第2章 運命との戦い
第1章のサブタイトルを「幼少期」から「自分の運命」に変更いたしました。
朝になった。今日から授業が始まる。クラス発表があるため少し早めに出ようと思い制服に身を包み期待に胸を膨らませ、アリアと一緒に自室のドアをくぐった。
「やあ、遅かったな。」
「朝早くから申し訳ない。」
前言撤回。朝から厄介なものに会ったわ。
「おはようございます。なぜここに?」
「やだなぁ、敬語なしでいいじゃないか。」
「ここには私たち以外の使用人もいるんですよ?」
「人払いは済ませてあります。」
「外に出たらいつもの『王子様』に戻るから。一緒に教室まで行こう。」
「強引な男は時に嫌われてよ?」
「恥ずかしがりやの姫を連れ出すには少し強引なのがいいんですよ。」
いつもの『王子様』に戻ったラザーは顔に似合わない甘い言葉を吐く。顔がキリッとしたクールな感じなんだから性格も硬派な方がいいと思うけれど。
西にある公爵・王族寮は四つの寮の中で1番校舎に近い。近いといっても歩いて20分ほどかかるため、馬車で移動する。…今度自転車作ろうかしら。
馬車の中に入り、ラザーがおもむろに口を開いた。
「さて、俺たちは同じクラスになる。で、ゲームをしてたならわかるだろうが同じクラスに誰がいるか分かってるな?」
私とアレクは頷くが、アリアは頭にはてなマークを飛ばしている。そういえばアリアに話していなかったわね。
「ごめんなさい、アリアに話すのを忘れていたわ。」
「そうなのか、では俺から説明しよう。」
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「俺たちのクラスは成績優秀者が集まる。ロウデ学園は身分とかにこだわらないからな。そのクラスに平民がいるんだ。平民は2人、1人は多分クレアが話しただろう?黒髪に青眼の女子だ。あいつがヒロイン。つまり、ゲームの中の俺の恋人だ。あいつは4位だから俺たちのクラスに入った。そしてもう1人。金髪金眼の男だ。あいつは俺たちに続く3位だ。綺麗な見目をしているからすぐにわかるだろう。そして、そいつは王族だ。第二王子。」
そう、私たちのクラスには第二王子が平民として入学している。ゲームの中では最後、第二王子が身分を明かし、それまでのクレアのイジメを見たという保証人になり、クレアを隣国に嫁にやった。つまり、私たちの敵。
「しかし、なぜ王族としてではなく平民として?第三王子と第二王女は妾の子なのでわかりますが、皇太子、第二王子、第一王女は正妃のお子ですよね?」
「ゲーム内ではそれは書かれていなかったからわからない。クレア、そんなに怖い顔をするな。」
アリアの質問にラザーが答えていると、不意にラザーが私に「怖い顔」と言った。
「そうですよ。ここはゲームとは違います。私たちの態度も違うでしょうから、第二王子が敵か味方かはまだ分かりません。」
何故考えていたことがわかったのかと思っているとアレクに「顔に書いてあります」と言われた。
公爵令嬢として、自分の心を隠す術は身につけているはずなのだけど、同じ転生者と知っている者の前だからか気が緩んでいるのかもしれない。
「そうだ。アレクの言う通り、第二王子はまだ味方とも敵ともわからない。」
「そうなると、万が一のために対策を考えなくてはなりませんね。」
「いや、クレアとアリアは俺たちと行動を共にしろ。」
反射的に「え〜…」と思ってしまったのだが先ほどの反省を生かし顔には出さないように気をつけながら何故か問いかける。
「ゲームの中ではクレアの一方的な片思いだった。そして俺…ラザーはクレアを避けていた。それが周りには仲が悪いように移ったのだろう。」
「だから仲良くしてゲームとは違う道を進むと?」
「そうだ。現にゲームとはズレが生じている。」
「え?どこもずれなど…あ、」
「そうだ。ゲームでは俺たちはすでに婚約者だった。」
「しかし今、ラザーとクレア嬢は婚約していない。つまり、ゲームとのズレが生じているとなります。」
アレクが最終的に全てまとめて言ってしまったので、台詞を取られたラザーは隣で文句を言っていた。だが、そんなことよりも…
「では、隣国に嫁ぐ可能性は低いわけですね。」
「そうだ。だからその可能性を0にする為に仲良くする必要がある。」
なるほど、と私とアリアが納得したところで馬車は校舎の前で止まった。私たちは頷いて、いよいよ自分の運命と戦おうとしていた。