探索者では無く、冒険者になっていただきたい。
裏庭で少し揉め事に巻き込まれた?が、集合時間前に広間へたどり着けた。
珍しい事にミハエルが一番乗りだったらしい。
広間には大きなテーブルが置かれ、その上に同じような服がたくさん並んでいる。
この場所を集合場所にしている者もいるが、
テーブルの前に立つ人から服を受け取ると部屋から出て行った。
”早く着替えないと“とか”どこで着替える“と言っていたので着替えるために出て行った様だ。
シオリが最後にやって来た。
あの状況からすると仕方が無い事だろう。
スカディ先生はその辺りの事情も聞いていたらしく静かにうなずく。
「よし、全員集まったな。
では制服を支給するのでそれに着替えて大広間に移動する様に。」
スカディ先生は広間に集合した僕たちにそう指示した。
机の上の服は制服だそうだ。
でもどこの制服だろう?
「「「「「「「「???」」」」」」」」
その場にいたみんなも同様に思っていたらしい。
同じように制服を受け取っている連中に比べて
僕たちには情報が少ない様だ。
「詳しくは一緒に置いている手紙に書いている。
では、私はこの後の準備があるので失礼するよ。」
それだけ言うとスカディ先生は出ていった。
制服と共に渡されたのは僕たちに個人にあてた手紙である。
僕への手紙の差出人はアルバートさんと父さんや兄さんたちだ。
急いで中身を確認する。
そこでようやく、制服がどこの制服であるのかを知った。
―――――――――――――――――――――
別邸の大広間は広く、200人ほどの人数が収容できるようになっている。
部屋には椅子が整然と並び、椅子にはこの訓練所で学ぶ者が座っていた。
その周囲を取り囲むように来賓の人が立つ。
奥から順番に
身分の高そうな貴族達(見たこともないようなきらびやかな服を着ている)や
商業組合の人々、
そして僕の兄たちの様な平民が立っていた。
椅子に座る僕たちの前の一段高い位置には台が置かれ、
その奥にアルバートさんが立っている。
むむむむ
制服に身を包んだミハイルが少し恨めしそうにアルバートさんを睨んでいる。
ミハイル、アルバートさんを恨んでも筋違いと言う物だ。
ここで訓練を積むことを許可したのはアルバートさんでは無く、
君のオヤジさんなのだよ。
周りを見ると、
裏庭で喧嘩騒ぎを起こしていた貴族の少年や獣人族の少年が同じように制服に身を包み着席している。
流石に緊張しているのかとても静かだ。
そんな中、アルバートさんの話が始まった
「諸君、訓練学校への入学おめでとう。
来賓の皆様におかれましては、この新しい門出を共に祝って頂きますことを御礼申し上げます。
諸君は、本日より、晴れて訓練生となりました。
我が王国は、
東の魔導帝国グレゴワール、
西の王国カイン
と言う二つの巨大な国により長年翻弄されてきました。
それが刷新されたのは現国王による25年前の改革によるものです。
始めの数年は多少の混乱がありました。
が、改革以来王国は安定した発展を成し遂げました。
魔導帝国の南には暗黒大陸と言われる未知の大陸があります。
この道の大陸への航路は長年魔導帝国に押さえられ、
我々では行き来することが出来ませんでした。
ですが、時代は動いています。
一月前に魔導帝国を我が王国が撃退したことで状況は変化しました。
魔導帝国だけでなく我々にも暗黒大陸を探索するチャンスが訪れたのです。
この訓練学校はその為に必要な優秀な人材を輩出する為に新たに設立されました。
暗黒大陸には未知の脅威が待っているでしょう。
探索半ばで命を落とすことがあるかもしれません。
困難な道に志半ばで挫折するかもしれません。
ですが君たちに私は言いたい。
困難な道を乗り越えた先に栄光はあるのだと。
冒険をする者にしかその栄光はつかめないのだと!
諸君!
諸君には探索者では無く、冒険者になっていただきたい。
本訓練学校で培った根っこがしっかりと地面に根を張り、
冒険者になり太い幹を育て、
世界に出て若葉が芽吹き、
美しい花を咲かせ、
大きな実をつける・・・・・
それこそが、本訓練学校の役目であると信じているからです。
以上が、本訓練学校に入学される諸君に私から贈る言葉です。
結びにあたり、ご来賓の皆様には、この若者たちが成長していく大切な時期に、ぜひとも手助けとなるお力添えをいただきますようお願いをいたしまして、私からの式辞とさせて頂きます。」
アルバートさんが話を終えお辞儀をすると
大広間には万雷の拍手が鳴り響いた。
かくして僕達の訓練学校での訓練の日々が始まった。
訓練の内容は冒険に必要と思われる物、
戦闘訓練から始まり航海術や言語、
野外生活など様々な物が用意されそれらをこなしてゆく。
そうして、三年の月日が流れた。




