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3.三女の事情

 一台の幌馬車が酷い嵐の中を駆けている。馬は、視界も効きにくい中懸命に走っているが崖続きで道が狭く休憩に適した場所がない。


「酷い嵐……」


 幌馬車には、深くフードを被った女がいた。女の声は、張りがありたぶん若い女であることが想像出来た。


「あれ? なんかここ崩れているなぁ。どぉうどぉう」


 女が幌馬車を停めて道を見るとやはり崖が少し崩れている。崖の下を見ると落下したらしい馬車が下で粉々になっていた。女は面倒ごとに巻き込まれる前に退散する気だった。だが女は、お人よしの姐を思い出す。


「面倒なのは嫌いなんだけど……姉さんならどんな駄目な状況でも助けなきゃっていうよねぇ~」


 幌馬車からロープを持ってくると、崖の壁面でもしっかり根付いている木に結ぶ。


「木の精霊さん、ちょっとの間ロープ結ぶからごめんね~」


 ロープで降りた崖の下の状況は最悪だ。勢いよく走っていたのだろう馬が下になり上に馬車がいる。だが馬車の中身は無事ではないようで、頭から夥しい血を流した若い男女の死体が折り重なっていた。あの血の量では、女がどう頑張っても無理だ。しかし男女の間には、一人の少年がいた。


「おぉう、美少年」


 顔立ちが整った赤毛の少年だった。見たところ出血しているようには、見えず気絶しているだけかもしれない。女は、少年の頬を軽く叩いてみたらまつげが動いてよく晴れた昼の空のような青い瞳が見えた。


「母…上、父…上」

「君たちは、事故にあって両親が亡くなっている。あとで埋葬するから今は、最後の挨拶をした方がいい」

「死んだ……?」


 ルノンは、少年が動けないのを見てとると支えて起こすし両親の方に体を向けた。少年は、嵐のために涙を流しているのかわからないが小刻みに小さな体を震わせていた。死の恐怖からかもしくは、両親がこの世にいないことを理解したためか。

 しばらくすると少年は、袖で目元をぬぐって女の方を向いた。その目は、思ったよりもまっすぐで女を驚かせた。


「あなたは誰ですか。俺は、アーノルド・マリュアージュと申します」

「マリュアージュってことはマシューの…30年前に会ったからお孫さん~?」

「マシューお爺様のお知り合いですか」


 驚いたように少年が女を見る。驚いた顔が祖父であるマシューにそっくりだった。

 女は、濡れるのを承知でフードを下すとふわふわとした明るい赤身がかった茶色の髪がこぼれ落ちる。その瞳は、常に美しい緑を見せる杉のような深い色だった。


「紹介が遅れたね~。僕の名前は、ルノン。だいたいの人が奇縁の魔女って呼んでいるよ~。マシューとは友達~」

「キエンの魔女」

「そう~、ところでここにいると風邪ひくよ~。君のお父さんとお母さんは、僕が埋葬してあげるから君は先に僕の馬車に乗っていようか。風邪ひいちゃうし」

「埋葬が終わるまで俺もここにいる」


 少年には、馬車に乗ってもらい休んでもらいたかったが頑として動く様子がなかった。確かに少年が、両親と会う最後の機会だ。ルノンは、自分で掘るつもりだったが時間短縮のために精霊の力を借りることにした。


「しょうがないな~。風と地の子ノーミード。僕との約束を示せ」

「一体誰だい、こんな時間に呼び出すなんて。あらルノンじゃない!相変わらず可愛いわ~」


 呼び出しに現れたのは、茶髪に茶色の瞳の小人の女性だ。背が小さいが成人していてノーミードは、ノームの女性の呼び方だ。小人の女性といっても子どものような見た目ではなく。恰幅のいいおばちゃんをそのまま小さくしたような見た目だ。


