5.ルノンキュルと将軍
長らく更新しておらず申し訳ありません。三女の奇縁の魔女のお話です。
ワルプルギスの夜は、魔女達の宴ではなく闇に連なるものたちの宴でもあった。大人しく仲間内で騒げばよいものの、気が大きくなるからか誘拐や大規模な儀式を行うこともありアーノルドは眠れぬ一夜を過ごした。気を張って警備していたためか大きな事件や行方不明者はおらず休むように部下に進言された。
奇縁の魔女が休む時は休めと言っていたのを思い出し、簡単な指示を出して帰ることにした。あの短い旅の時に何かと役にたとうと動いていたアーノルドに言った言葉だった。短い旅だったが何があるかわからないからとしきりに休ませてくるので気を付けていた。ありがたみがわかったのが軍の行軍訓練で新人ほど休憩の大切さに気が付かず後半で体調を崩していた。
城に預けていた馬に乗り素早く屋敷に帰る。マリュアージュ家は、貴族街にあり城から近いのだが馬車で帰ろうとすれば時間がかかるため馬車が通りにくい箇所があり渋滞がよく起きてしまうのだ。諍いが怒っているならば止めに行くだろうがとくにそういう
「アーノルド様、奇縁の魔女様がいらっしゃっています」
「ルノンが?」
衝動的にしてしまった出来事でもう二度と現れないだろうと思っていた。会いに行くなんておこがましいし、怖がらせるようなことをしたから会いに来るわけがない。だが客間で祖父と話していると聞いて疲れや眠気が吹き飛ぶ思いで部屋へ飛び込んだ。
「なんじゃ、落ち着きがないのぉ」
「おじゃましてるよ~。っと」
間延びした特徴的な話し方にルノンだと涙が出てきた。それと同時に小さくなってしまったルノンを力いっぱい抱きしめた。
「苦しいよ、なんで毎回力いっぱいなんだよ~」
「すっ、すまない」
春の萌黄のような緑色の瞳に涙が溜まり見上げてくるので目をそむけた。だがその様子を祖父は、にやにやと訳知り顔で見ている。
「また会えてよかったのぉー。この孫に侯爵位を譲るのはまだ早そうだ。国も安定しているし旅に出ろ」
「はっ?」
「一人では、安心出来ないからな。ルノンと一緒に行くといい」
ルノンへ目を移すと微笑みを浮かべており、何が起きたのか疲労でふらつく頭で考えるが思いつかない。妖精のいたずらかと思い看破のためにまぶたにつばを塗ったが変わらずルノンがいた。
「いいのか。共にいられるのなら国を出るのもかまわないと思っている」
「君の縁は、この国に深く根ざしているからずっと旅をすればきっと戻りたくなると思う。縁というのはそういうものなの~。だからこの縁について、切れないんだって覚悟出来たんだ~」
アーノルドへ見せるように左手を持ち上げたルノンの瞳が光れば、薬指に赤い絹糸のようなものが見えた。そしてその糸は、アーノルドの左手の薬指につながっている。
「やっぱり~、また繋がった。何回切ってもこういう縁は、想いが強いと繋がっちゃう」
「これは、運命の糸なのか」
運命の糸は、強い縁がある相手と繋がる縁の俗称で奇縁の魔女はそれを自在に扱えるとされていた。時には、複雑に絡んだ因縁の運命の糸を切り、思いあった者同士の運命の糸を結ぶ高等固有魔術。運命の糸に携わるたびに土地と己の運命の糸が歪み一定の土地にいられない呪いの魔術でもある。
「そう~、君とあってからその予兆はあって。でもマシューの大事な孫を僕の旅に連れ出すわけにはいかないから何回も切って別のに繋いだ。なんで素敵なお嬢さんたちだったのに僕を選ぶのか意味わかんない」
ルノンの言葉に何回か他の令嬢に興味を覚えたことを思い出したがその想いは、目の前の魔女の魔術によるものだったらしい。しばらくすると不快感ばかりがつのりルノンに会いたくなっていた。
「あなたは、俺の憧れの女性で目標だった。どんな辛いことがあってもあの旅のことを思い出せば不思議と勇気が出て、いつかまた旅をして共にいたいと思った」
「うん」
「それに伴侶にするならルノンしか考えられない」
「うん、だから一年旅をしてそれでもそう思うならいいよ~。それに僕は、君がきっと好きかな。ねっ、だから婚約期間ってことになるのかな」
「婚約? 婚約していいのか」
信じられなくて祖父の顔を見れば、少年のようにいたずらな笑みを浮かべ行って来いといってくれた。
「このままではひ孫の顔が見れなそうだからな。ぜひとも無事に婚約期間を終えて帰ってこい」
「はい、絶対に」
「気負い過ぎだよ~」
国を出るまでにひと悶着があったものの旅に出て一年間様々な国をめぐり二人は結婚した。結婚後は、一男一女を授かり長男は侯爵家を継ぎ、長女は魔女になる。アーノルドが歳をとり旅が難しくなると、ルノンはアーノルドを赤毛の鷲の獣魔に魂を入れ替えお互いの寿命が尽きるまで共にいたという。