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彼は“冒険者”としての可能性を秘めている

もうもうと巻き起こった土煙がなくなり見えた景色は僕に変な声を上げさせた。


「はぇうぃ?」


まだ少し吐きそうな気がするのと相まって、思わず変な声を上げてしまったのだ。

この僕にとって想定外の事態。

今、目の前で起こった事に対して、頭がついていかない。


轟音が轟く前、

確かに“グレゴワール”魔導帝国の旗が翻っていた。

ゴブリンだけでなくオーク、オーガ、ジャイアント、トロルなどが

隙間なく王都を取り囲んでいたはずだ。

あの時の魔物は黒い山脈が存在しているかの様に見えた。


その山脈が轟音と共に消滅しのだ。


・・・・・・・・・・


ただ判ることは、


(早くこの場所から立ち去らなくてはならない!!)


僕は急いで教会の屋上を後にするのだった。



―――――――――――――――――――――


“王都包囲の魔物の軍勢は見当たらず、その場に大穴があるだけ”


魔導帝国の軍勢が消滅して半時後、伝令兵から驚愕の報告を受けた。

国王は直ちに議会を招集、貴族ならびに王都の有力者が集められる。

現場の調査を行った王国警備隊隊長のマークは周辺を調査した結果を各員に説明していた。


「王宮の尖塔から見る限り、周囲に魔物の軍勢はいません。

その代わり王宮を取り巻く様に大穴・・・大溝が存在しています。」


「魔法師からの報告。これも事実なのかね?」


「現場に大規模魔術の痕跡。

複合呪文が使用された結果、全ての生物が・・・ 消滅?」


その言葉に議会は騒がしくなる。


「消滅?死亡ではなく?」


「はい。

現場周辺の生物は魂自体が消滅しており土地自体に力が全くない状態です。

その場所では下級呪文の構成さえ困難を極めるとあり、

魔法師によると、その土地が元に戻るには十年以上かかるとのことです。」


「何という事だ!

不毛の土地が王都周囲に出来上がったのか・・・。

恐るべき爪痕だな。」


国王オロール五世は目をつぶり頭に手を当て重苦しい顔をした。


「で、それらが出来た理由は判っているのか?」


国王からの質問にマークは緊張した表情で答える。


「も、目下の所、調査中です。

ただ、その時間ほぼすべての者が地下へ避難していた為、詳しいことが判りかねています。

王国魔法師の見解では“極大魔法が制御不能になり術者に返った“との事です。」


「ふむ。制御不能か・・・

だが、都合よく王都に被害を出さない物だろうか?

余は魔法師の報告にもある銀の円盤が気にかかるのだが・・・。」


「陛下、報告ではそれが制御不能の原因とみています。

当初目的では円盤は極大魔法を拡散させる役割を担っていたと考えられており、

魔法の拡散に問題があったのではないかと。」


「宰相、結界のギフトで王都全部を覆う事は可能か?」


国王の言葉に宰相のジョン・ウィッスルは


「私にはわかりかねます。ただ、今のところその様な結界のギフトは報告されていません。」


「王都全体を覆う結界のギフトは報告されておらぬ以上、

制御不能以外思いつかないが・・・

だが、魔物の軍勢の後ろには魔導皇帝グレゴワール本人がいたとも聞く。

魔導皇帝とも言われる者がその様な失敗をするかどうか・・・。」


結局、原因はわからないまま会議は進められた。

王都周辺の大溝は更なる調査と、周辺の復興が議決され議会は終了した。

大溝は王都を囲む第二の堀にする方向で進められている。


「陛下。少しお時間宜しいでしょうか。

私の知己の商人が陛下との面会を願い出ております。」


王国の財務大臣のジミー・リックが国王オロール五世に耳打ちする。


「して、その知己とは?」


「穀物商人のアルバートと言う者です。」


「アルバート・・・あの男か!

そう言えば王都の商人の一人として議会に出ていたな。

前の戦いでも兵站に協力してもらった人物だな。

それで面会理由とは?」


「はっ。何でも先ほど会議にあった極大魔法に関する事との様です。」


「・・・判った。内密に面会しよう。

場所は王宮の中庭で良かろう。」


―――――――――――――――――――――


王宮の中庭の中心にはテーブルと屋根あるだけで見通しがよく周囲に隠れる場所の無い所である。

その場所で国王オロール五世とアルバートは面会していた。

当然、財務大臣のジミー・リックとアルバートが話をしている所に、

陛下が”偶然”通りかかったという事になっている。


国王とアルバートは簡単な挨拶を交わし話を進める。


「ではその“収納できない収納持ち”が極大呪文を跳ね返した結果だと?」


「はい。

極大呪文が消え教会付近から強烈な光が上がったと報告にあります。

その時、教会の屋上にいたのはその者に間違いありません。

実際にその者は魔法を跳ね返すことが出来ます。」


「ふむ。にわかに信じがたい事であるが、その方の言う事の方が納得できよう。

これはその者、ニコラとか言ったな、その二コラに褒美を取らせなくてはならぬ。」


「お待ちください、陛下。

その褒美の件は内密にお願いします。」


「内密?

その者にとって名誉なことであると思うが?

“英雄”として持ち上げられよう。」


「名誉な事でありますが、若くして受け取った場合、良い結果に繋がりません。

まして彼は、修行中の身。

“英雄”と言った物は彼の道を曲げてしまう事になりかねません。

それに騎士団や魔法師を差し置いて、

一般市民が王都を守ったとなればどの様な立場に立たされるか・・・。」


「左様か。

ではいかなる褒美をとらせようか?

騎士団や魔法師に推挙できるが?」


「残念ながら、騎士としては身分が低すぎ大成できません。

魔法師としては魔術の能力がありません。」


「では?」


「以前からお願いしていた“冒険者”に関わることです。」


「おお、そう言えばお主は見込みのありそうなものを集めていたな。

ではニコラとやらも?」


「はい。

彼は“冒険者”としての可能性を秘めていると思っております。

そして、魔導皇帝が倒された今、“冒険者”の需要は高まるでしょう。

帝国に抑えられていた、西方諸国との交易、

そして暗黒大陸の調査には“冒険者”の存在が必要になると確信しております。」

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法を跳ね返せるのを知ってるなら吸収できるのも知ってたんじゃ……
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