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5 親友の存在

少し長めです



 異世界に迷い込んだ時の生徒たちの不安はどこへやら。俺達は順風満帆に樹海を彷徨っていた。



 まあ、当たり前と言えるだろうか。俺達の持つ能力は破格の代物。空想の物に近いそれを自由に、更に楽々とモンスターまがいの生き物を狩り放題となれば、誰もが楽しいだろう。極論から言って、弱いモノいじめは誰だって楽しいのだ。

 俺はぜんっぜん楽しくないけどな。ストレスしか溜まってないわ。


「ほら、下僕!! さっさと歩く」

「てめぇにはその価値しかねえんだよ、もっと俊敏に動け!!」

「ちょっとやめてよ、それじゃゴキブリみたいじゃない……」

「あ、そうよね」

「「「あはははは!!」」」


 そう、弱者を苛める強者はいつも傲慢だ。自分の力に過信し、溺れ、そして堕落する。どこかの小説か、漫画かで聞いた言葉が頭に反復される。本当にその通りだな、どうしてくれようこのアマたちを。

 まず、俺の『バストパワー』で様々な能力を手に入れたら、絶対に俺に服従させてやる。他の野郎共もそうだ、とりあえず俺の発言には絶対服従してもらおう。……ふふふ、考えるだけでよだれが出るぜ。

 ま、それだけの環境も、揉めるだけの人脈もないんですがね。

 毎日の様に肉体と精神に多大なる負荷が掛けられるこの現状、こんな妄想をするしか楽しみはないのだ。



 ああ、楽しいことしてぇ。

 俺だって仲いい奴とトランプとか人生ゲームとかしてぇわ。そんな時間も暇も友達もいないけど。



「おい、加藤。加藤」

「さーて、仕事に戻るか」

「ちょ、聞いてます? 加藤秀さーん、おっぱい星人、変態ーー」

「……あっ?」

「あ、すいません調子に乗りました。怒らないでください、殴らないで」


 声を聞くだけでイラつくその声を無視しようとしたのに、思わずブチ切れてしまう。お前、全然懲りないよな。ホントに。


「わるい、わるい。ただちょっと気になることがあってな、まあ座れよ」

「……んだよ」


 時刻は夕暮れを過ぎた夜。サポート系の能力者によって作られた簡易型のテント、中心にあるキャンプファイヤーを囲む形でワイワイと騒がしく皆がどんちゃん騒ぎをしている。祭りの賑わいのように楽しげだが、俺にはただの騒音にしか聞こえない。ただただ、苛立ちしか覚えないのだ。

 表情に出てたのか、加藤は忌々しいサポート系女子達が作った紙コップで水を注いでいく。随分を冷えていて、樹海の湿度の高い蒸し暑さにはありがたく思える。


「疲れてんだろ、休めよ。加藤」

「なんだよ、気持ち悪いぞお前……」

「バカ、友人の好意を踏みにじる奴があるか。大人しく甘えときゃいいんだよ」

「それが気持ち悪いってんだけど……ま、いいか」


 束の間の休息。本当に、息をつく暇すらないからな。クラス全員の雑用係を請け負ってるわけだ。身体は四六時中酷使される事となる。

 ……ま、こいつも同じだよぁ。結局、江島は俺と『同類』だとしみじみと思う。



 俺は学校に通っていた時はあまり友達はいなかった。それは江島も同じだが……クラスの総意として少し違った変人と言う立ち位置なのだ。

 別になんてことはない。そりが合わない、どこか噛み合わないって感じだ。俺自身、少しくらいは自重した方がいいかとも思うが……どうしても、変に口が滑って相手を不快にさせる節があった。

 そのため、最初に薄く繋がる仲はあっても数週間もすれば孤立している。そりゃそうだ、本音をポロポロ零す友人より、胸を内を隠しても笑いあえる友人の方がいいに決まってるのだから。


 小学、中学、高校と徐々に友の数は少なくなっていき、二年になる時には完全にゼロになった。

 この江島くそやろうを除いては。



「まあ、お前が日に日にノイローゼになる姿をおかずに飯を食う。これ程楽しい事もないけどな、あっはっは!!」

「……殺す、ぶっ殺す」

「やめろ、加藤。その疲労度で恨み妬みは怖い」


 こいつはムカつくが、裏を返せば俺の現身の様に思えてくる。そう考えれば、憎らしくないか……いやムカつくな、うん。

 少なくとも、こいつが俺の親友なのは間違いないのだから。


「あっれー、江島君」


 ちらりと背後を見やれば、随分といやらしい笑顔をした男子数人。こいつら、第一部隊の攻撃系能力者か。


「何やってんだよ、こっちで飯食おうぜぇ。そんな無能と一緒に食わないでさ」

「楽しいか、そんな奴構って。俺だったら絶対やだね」

「おいおい、可哀想だろ。か・と・う・く・ん、が」


 口を押え、くつくつと笑う様はどう見ても苛めっ子のそれだ。それもそうだろう、圧倒的な火力差があるんだ。どれだけ大層な態度を取ったとしても、反撃されることはない。ましてや、俺のような無能力者同然の男は――。



