龍ノ丘高校一年 睦月龍也
「えー、皆さんは龍ノ丘高等学校の生徒として・・・」
俺は睦月龍也。日本で一番自由度の高い高校(自称)に入学し、現在入学式の途中である。普通ならば長いはずの校長先生の話が、
「・・・では最後に、新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。私達は皆さんの能力の向上をサポートしていきますのでこれからよろしくお願いします」
三分で終わった。それから色々あったが、入学式は二十分で閉会した。
自分の教室に入り、周りを見渡す。知っている人は誰もいない。理由は、俺に友達がいないからではなく通学路が面倒くさい道なので、中学の友達が誰もこの学校に来なかったからだ。更にこの学校は学力がトップクラスなので色々と難易度の高い高校として有名だ。そんな面倒くさい高校になぜ俺が入学したのかというと、単に自由度が高いからだ。
これからどうやって友達作ろうか迷っていると、先生が入ってきた。
「えー、皆さんおはようございます。私が1-4のクラスの担任で、笹沼沙耶といいます。これから一年間よろしく」
入ってきた先生はかなり美人な先生だった。髪はショートヘアで、小顔。スタイル抜群で、何人かの男子は顔を赤くして先生を見ている。だが、俺は背の小さい人が好みだし、年上キャラもそこまで好きではない。中学の頃何人かに告白されたが、全員、背の高さが俺とほぼ変わらない人だったので断った。
あれこれ考えているとパンフレットが配られた。先生が何か喋っているが無視し、パンフレットに目を通す。
(・・・イベントは普通だな。部活は・・・ん?)
俺は部活の欄に気になるものを見つけた。そこにはゲーム部と書いてある。写真にはパソコンやスマホ、中には携帯ゲーム機やテレビゲームのコントローラーを持っている人が見られる。説明文には、ゲームならば電子ゲームでもトランプゲームでもボードゲームでも、なんでもやっていい部活です。と書いてある。入部条件は・・・部員一人にFPSで勝つこと、と書いてある。これは、この部活に入らないわけにはいかないな。
ちょっと楽しくなってきた。
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学校の説明や作業が終わり、現在午後四時四十五分。部活が始まるので入部届を出しに行った。もうすでに人は集まっており、中でもゲーム部が人気だ。俺はゲーム部の部室に入り、ゲームの順番を待った。壁には巨大なディスプレイがあり、ゲームの状況を写しているようだ。行われているゲームは俺がいつもよくやるFPS、フルメタル・アーミーと言うものだった。世界の殆ど全ての銃を採用しているゲームで、世界一FPSとして優れているというのが売りのゲームだ。俺もこのゲームではかなりの強者だと自負している。自分の慣れているゲームで少し安堵するが、ディスプレイを見てその安堵は緊張に変わった。
なんと部員のスコアは36、対してチャレンジャーのスコアは0。キャラの動きは殆どプロのそれだ。そして、タイマーがゼロになり、ゲーム終了。
「・・・おかしいだろッ!36-0なんてスコア、チート使ってんだろお前等!」
ゲームに負けた人が叫ぶ。だが、このゲームのアンチチートシステムは世界最高峰であり、チートが使える訳がない。が、周りの人は負けた人に同意し、「そうだ!そうだ!」なんて叫び始める。だが、部員の一人がこう言った。
「チートだと思うのであれば私のデバイスでもう一度対戦してみればいいじゃない。私はあなたのデバイスで勝負するから」
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結果46-0。その結果にその場にいたチャレンジャー全員が唖然した。
「これで判ったでしょう。私がチートを使っているのではなく、単純にあなたが弱いのよ。動き的にあなた、初心者狩りばっかりしていたでしょう」
その言葉で今度は負けた人が赤面し、無言でその場から立ち去った。
「次の人、どうぞ」
並んでいた人達が一斉に列を崩し、先を譲り合った。しょうがないな、と俺が手を挙げ、挑戦の意を示した。
「ではこちらに」
誘導され、椅子に座る。
「挑戦する人を選んで下さい。わたしでもいいし、他の人でもいいですよ」