「ありがと~、ところでこの二人を埋葬したいんだ。穴を掘ってくれる?対価は、この二人の身に着けている宝石でどう」


 その言葉にノーミードが難色を示した。


「ルノンのお願いでも人間埋める穴を掘るなんて嫌だね。わかっていると思うけど地面ってあたしたちが住んでるんだからね」

「うーん」

「お願いします。父上と母上を埋葬させてください」


 少年を見たノーミードの目が煌めいた。


「あらあらあら、美少年。美少年のお願い……。しょうがないわねぇ。やってあげようじゃないの」


 ノーミードが指を指すと死体が土に覆われ、まるでそこには元々何もなかったかのように平らになっている。


「サービスでここから移動させて上の道の近くにお墓作ってあげたわ。石もわかりやすくたててあげたから」

「そこまでしてくれたんだ。大サービス~」


 ノーミードは、赤い顔で少年を見つめる。


「サービスではあるんだけどお礼として、そこの美少年のキスが欲しいわぁ」

「キス?」


 少年は、ノーミードの前に跪くと手を取り手の甲にキスをした。ノーミードは、顔を真っ赤にさせている。


「これでよろしいでしょうか。父上が親愛を示す時にするのだとおっしゃっていました」

「うわぁ、想像以上でいいわぁ。この子将来絶対タラシ」

「そうだね~、この子のじいちゃんもそんなんだったからね~」

「そうなの~、うふふっ。それじゃあ、失礼するよ」


 そういうとノーミードの足元に穴が開いて落ちていった。


「見たでしょ。日も暮れてきたから僕の幌馬車に乗ってよ」

「世話になってもいいのでしょうか」

「友人の孫置いていけるわけないじゃ~ん。だとしてもどうやって上に連れて行こうかな」


 少年の足は、笑っていて登れそうになくロープを結んで上から引き揚げた。幌馬車に戻ると馬をなだめて少し進む。やっと休めそうな場所を見つけてそこで休むことにした。


「疲れた~」


 あくびをしながら少年を乾いた布で拭っていく。少年は、疲れたのだろう眠かけしている。


「うーし、アーニーくん寝ていいよ~」


 敷物の上に寝せると緊張が切れたのか健やかに眠りだす。


「こんな小さな子なのに」


 ルノンが同じ年頃を思い出すと少なくとも両親はいたし、うるさい姉二人が面倒を見てくれていた。


「僕のところにいるうちは僕が面倒を見てあげるよ」



 次の日に子どもの少年は、元気に起き出したようだがルノンは起きたくないとぐずっていた。それからしばらくしてルノンは、ごそごそ起きると朝食を作った。

 少年が出来なければ朝寝られるので楽だと考えて聞いてみたら作れないと言われならば料理出来るように仕込もうと決意した。


「ところでアーニー君、君は両親のお墓参りしたらどうしたいか後で聞くからね」

「どうしたいか……? それにアーニー君って俺のこと」

「そうそう、かわいいでしょ。あとさ、君をどこに連れて行こうかと思って。マシューのとこに連れてく? それとも別の親戚か。孤児院もありえるね」

「マシューお爺様のところに連れて行ってください。俺は、父上やお爺様のような立派な貴族になりたい」

「はい、はーいお安い御用ですよぉ~。それじゃあ、お墓参り後の行先は王国の王都のマリアージュ邸ね~!」


 ルノンは、アーニー君にこれまでの旅の話をした。出会った人や場所、宗教、種族すべて様々だが共通するのは良い出会いだったということだった。


「ルノンは、色々な場所に行ってるんだな」

「そうだよ~、一年かけて色々な国に周ってるんんだよね~。だかた知り合いもいっぱいいてね~。ドラゴンにもあったころあるんだよ~」

「ドラゴン!?いるなら討伐対象ですよね」

「若いのに頭堅いね~、アーニー君。人里から離れたところに棲んでるから大丈夫~」


 アーニーは、心配そうに見ているがルノンは特に気にした様子がない。


「アーニー君、もし君が何もしていないのに一方的に攻撃されたらどうする~?」

「反撃します」

「ドラゴンも同じ~、たまたま道で会っただけなのになんで攻撃してくるんだろうっていってたよ~」

「ドラゴンと話せるのですか!?」

「もちろん! ドラゴンと会った話聞きたい?」


