、金髪の少年が顔を近づけてきた。
「で、どうだった?どんなのだった?良くなかったのか?」
僕より少し背の高い金髪の少年が矢継ぎ早に尋ねてきた。
彼の名前はミハイル。
ミハイルは自分も三日前にギフトの授与の洗礼を受けた。
その為、僕がどの様なギフトを貰ったのか好奇心で聞いてきたのだ。
「俺は、“剛腕”のギフトだったけど、ニコラはどんなギフトかと思ってね。」
ミハイルのギフト“剛腕”の能力は腕力を上げる。
単純な能力だけど、その分効果は高い。
彼の実家は鍛冶屋なので重宝するだろう。
「で?で?で?」
ミハイルが詰め寄って来る。
僕は彼にどう説明するか考えていた。
「あ~!ミハイルが仕事をサボってる!!」
黒髪の少女が僕たちを指さし大声を上げ駆け寄ってきた。
いつの間にかジュリエット(ジュリア)がやって来たみたいだ。
彼女はアルバートさんの娘で、常に動きやすい恰好をしている。
今日も少し大きめの半ズボンだ。
スカートをはいているところはあまり見たことはない。
「ちょっとニコラ。
帰ってきたら、お父様のところ行かないと!!」
ジュリアはやってくるなり僕の腕を引っ張る。
「ちょっと待てよ!ニコラは俺と話をしてるんだぞ!」
「あら、ミハイル。ここは年上のいう事を聞くべきでなくって?」
ジュリアは横目でたしなめる。
だが、ミハイルはそんな言葉ぐらいで引くことはない。
「年上っても一つしか違わないだろ!!
俺はニコラの一番の友人としてギフトの事をだなァ・・・」
「あら、ニコラはアルバート家の者。
まずにお父様に報告すべきなのです!」
ジュリアは腕組みをしながらドヤ顔で答える。
とは言え、アルバートさんに報告しなければならないのは事実だから仕方がない。
「ごめんミハイル。アルバートさんへ最初に報告しないと。」
「ちぇ。仕方ない。
後で絶対に教えてくれよ。」
「ああ、判った。約束するよ。」
「絶対だぞー!」
ミハイルは何度も手をおおきく振りながらそう言うと家に帰って行った。
ジュリアは僕の手を引き店の中へ入る。
アルバート商会は主に穀物を扱う。
王都の店では人々に麦やライ麦などの穀物を売っている。
地方の店ではそれ以外の雑貨も扱うこともあるそうだ。
店内では倉庫から持ってきたライ麦の袋をルルさんが確認していた。
ルルさんは恰幅の良いおばさんで、アルバート商会の店舗部分を一手に引き受けている。
今日も朝から店番と棚卸しを行なっていた。
「ルルさん、ただいま。」
「おかえり、ニコラ。旦那さんは奥の部屋だよ。」
僕とジュリアはルルさん挨拶すると奥の部屋へ向かう。
「いいこと、ニコラ。」
アルバートさんの部屋の扉の前でジュリアが話しかけてきた。
「たとえ、変なギフトで役に立たなくても、
この私が貴方の面倒をみて差し上げますわ!」
ジュリアがそう宣言すると同時に扉が開く。
そこにはアルバートさんが立っていた。
僕たちがやってきたことに気が付いたみたいだ。
「おや?ジュリア。
ニコラ君をお婿さんにする宣言かい?」
「ちが・・・わないけど・・・」
ジュリアは顔を真っ赤にしてもごもご言っている。
「ともかく二人とも、お入り。話を聞こう。」
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「・・・と言うわけで、
僕のギフトは空間収納でした。
でも、僕の空間収納には何も入りません。」
僕は少し顔を伏せてアルバートさんに報告した。
アルバートさんはギフトの記録票を見ながら
「空間収納ですか・・・良いギフトですね。」
「でも、何も入らないんです。
これじゃあ役に立たない・・・。」
と言って、僕はがっかりした顔をした。
そんな僕を見てアルバートさんは首を振りながら、
「それは違うよ、ニコラ君。
ギフトは貰ったばかりなのだろう?
君はそのギフトを何回使用しましたか?
他の使い道を考えてみたのかい?」
僕はアルバートさんに言われてハッとした。
ギフトは貰ったばかりなのだ。
使えないと考えて他の使い道を考えていなかった。
「いいかい、ニコラ君。
使えないと言えるのは、本当に使い道が無いと判った時なのだよ。」
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ニコラ達が部屋を出た後、アルバートはニコラのギフト記録票の写しを見ながら考えていた。
「アルバート様、お茶が入りました。」
執事のナイアルがアルバートにお茶を差し出す。
「どうしましたか?アルバート様。」
悩みつつも少し楽しげな姿をしているアルバートを不思議に思った様だ。
「そうだね・・・
ナイアル、ニコラ君のギフトの写しを見たまえ。」
ナイアルは差し出されたギフトの写しに目を通す。
「ギフト、空間収納!
・・・・・収納力ゼロ?」
「ギフトの検査では何も収納できなかったそうだ。」
「そんな事があり得るのでしょうか?
しかしこれでは・・・。」
「収納力だけを見ると、そう考えるのも無理もない。
だが、ギフトの展開速度、展開範囲は目を見張るものがある。
そしてこれらの事全て、ギフトを授与された日に判った事なのだよ。」
「ギフトを授与された日のうちに全て調べることが出来たのですか!
私は一週間かかったのですが・・・。」
「私でも全部調べるのに三日はかかった。
ニコラ君は大変筋がいい。
彼ならきっと別の使い道を考えるだろう。」