と言って、部員が全員並ぶ。俺としては女の人と対戦したくないので、男の人を選んだ。
「じゃあ、そこの先輩で」
「え、僕?いいよ。じゃあ、よろしく」
と言って、男の部員が席に座る。
「アカウントはどうする?」
「あ、自分の使います」
そう言って、ログイン画面に移動し、ユーザーネームとパスワードを入力する。ホーム画面に画面が移り変わったら、武器を選ぶ。装備プリセットが三つあるが、サブ武器は全て、連射力に優れたハンドガンG17に設定。メイン武器は、一つ目はG36アサルトライフル、二つ目はBulletXM500セミオート対物ライフル、三つ目はRP-46軽機関銃に設定。グレネードはシンプルにフラググレネードに設定。
「設定終わりました」
「よし、じゃあ対戦よろしく」
「よろしくお願いします」
ルールはシンプルな五十本先取のデスマッチ。マップは遠距離武器有利の「Miniature garden」というマップで、マップの真ん中には噴水、連絡通路が多々あり、隠れる場所が少なく、上から狙い撃ちがしやすいマップだ。先輩のアバター名は「Unbreakable」で、意味は破ることは不可能、壊すことはできない。
(・・・ん?この名前、どこかで聞いたことがあるような・・・いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。さて、相手の武器は・・・)
開始直後、俺は死んだ。キルカメラを見ると、
「ゲパードGM6!?」
ゲパードGM6。セミオートスナイパーライフル。連射性能が高い狙撃銃で、同時に俺のM28とXM500と同じ対物狙撃銃。プラチナBOX(BOXのランクは五つあり、その中の最上位)から対物狙撃銃が排出される確率は0.000005%であり(俺は対物狙撃銃の二つを手に入れるという超強運者なのだが)、それらは全てユニークアイテムなので、同じものを持つ者は一人もいない。しかもユニークアイテムを手に入れた人は全プレイヤーに通知が来るはずなので、この人は相当名の知れたプレイヤーだ。
急いでスロットを2にし、XM500をメインウェポンにする。そして、相手を探す。
「ゲパードに対抗できる銃が君にはあるか・・・」
俺は姿を捉えた瞬間、頭に狙いを定め、強引にマウスをクリックした。今度は先輩が驚く番だった。
「・・・XM500か・・・」
ゲパードGM6とXM500の違いはやはり連射性能だろう。実銃の性能は知らないが、ゲパードは一秒に三発、XM500は一秒に二.五発。二秒間で撃てる弾の数の差は一発。だが、その一発が生死を左右する。
先輩のアバターがリスポーンした時に俺はもう壁に隠れながら、G17を装備し、前進していた。俺は同じ場所で何発も撃ち続けるような馬鹿ではない。もう一度XM500を装備し、アバターを探す。その時、
「キュゥゥゥン!」
ゲパードに撃たれた。が、HPは全損せず表示は1/100となっている。多分、足か手に当たったのだろう。
反対にXM500が優れているところは二つほどある。
一つ目は精度だ。XM500は連射性能が低い代わりに精度が馬鹿みたいに高い。連射してもレティクルのド真ん中を必ず射抜く。エイム力さえあれば最強の武器になれる。
俺は撃たれた方向を向き、スコープを覗く。ゲパードから放たれる銃弾は俺の横をかすめるが当たりはしない。冷静にしっかり狙ってマウスをクリック。すると同時にゲパードの弾が俺のアバターに当たる。
発射は・・・されなかった。
「ふう。いやー危なかったね。あれにはちょっとビックリしたね。XM500の精度は馬鹿みたいに高いから、あのままだと確実に死んでたね」
「次は当てますよ」
先輩は笑うだけだった。俺は、プリセットを3にし、RP-46軽機関銃を装備。全速力で先輩のアバターに近づく。フラググレネードで視線を誘導させながら安全に、確実に近づき、射程圏内に入った。730メートルだろう。アタッチメントで取り付けたACOGサイトを覗き、マウスを長押し。先輩のアバターは血を撒き散らしながら吹っ飛び、倒れた。
「次もXM500で来るかと思ったけど、軽機関銃で来るとは・・・考えたね」
「芋ってると次も殺りますよ」
「次はないよ。機関銃には、機関銃だ」
「機関銃、持ってるんですか」
「ああ、重すぎてまともに移動できない様な物をね」
(・・・重機関銃か・・・)
俺は瞬時にそう考えた。
