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夜のヴァンパイア  作者: けろよん
第一章 闇の目覚め
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望まれる戦い

 夜は再び訪れる。霧の出る夜は魔物の現れる夜だ。

 ひかりはもう出ていくのは止めようかなと思っていたのだが、


「相手の不戦勝になりますよ」


 そうクロに言われ、


「せっかく天下のヴァンパイアに挑戦出来る時が来たと期待して来てくれているのに、そのチャンピオンが来ないのでは相手はがっかりするでしょうね」


 さらにそこまで言われては腰を上げざるを得なかった。


「本当にわたしが行くのが望まれているの?」


 ひかりとしては自分に叩きのめされるだけの相手がそんなことを望んでいるとは思えないのだが、クロの発言は強気だった。


「チャンピオンとはそういうものですよ。チャレンジャーにとっては王者に挑戦出来ることが栄誉なのです」

「そんなに言うなら行ってやるかあ」


 最近のことでちょっと尻込みしていたひかりだったが、望まれて悪い気はしない。

 それに自分も戦いで力を発散させ、気分をすっきりさせたいと望んでいた。

 チート能力者は逃げたりしない。どんな敵が現れても立ち向かい、チート能力で無双する。

 逃げ隠れするなんて、ファンタジー世界の自分への侮辱だ。そう思える。

 ひかりは自信に溢れるヴァンパイアに変身して暗い夜空に飛び立った。




 霧の立ち込める町の広場に着地する。

 今日の相手は半魚人みたいな奴だった。


「俺は半魚人族のサハギンだ! 強いお前と手合せ出来ることを嬉しく思うぜ!」

「おお、本当に喜んでる」


 ひかりはちょっと驚いた。だが、念のために訊いておくことにした。


「先に言っておくけど、竜帝を倒したわたしにあんたが勝てるとは思えないんだけど、本当に勝負するの?」


 ひかりとしては勝負にならないなら怪我をしないうちに帰った方がいいのではと提案したつもりなのだが、


「確かにあいつの炎は強かったな。だが、俺の得意技は水だ。水ならどうなるか分かるまい!」


 サハギンはそれを挑発と受け取ったようだ。いきなり口から水鉄砲を発射して襲ってきた。


「うわ、ばっちい!」


 ひかりは上空に飛んでかわした。半魚人は地上から魚顔を向けて見上げてきた。


「かわしたな。やはり俺の水鉄砲は通用するんだ!」


 調子に乗っているところ悪いが、ひかりは口から出てくる水を食らいたくないだけだった。汚そうだし、それに魚臭そうだ。

 半魚人は次々と水鉄砲を撃ってくる。迫ってくる水をひかりは次々とかわしていく。

 隣で狙われていないクロが呑気に言う。


「どうしました? 反撃しないと勝てませんよ」

「分かってる!」


 だが、どうも戦う意欲があんまり湧いてこない。

 相手が弱いせいだろうか。それとももう目立ちたくないせいだろうか。

 いずれにしてもこの世界は考えていたファンタジーほど居心地の良い場所ではない。そう感じてしまう。


「チャンス! 一気に畳みかけてやる!」


 それを好機と見たか、サハギンは両手を地面に叩き付けた。地面から強烈な水しぶきが吹き上がる。


「水道管が破裂した!?」

「いえ、あれは術で呼んだのでしょう」

「術?」

「あなたの起こす炎や雷と同じですよ」


 話している間にもサハギンは行動する。

 水を巨大な波へと変えて乗って、ひかりより高い位置まで昇ってきた。


「俺がヴァンパイアを倒す! 一番の勝利者だ!」

「ふざけんな! あんたごときが勝てるわけないでしょ!」


 ひかりはいい加減に切れてきた。

 気分が乗らないからといって黙っていては相手は調子に乗るばかりだ。

 それでは現実世界の自分と同じだ。チート能力で無双するヴァンパイアの自分が許せる物ではない。

 サーフィンして近づいてきた半魚人をひかりはただのグーパンチで殴り返した。波が散って半魚人が落ちていく。

 ひかりは精神をちょっと集中して、


「くらえ!」


 雷撃を発射した。雷撃は見事に命中。半魚人は黒こげになって消滅した。

 ひかりはクロと一緒に着地した。辺りにはもう水は残っていなかった。


「水が無い」

「術者を倒したので消滅したのでしょう」

「気になったんだけど、あの倒した魔物ってどこに行くの?」

「町の外で復活しますよ。これは先代の決めた勝負ですから、その舞台においてはそうなるように霧に魔法が掛けられているのです」

「へえ、そうなんだ。霧凄い」

「でも、人間や勝負に関係ない者達においてはその限りではありませんから気を付けてください」

「分かった」


 何だかいろいろとお膳立てをされているようだった。

 いろいろ考えてしまったが、やはり敵をぶっ飛ばして勝つのは純粋に気持ちいい。

 ひかりは来た時よりは少し楽になった気分で飛び立って帰路についた。




 戦いからは遠く離れた場所にある建物の暗い会議室。

 その部屋のテーブルで戦いを見ている二人の人物がいた。

 一人は貫禄のある気難しそうな顔をした背の高い青年。もう一人は猫のような溌剌とした瞳をした身軽そうな少女だった。

 ともにひかりの通っている学校の制服を着ている。

 少女の手元には占いで使うような小さな水晶玉が置かれている。そこにはひかりが戦っていた映像が映し出されていた。

 気難しそうな青年は眉一つ動かさない仏頂面をしたまま訊ねた。


「どうだ? ヴァンパイアの秘密は何か掴めたか?」

「いえ、この霧のせいでしょうね。このハーピーの千里眼を持ってしても、肝心なことは掴めやしなかったわ」


 少女はあきらめた様子で水晶玉から手を離し、その体を椅子の背もたれに預けた。そのまま気楽な調子で片手を振って彼に向かって言った。


「まあ、勝負の時はいずれ来るんだし、その時に調べても辰也の役には立てると思うわ」


 今は人間の姿をしているが、彼女はハーピー族だ。ハーピーの能力は遠くの景色を捉えることが出来る。

 そんな彼女のお気楽な言葉に辰也と呼ばれた青年は眉をぴくりと動かした。


「俺を呼び捨てで呼ぶな。俺を誰だと思っているんだ」

「はいはい、竜帝のお孫さんでしょ。あたしと辰也の間で堅苦しいことは言いっこなしにしようよ」

「お前はうちの使用人だろうが」

「あたしを雇っているのは竜帝様なのよ。お坊ちゃん」

「まったく……まあいい。今はそれよりもヴァンパイアだ」


 辰也は戦いへ意識を戻す。その真面目な態度を見て、少女も顔から笑みを消した。


「まさか、あのお爺様が破れるほどの実力者が現れるとはな」

「さすがの辰也でも竜帝と呼ばれたほどのお方が破れたことはショックだった?」

「まさか。もうお爺様の時代は終わっていたんだ。先代のヴァンパイアがいなくなった時に同時にな。俺はただ勝負には万全を持って挑みたいだけだ。例え0.1パーセントのゴミのような可能性だとしても、王者に負けは許されないのだからな」

「王者ねえ……」

「これからはこの俺が竜の頂点に立ち、全ての魔の者を従える。そのためにはヴァンパイア! 奴は必ずこの俺で葬ってくれる!」


 竜族の青年は力強くテーブルを叩き、不敵に笑う。

 ひかりの平穏はまだ訪れそうになかった。

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