 ルノンがそういうと子どもらしい目をきらきらした表情で見ている。


「聞きたい!」



 途中で補給を挟みながら王都に向けて進んでいく。


「アーニー君は、料理上手になったねぇ~」

「これくらい俺には簡単だ!」


 得意げな顔をしているが少し前までは、目玉焼きを黒焦げにして泣いていた。子どもの成長は早いと聞くが本当だと思う。


「俺さ、大人になったらルノンを嫁にもらってやるよ。ルノンって嫁き遅れだろ」

「アーニーく~ん、僕だからいいけど“嫁き遅れ“で怒るこわーいお姉さんが多いから言っちゃだめだよぉ~?」

「あっ、はい」


 こんな小さなアーニー君が嫁に貰ってやるというのが非常におませさんである。大人になれば貴族が魔女を嫁にするなんてことないってわかるだろう。


「アーニーくんは、どんな大人になるんだろうね~」

「頭撫でるな!ガキ扱いか」

「アーニー君は、まだまだ子どもだよ~」



 それからさらに日数が経ち王都に辿り着いた。

 王都に近づくにつれて、村から町にだんだん規模が大きくなって来ていた。だが王都は別格に大きい。さらに人も物も圧倒的に多い。獣人や妖精族、リザードマン、翼人族など多種多様である。


「マシューの家は確かこっちだったかな~」


 幌馬車をごろごろ動かして着いたのは、豪華な貴族街の中でもさらに大きな邸宅の前だった。見栄えを重視して洒落た家々が多い中、戦を想定しているのか邸宅を石塀で囲い立て籠もれるようにしていた。


「何者だ!」

「マシューに会いたいんだけど~。あっ、奇縁の魔女が来たって言ってくれればわかると思うよ~」

「奇縁の魔女って言ったら放蕩している魔女だよな。あんたが?」

「魔女っていったら婆さんが相場だよな。あんたみたいな眼鏡かけた学者みたいな見た目の女が魔女に見えないんだが」


 まったく信じていないようで取り次ぐ様子がない。


「何を門の前で騒いでいる……奇縁の魔女様!」

「お久~執事君」

「お知り合いですか」

「彼女は大旦那さまの古い友人です。姿は少女のようだが、姉二人と同じく恐ろしい力を持つ魔女です。奇縁の魔女様どうぞ中にお入りくださいませ。大旦那様も喜ぶでしょう」

「あっりがと~。ところでこの子マシューの孫で合ってる?」


 アーニー君を前に出すと執事君の顔に涙が浮かんだ。


「アーノルド坊ちゃま……よくご無事でご両親は……」

「じいや、私は運がよかったんだ。母が私をかばっていたとルノンに聞いている。父も母と私を」

「そうでございましたか。お入りください。旦那様も大変喜ぶでしょう」


 屋敷の中に入ると号泣したマシューがいてアーニーを抱き上げる。最後に会ったときよりも老けているが頑強そうだった。


「ルノン一度ならず二度までもありがとう」

「僕は、友人の孫が見捨てられなかっただけだよ~」

「本当にあなたは、変わらない。ここに連れてきたということは、儂が孫を引き取ってよいのだね」

「本人もそれを希望しているからよろしくね~。立派な貴族になるんだよ。アーニー君」


 ルノンは、アーニーの頭を撫でてやる。少し嫌そうな顔をしているが本当に嫌いだったらはっきり言う子だから問題ないだろう。


「ねぇ、待ってルノンもまだいてくれるよね?いないと俺が立派な貴族になったかわからないよ」

「僕は一カ所に留まっていられない。だからここでお別れだ」


 ルノンがそういうとアーニーがルノンのそばに寄ろうとするがマシューに肩を掴まれる。


「ルノン! 俺はまだルノンと一緒に旅がしたいんだ」

「子どもは駄目だよ。僕は色んな所に旅に行く。危険なところも多いよ~。それに立派な貴族になれないよ」

「それでもいい!」

「僕は君みたいな足でまといはいらない。じゃあね」


 部屋を出て扉を閉じるがアーニーの顔が涙ぐんでいるのが離れない。


「あぁぁぁ! ルノン———……!」


 少年の声がいつまでも耳に響く。

 ルノンは、旅をすることで自分を見出した魔女。新しい家族の縁が出来てこれから成長する少年にとって自分こそ足枷でしかないと思う。また縁があれば会うこともある。ルノンは奇縁の魔女だから。