重機関銃は軽機関銃よりもレアだが、移動速度が遅いので使う人は少ない。中にはユニークアイテムがあるらしいが、俺は見たことが無い。さて、どんな武器かな?ACOGサイトで隠れながら先輩のアバターを探す。このまま芋るのであればここから動かずに引き分け狙いで・・・いや、芋っていない。堂々と下の方で銃を構えている。だが、ここからは狙えない。近づくために意を決して動いた。が、見つかった。だが、この距離ではいくら重機関銃でも狙えないはず。ここから先輩のアバターまでは3キロは離れている。のだが・・・
「キュイキュイキュイ!」
恐ろしい速度で弾丸がここまで届いた。HPが恐ろしい速度で減っていき、あっという間に0になった。キルカメラで武器を確認する。そして唖然した。
ブローニングAN/M3。使用弾薬は、主に対物狙撃銃に使われる銃弾、12.7x99mm NATO弾。発射レートは一分間に1200発。対物重機関銃とでも言うべきか、圧倒的攻撃力を持つその機関銃は手足に当たっても二発で、頭はもちろん、腰、胸に当たっても一発で死が確定する。そして、この武器も排出率0.000005%の世界に一つしか無い銃、ユニークアイテムである。俺はプリセットを2に戻し、狙撃していく方針に切り替えた。だが、見つけたらすぐ撃たないとこっちが殺られる。更に、あの武器で芋られたらこちらに勝ち目はない。リスポーンした瞬間、俺は壁に隠れて先輩のアバターを探した。が、見つからない。まあ、当たり前だろう。
俺はG17ではなくXM500を装備し、移動した。もちろん、移動速度はG17のほうが早いが、相手の場所が分からないうえに、出会い頭のキル速度で負ける。それらを踏まえれば、キル速一瞬のXM500の方が安全に移動できるのだ。後は俺のQSの腕を信じるしか無いだろう。
警戒しながら移動していると、先輩のアバターを見つけた。先輩はまだ気づいていない。俺はアバターの胸の部位に狙いを定め、落ち着いて撃った。先輩のアバターは狙い違わず吹っ飛び、画面右上のキルログが更新された。
これでスコアは3-3、残り時間は一分半。あと1キルで勝ちが確定する様な戦況だ。
俺は警戒しながら周りを見渡した。アバターは見えない。重機関銃を持ちながら短時間で長距離移動は流石に無理なのでスポーン地点の近くにまだいるはずだ。俺は高い場所から見下ろしながら先輩のアバターを探す。が、嫌な考えが頭をよぎる。
(・・・もし、先輩が武器のプリセットをブローニングでもゲパードでも無かったら・・・すぐそこまで来ている可能性は・・・十分にある!)
俺は直ぐにスコープをから目を離し、左右を見る。そしてすぐここから離れようと右に移動した瞬間、銃口が見えた。そこまで認識した時にはもうスコープを覗くためにマウスをクリックした。だが、この武器はエイムを除くまでのスピードが遅く、間に合うかどうか分からない。そして、アバターの腕と持っている武器が見えた。
クリスベクターSMG
俺は覗き判定が曖昧な中、強引にマウスをクリックした。
轟音がPCから鳴り響き、ようやく画面にスコープのレティクルが映し出された。いや、スコープのレティクルが映されたのであれば・・・
画面には先輩のアバターが血を撒き散らしながら吹っ飛んでいる様子が映し出された。キルログが更新され、俺のHPを確認する。残りHPは1.7%だった。そして残り時間はあと1秒。そして0になった。
画面にWINNER!の文字が映し出され、リザルトが表示される。スコアは3-4、バックではラスキルの映像が映し出されている。
「いやー素晴らしいっ!よく気づいたね、俺がSMGで凸ってくるなんて。今までSRとHMGしか使ってなかったのに」
「いや、俺もギリギリでしたよ。あと1秒遅れてたら今頃かなり悔しがってます」
「これでもこのゲームで世界大会に出たことあるんだけどなー」
・・・ん?世界大会?このゲーム?・・・確か、これの世界大会の決勝ライブで「Unbreakable」っていうユーザーネームを見たことが・・・
「・・・え?まじでUnbreakableさん?」
「そーだよ。僕が世界二位のUnbreakableだ。ようこそ、僕たちの部へ」
こうして、俺は一年生でたった一人のゲーム部の部員になった。
因みにその後、先輩達は勝負を面倒くさがり、その場にいた一年生全員をまとめて相手にし、ブチ負かしたらしい。