これはダメな奴だ。
黒騎士の鎧の効果を”収納“するタイミングを考える。
“収納”するには黒騎士を銀の盾で弾いた後だろう。
今の戦闘の流れだと銀の盾で弾いた後、
マロリオンの呪文かジュリアやキョウカの矢が飛ぶ。
その後、シオリの突撃とゼフィールの攻撃だ。
マロリオンの呪文の後にゼフィールが一撃離脱を行う場合もある。
その場合、狙いが外れる恐れがあった。
半面、ジュリアやキョウカの矢を黒騎士が切り落とした時は黒騎士に足が止まる。
その時がねらい目だろう。
シオリの突撃やゼフィールの一撃離脱まで若干の時間がある。
黒騎士の回復力を落とせば、黒騎士の体力は徐々に減るはずだ。
それ以降の戦闘は数で勝るこちらが有利になり、黒騎士を抑え込める。
抑え込めれば黒騎士の兜を壊すことは容易になるだろう。
・・・
・・・・・
・・・・・・!!
と言うより、鎧の効果を“収納”するより、兜の効果を収納した方が早いじゃないか!
僕は考え過ぎた事による間違いに気づいた。
わざわざ鎧の効果を落とす手間をかけるより、さっさと兜の効果を収納した方がずっと早いのだ。
兜の効果の“収納“のタイミングはジュリアとキョウカの攻撃の後、
黒騎士が矢を切り落とした瞬間。
それ以外に割り込む余裕はなさそうだ。
黒騎士はミハイルの攻撃を流し斬撃を繰り出す。
僕はその攻撃を銀の盾で弾く。
そこにマロリオンの呪文が飛び、ゼフィールの一撃離脱。
黒騎士はゼフィールを追いかけようと体を低くする。
だがすかさず、ジュリアとキョウカが放った二本の矢が黒騎士に襲いかかった。
黒騎士はゼフィールを追いかけるのをやめ、自らを狙うその二本の矢を切り落とす。
その時、黒騎士の足は止まった。
今だ!
右手の収納の対象を“黒騎士の兜の効果”に替える。
そして、もしもの為に左手の収納対象を“黒い全身鎧”に替えるのも忘れない。
収納対象を“黒い全身鎧”にすれば黒騎士が接近するのを素早く防ぐことが出来るからだ。
ズギュギュギュギュン!!
右手が“黒騎士の兜の効果”を収納する。
膨大な何かが流れ込んできた。
(あ、これはダメな奴だ。)
僕は三年前と同じ感覚に覚えがあった。
あの、“なみなみと水が注がれたコップ”の感覚。
黒騎士の兜の効果で収納の容量は一杯になった。
ここで何か弾くと、出してはいけない物(究極流星)までこぼれそうだ。
前の様にそれに手を向けて吐き出すか?
黒騎士がどう出るかはわからない以上、迂闊な動きは出来ない。
だが、当の黒騎士は兜の効果を失った為か微動だにせずにいる。
今しか機会はない!
右手を空に向け、放出を試みる。
が、放出できない。
対象が必要な様だ。
地面に向ける・・・対象に出来ない。
では植物はどうか?
丁度、そこらに草は生えている。
だけど僕は気付かなかった。
野営で食べた後、吐き出した果物の種が散らばっている事を。
植物を対象に“洗脳”を放出する。
どうせなら、旅人の糧になる木でも生えていれば良かったのだが・・・。
―――――――――――――――――――――
俺の剛拳が黒騎士に流され、斬撃を受けかける。
だが俺は心配しちゃいない。
すぐさまニコラの銀の盾が入るはずだから。
ガィン!
黒騎士の太刀を弾いた後、マロリオンの魔法やゼフィールの一撃離脱、
ジュリアとキョウカの矢を切り落とした後、黒騎士を銀の円盤が包み込む。
ニコラだ。
ニコラが何かの目的で銀の円盤で包んでいるのだろう。
黒騎士は銀の円盤で包まれると微動だにせずにいる。
ニコラは右手を上に向けたり下に向けたりパタパタと色々やっているが
何をやっているのだろうか?
顔色も青くなっていて、変な物でも食べたような、今にも吐きそうな気分のようだ。
手を動かしていたニコラはしばらくするとホッとした表情になった。
吐きそうな気分も収まっているみたいだ。
黒騎士はさっきから微動だにしなかったが、
ニコラと向き合うと跪き兜を脱いだ。
「貴公に感謝する!
私はゲルギオス・デミル、今は無きルテール国の騎士だった者だ。」
黒い兜を取ったその下には輝くような金髪を持つ壮年の男の顔があった。