 それから二十年以上経ちまたその国を訪れていた。姉のベルがルノンの見たかった古代魔道具を見つけたらしい。


「ふんふふーん」


 鼻歌を歌いながら姉さんの家に向かう。魔女集会で会っているが家に行くのは久々だ。しかし通りの賑やかさが前より寂しい気がするのはなぜだろうと頭をひねっていた。


「こっちが近道だったね」


 ルノンは、近道で大通りを曲がって路地裏に入ると必死に走る男が見えた。その男の後ろには、顔を隠した人物がナイフを振りかざしている。


「うわぁああ!やめろぉ!」


 男は、ナイフで心臓を刺した上で袈裟切りにされた。“袈裟切りにした”意味がわからないが心臓を一突きされて明らかに命が助からない。

 すぐに逃げなかったのが悪いのか男にナイフを向けられた。しかしナイフは、ルノンを刺すことなく目の前に落とされ男の手に持った筒を素早く開けるとルノンにかけた。その液体は、鉄臭くルノンはこれが血だと認識する。呆然としているうちに複数の足音が聞こえた。


「誰か死んでるぞ!」

「あそこで血まみれの奴がいる」

「あいつの下にナイフがある。アイツが犯人だ」

「私じゃない!」


 次々に男たちがやってきてルノンは取り押さえられてしまった。



 それからルノンがいくら無罪を訴えても意見が通らず牢に入れられてしまった。どうしてとふと思い出すのは、歩いていた時にみた表通りの風景だった。あの表通りには、人族しかいなかった。前は多種族も多く買い物していたのにまったく見なかったのはおかしい。


「そういえば風の噂で人族至上主義の貴族が台頭してきてるって聞いた気がするけどここまでのことだったというの?」


 ルノンのつぶやきに牢を見張っている兵の一人が話かけてきた。


「あんたも運が悪いなぁ。つい十数年前までは多種族が多かったがコンヴェル伯爵が人間至上主義を掲げてあの侯爵子息のマリュアージュ将軍が旗頭になったから勢いづいてるんだよな」


 マリュアージュ将軍というのは、あの日拾ったあの子のことだろうか。それともアーニー君のいとこでもいるのだろうか。貴族の噂については、2番目の姉が詳しいが今聞くことが出来ない。


「それと知ってか知らずかあんたが殺した男は、そのコンヴェル伯爵のご子息だよ。でもなあ、コンヴェル伯爵の息子っていい噂聞かないから死んでくれてよかったと思うぜ」


 その状況を聞いてみるとルノンは、コンヴェル伯爵に嵌められたのかもしれない。

 悪い噂のたつ息子を殺させ、この国で魔女を貴族の子息の殺害容疑で捕まえれば死罪に出来る。さらに少し考えればルノンが罪を犯していないことなど魔女たちはわかってしまう。この国にいる魔女は、怒りにより争いを起こすだろう。

 そのなかでも普段は、穏やかな一番上の姉の怒りはすさまじいいと想像できる。精霊と共にあり“幻想”の二つ名がつく実力者の姉なら国内すべての精霊に人族に力を貸さないことを約束することが出来る。もしくはすべての精霊を引き連れて他国に行きかねない。


