4.ワルプルギスの夜
だいぶ間が空いて申し訳ありません。
ワルプルギスの夜は、豊穣を願う祭りであったが魔女が集まりサバトをする日でもある。
今年も夜を迎えると国々に散った魔女が集まり料理を振る舞い、酒を飲みキャンプファイヤーで踊る。老いも若きも関係なく思い思い振舞う様は、世に縛られることもなく自由だ。
その宴の隅で、暗い空気を醸し出す三人組がいる。三人は、三魔女と呼ばれる三姉妹の魔女であった。
長女は、幻想の魔女ベルドゥジュール。魔法薬の作成と魔術を使用する魔女。
次女は、魅了の魔女カメリア。魔道具の作成を得意とし獣魔を使役する。
三女は、奇縁の魔女ルノンキュル。魔道具の作成を得意とし精霊と共に古今東西旅をする魔女。
とある国では英雄として、とある国では悪魔のように嫌われている。そして三人とも楽天的でありここまで落ち込むことはあまりない。
「姉さん、姐さん聞いてよ」
「ルノンまずはアタシの相談が先」
「リアの相談なんて人狼くんでしょ。ついに薬盛ってたのバレてるし番になれってところでしょう」
ベルは、沸かしたお湯をポットに入れて仕方ないとばかりに口を開く。
「そうよ! 姉さんの薬が下僕にバレたのなんでよ。対人狼用に調合した薬のはずでしょう」
「動物好きのくせに犬の嗅覚をなめすぎ。私がいくら頑張っても匂いや味は完全に消せないし。犬がわからない程度となると同じ犬で実験しないと無理。後はベルへの執念の賜物じゃないの。あそこまで立派に育ったんだからあきらめるか完全に連絡を絶つしかないわ」
「完全に連絡を絶つって手放せってこと?」
「もちろん、中途半端な態度を見せれば喉笛を噛まれても仕方ない」
ベルは、蒸らし終えた茶を妹たちに配っていく。
「確かに野生動物でも相手が圧倒的上位と認識させなければこちらが弱者と思われますよぉ。姉さん」
ルノンは、そういいつつ茶にミルクと砂糖をドバっと入れた。琥珀色の茶は、すぐにクリーム色へと変化する。
「そういうアンタこそ相談って将軍のことでしょ。姉さんから聞いたけどなんで首絞められてんの」
リアは、茶にレモンと砂糖を入れてかき混ぜる。
「昔拾った時から僕を愛してるって言ってた」
「それはそれは熱烈ですね。あの歳で将軍というのも上位貴族だからという理由だけじゃないみたいですね」
ベルは、ミルクと砂糖と香辛料を入れてかき混ぜる。その様子を妹たちが嫌そうな顔をしているのも気にしない。
「どうせルノンが煽るようなこと将軍に言ったんじゃないの。昔から妙なのをひっかける天才だし」
「わかってるよぉ。だから僕は一所にいないで旅をしてるんじゃないかぁ。僕の糸は絡まりすぎぃ。切ったら切ったで問題があるのが多いしぃ」
「ルノンの問題は、将軍とどうなりたいかでしかないわよね。リアと同じで中途半端にすれば更に悪化しそう」
「僕自身は、昔のアーニー君を知っているから根っからの悪い子じゃないことを知っているけどぉ。ついこの間まで子どもだったのに愛してる、なんて言われてもねぇ。嫌いじゃないのは確かなんだけどぉ」
ルノンは、手元のカップをスプーンでくるくるとかき混ぜる。カップの中身が頭と同じなのか飲む気配がなくカップの中身を見つめていた。
「姉さんもなんかあるんでしょ。マロウのことだからついに告白してるに決まっているけど。魔女と人間の婚姻制度と人外の人権についてすごい勢いで整備して根回ししていたし」
「なにやってるのあの子……」
ベルが思っている以上に現在の地位を使って好き勝手していたようで頭が痛くなってくる。だがずっと過ごしてきて魔女が街の人たちに頼りにされつつも貴族などには、嫌われており倍の税金を払っていることを見ていた。何かあったときは頼ったり罪に着せようとするのもあった。
「姉さんこそ、マロウがずっと子どもだと思って男と見ていなかったのではなくて?アタシは、社交界でいろいろ見聞きしてたけど健気に頑張っていたわよ」
「確かに私から見てずっといい息子でしかないわね。娘として育てるつもりが息子だったけど。だから急に言われてもね。あと百年変わらなくていいのに」
「姐さん、百年経ったらマロウくん死んじゃうよ」
「マロウは、普通の人間だから確かに死んでしまうのね。あんなに小さくて可愛かったのに。他の人間と同じように置いて行ってしまうの。父さんや友人たちと同じように」
「姉さん……。だからこそ悔いがないようにしようって約束したでしょ。ルノンも」
「うん、それがきっと答えだね。僕たちの。さてと宴を楽しもうよ!僕ホットワイン飲みたいなぁ」
「あなたお酒が弱いんだからホットブドウジュースにしときなさい」
「はぁーい、姐さんたちも飲みすぎないでね」
姉妹の笑い声が闇夜に響く。宴は始まったばかりだった。