お前たち全員自己紹介をしろ。
シュマレフ町の中心部から少し外れた場所に、アルバート商会の別邸がある。
スカディ先生は別邸へ向かう様だ。
どうやらそこに僕らに足りない人材、新しい仲間がいるとの事だった。
シュマレフは大きいと言っても王都ほどではなく移動は徒歩だ。
別邸へ向かう道中、ミハイルが僕の傍にやって来た。
「なぁなぁニコラ。新しい仲間ってどんな奴だと思う?」
「そうだなぁ。魔法使いはエルフか有角族の二択だろうな。
斥候は獣人族か噂に聞く妖精族か・・・・」
僕がミハイルに自分の考えを聞かせていると
僕の右横を歩いていたジュリアが会話に割り込んできた。
「ニコラ。固定観念は良くないのでは?
ひょっとしたらドワーフの魔術師、有角族の斥候かもしれませんよ。」
「ドワーフの魔術師!!それは見たい気がするけど、・・・」
一般的にドワーフは魔法が得意ではなく、
有角族は隠れることが不得意である。
僕は出来れば一般的なエルフの魔法使いと
獣人族の斥候であってほしいと思っていた。
アルバート商会の別邸は、別邸と言うには広い建物だ。
建物自身も三階建てで中には50人の人が入る大部屋が六部屋、
騎士団の様な訓練場が一つ、ここは魔法の訓練も出来るらしい。
その他に別棟が二つ、ここは妙に小部屋が多い。
「ここは1、2回来たことがあるけど、屋敷らしくない場所だね。
母屋の前には掲示板のようなものもあるし・・・」
「それはそうですわ。
ここは騎士団の訓練所があった場所ですもの。」
ジュリアの話によると、この母屋は騎士団の訓練所用の物だった。
二年前にアルバートさんは訓練所を買い取り別棟を二棟建てたのだ。
僕たちは母屋の両開きの扉を開け中に入る。
騎士団訓練所当時は扉が無かったそうだ。
建物の中は掃除が行き届いておりチリ一つない。
廊下には毛の短い絨毯が端の方まで敷かれている。
スカディ先生は僕たちを大部屋の一つに案内した。
大部屋と言うだけ中は広々としている。
その中に、新たな仲間である男の魔法使いと、女の斥候がいた。
(どうやら、エルフの魔法使いに獣人族の斥候だ。
獣人族の方は耳の形からすると狼族か?)
僕が彼らをじっと観察しているとスカディ先生が咳払いをする。
「彼らがお前たちに紹介する魔法使いと斥候だ。
お前たち全員自己紹介をしろ。」
スカディ先生は僕たちを含めて自己紹介するよう指示する。
確かに、彼らだけでなく僕たちも彼らに知ってもらうには自己紹介をするのが一番だ。
さてどんな自己紹介をすべきか?
盾の役目上、ギフトについても話さなければならないだろう。
ただし、収納出来る物や収納している物は気づかれないようにしなくてはならない。
「私はジュリエット、弓使いよ。
ギフトは“巧み”と“機敏”。
気楽にジュリアと呼んでもらえると嬉しいわ。」
少し考えていると、ジュリアが先に自分の紹介をしている。
彼女の持つギフトは二つ、
“巧み”は手先が器用になるギフト。
“機敏”は動作が素早くなるギフト。
どちらも効果的には地味だが、基本能力に影響する為、強力なギフトでもある。
「次はオレオレ。
おれ、ミハイル!
ギフトは“剛腕”。得意な得物はハンマーと籠手。
この二つで大概の物はぶっ飛ばすぜ!!」
ミハイルらしい自己紹介だ。
”ぶっ飛ばす!“と言った通り、ミハイルは籠手で殴る戦闘を好む。
なら僕も。
「僕の名前はニコラ。仲間内では盾、防御を主にしている。
主武器は槍、
ギフトは空間収納。」
空間収納と聞いて二人が驚いた表情をした。
「空間収納?それに盾?」
「残念なことに僕の空間収納は物が入らないんだ。
あと、防御の方法は訓練の時にわかると思う。」
物が入らない空間収納と聞いて二人は不思議そうな顔をした。
収納できない収納と言う矛盾したギフトにどう反応していいかわからないのだ。
「・・・ 私の名はマロリオン。
見ての通り、ハーフエルフの見習い魔術師だ。
ギフトは“滑舌”、呪文を唱えるのに便利だな。」
ギフトの滑舌は呪文の詠唱が早くなる他、交渉事にも役に立つ。
ハーフエルフだからエルフの種族ギフト、”緑の友”を持つ。
このギフトは森を害さない限り、寿命が延びるギフトだ。
「アタシの名前はシオリ。
見ての通り狼獣人の斥候だ。
ギフトは・・・判らない。」
獣人族の場合、独自に祖先の霊をあがめている為、
ギフトを与えてくれる神々は信仰していない。
その為、ギフトを持たない者が多く存在する。
その代わり、種族ギフトとして”獣化”を持つ。
何時間かに一度、自らの能力を増やす。
「よし。簡単な自己紹介は済んだな。
後はゴブリン退治でもして親交を深めたまえ。
次は古代遺跡に行くぞ!
全員装備を確認!」
新たな仲間を加えた僕たちはスカディ先生の案内の元、
古代遺跡に出かける準備を確認するのだった。