「なんとかしなきゃ…」


 確実に魔女と人間の戦いは不毛な泥沼な戦いになる。その口火がルノンになるなどもっての他だった。


「ここを通せ」

「はっ、マリアージュ将軍! 宰相閣下」


 マリアージュの名が聞こえて思わず牢屋から入口側を除き見た。現れたのは赤い髪を短く刈り込み澄んだ水の色をした瞳の青年だった。その肩には、様々な勲章を貰っているのか松明の光をうけて煌めいている。そしてその後ろには、モノクルをつけた理知的な青年が微笑んでいた。


「奇縁の魔女殿ですね。私この国で宰相をしております。マロウと申します」

「マロウ……? もしかして姐さんの息子の」

「はい、そしてこちらは「アーニー君」

「私の名前は、アーノルド・マリアージュです」


 アーニーは、ルノンよりも小さかったのに頭一つ以上大きくなっている。


「再会の最中に申し訳ありませんが、奇縁の魔女殿の釈放が決まりました」

「本当ですか」

「はい、伯爵子息を殺害したのは伯爵が雇った暗殺者でした。暗殺者を捉えて自白させたので間違いありません。それと殺害方法であるナイフの刺し方が女性の力では到底殺害出来るものではないとマリュアージュ将軍が証言しました」


 アーニーは、ルノンをかばうようなことをいうのがうれしくもありごめんなさいという思いもあった。


「伯爵は、人族至上主義を実現するために大金を各所にバラまいていました。ですが事業がうまくいかずに金策に困りご子息に多額の保険金をかけて殺害させることを思いつきました。そもそも保険とはわかりますか」

「えぇ、帝国で始めた制度ですよね~。なるほどこちらでもそういう犯罪が出てきましたか~」


 国としての地位と安定的な金融を達成した帝国が、最近売り出しているのが何かあった時の保険だった。取り扱う会社が多いものの大まかに死亡時の遺族への支払いや荷物への品質保証としての保険が主だった。


「そのうえで魔女を排除するために魔女を犯罪者に仕立て上げ。それも無実の名のある魔女を使うことで多数の魔女の反旗を翻すように仕向けようとしました」

「それは僕も同じこと考えました~。確実に姐さんが激怒します~」

「えぇ、母上がだいぶ荒れていました。おかげで宥めるのに時間がかかりこの時間になってしまい申し訳ないといっていました。ここに出られたら我が家においでください「いや、俺が連れていく」


 アーニーは、ルノンを荷物のように担ぎあげるとルノンの静止も聞かずに城を出て馬に乗り見覚えのある侯爵邸に着いた。

扉を開けると玄関にはメイドや執事が並んでいた。


「「「おかえりなさいませ」」」

「湯の準備をしてくれ」

「アーニー君降ろして!」


 ルノンがいくら力を入れて暴れてもアーニーの腕の力が緩まない。とある部屋にたどり着くとルノンをベッドに落とした。


「痛っ! なにすんの」

「あれからまったく変わらないんだなあんたは…」

「魔女は基本的に不老で寿命が長いからねぇ~。さすがに致命傷負ったら死んじゃうけど~。うっ」


 アーニーは、ルノンの首に手をかける。一見ルノンの首を絞めるような体制だが手に強く力は入っておらず苦しくはない。


「あんな理由で殺させやしない。あんたが死ぬなら……俺があんたを殺したときだ。あのときから愛しているルノン」


 下からアーニーを見上げるとその顔は、昔みた両親が亡くなったとき同様に泣きそうだった。大きくなって男らしくなったのにそこだけは変わらないようだ。


「あ……い?」


 その時部屋の外が五月蠅くなり扉が壊された。


「ルノン! 大丈夫!! ってなんで首絞められてるのよ!」

「あっ、姐さん」

「アーノルドお前というやつはやりすぎだ。頭を冷やせ」


 部屋に入ってきたのは、ベル姐さんとマロウそしてマシューだった。


「ルノンは連れて帰りますからね!いくよルノン!」

「うん」


 ルノンの脳裏に浮かぶのは、出会ったころにアーニーに言われた嫁にしてやるという言葉だった。あとで姐さんに相談しよう、今はひたすら疲れて眠い。

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