「やめろよ、河木」



 当然、周囲が静寂と変わる。江島が放ったどす黒い、怒りの籠った声を発したためだ。

 空気が変わったと察したのか、背後の生徒たちは動揺している。が、言い出しっぺの河木は自信満々に鼻息荒く言いだす。


「何言ってんだ、江島。ちょっと言ってる意味が―」

「俺のダチの悪口やめろってんだよ、いくら強力な能力持ったからって、調子乗ってんじゃねえぞ」

「……ぷっ」


 真剣な面持ちを、決壊させた。河木は腹を抱えて森全体に響かん声で笑うと、流石にどんちゃん騒ぎの生徒たちも動きを止め、とたん、一帯が静かとなる。


「江島ァ、お前状況理解できてねえんだな」

「あん?」

「この状況で俺に歯向かえばどうなるか、身をもって体感してみるか?」


 思わず、その言葉に息を呑む。

 河木雄介かわきゆうすけの能力は先日述べた、洪水フォールなのだ。正確には『自然洪水フォレスフォール』。両手から自分の調節できる範囲で水と噴出出来る、強力な能力。蛇口程度はもちろん、相手を溺れさせるほどの強力な水圧まで……。

 こいつのお蔭で俺達は水を貰い生活している、そういっても過言ではない。


「むっかしから、気に食わねえんだよお前ら。人の弱み、弱点を掴んじゃズバズバ言い合ってよ。なんだ、遠目から本人に聞かせて嫌がらせか? あ?」

「……あれは、他の奴らも言ってただろ」

「関係ねえんだよ!! てめえらは教室の中でゲタゲタ笑ってただろうが!!」



 ああ、あの事か。



 数か月前、江島が昼休みに話した笑い話を思い出した。なんでも他のクラスの奴らが文化祭の準備か何かで運んでいた大量の水を思いっきり河木が被ったって事件。

 その場にいたらしい江島はすごい勢いで駆けてきた、笑いを堪えた顔で。


『か、河木が……水被って”濡れ河木“に、ぷくくくく、あっはっはは!!』


 正直、こいつの壺が理解できなかった。後から聞いた話で、河木も災難だなーくらいに思ってはいたが。


「あれのせいで俺のあだ名はビショ河、濡れ河……挙句にはヌチュ河だぞ!! ふざけんじゃねえよ!!」



 いや、ちょっと待ってほしい。



 おれぜんっぜん笑ってないけど? むしろあの後『大丈夫か、ま、そのうちいいことあるって』ってフォローしといただろ。


「加藤!! てめぇは俺に追い打ちかけるかの如く声かけてきただろが!! すっげぇ笑顔で『よかったな……頭から水、いや河を被って……河木、ぷっ』ってなぁ!!」



 ものすごい記憶改変が行われていることに動揺を隠しきれない。俺そんなしょうもない奴じゃねえから。

 てか、状況を整理すれば俺全然悪くねえじゃん、元はと言えば江島が勝手に巻き込んで、河木の逆鱗に触れただけ。まったく関係ないですけど、むしろ無罪。



「やめろよ、河木。加藤の件は俺が謝る、だから許してはくれないか」

「まて、江島。てめえ罪のすべてを俺に押し付ける気か、最低か」



 とりあえず、親友が犯そうとしている暴挙を止めに入る。

 が。



「最低はてめえだろ、加藤!!」

「お前、悪口言われるヤツの気持ちわかんねえのかぁ!? 小学生からやり直せ!!」

「ああ、やっぱりそういう奴なのね。加藤って」

「サイッテー」

「おっぱい星人、さいてー」


 気がつけばクラスのほとんどの生徒が周りに固まっていた。全員が俺に罵声の類を浴びせ、挙句にはゴミまで投げられる始末。第三部隊女子達も仲間に加わり、『ああ、そういう男だよね、加藤って』と言わんばかりに隣の女子に視線を送る。



 やめろ、俺の尊厳のこれ以上奪うのは……。SAN値が、SAN値が削れる……。



「何をやってるんだ、お前ら!!」



 一人の怒声によって、クラス全員の罵倒は鎮められる。声の主は担任の  だった。それに続き、栄田と實下も続いている。


「状況を説明しろ、どういう事なんだ。これは」

「あの、加藤のヤツが河木に喧嘩売ったみたいで……」

「……本当なのか、加藤?」


 おい、野次馬A。勝手なこと吹き込んでんじゃねえ。

 そう口に出そうとしたが、この空気感をみれば明らか。言える空気ではない。皆が俺を見つめ、時には睨み、『またこいつか……』と言わんばかりの負の感情を露わにしていた。

 河木はクラスメイトに押さえつけられ、激昂。話を出来る状態ではなく、事の状況を解説できるのは、俺だけ。江島にも出来るが期待はしていない。そういう男じゃないし。

 絶体絶命であった。



「待ってください、先生」

「なんだ、江島」

「河木が事の発端ですよ。あいつが加藤の事、バカにしたんすから」

「……なに?」


 ちらり、と背後の河木を見つめる。えげつない形相で睨んでいてまともに話せる状態ではないし、担任も何とも言えないのだろう。

 だが、皆は江島が第三者だと認識している。つまり、俺を庇う形になるのだ。



「だから、加藤は悪くないです。許してやりましょうよ」

「……そうか、だったらいいんだ」



 クラス全体が江島の行動力に呑まれて、言葉を失っていた。何故か。



「あの自己中の江島が、加藤を助けるなんて」

「祟りよ、近いうちに祟りが襲ってくるのよ!!」

「おい、こんな中にお祓い出来る奴いるか!?」

「わたし、できる」

「まじで!?」



 何やら不穏な声が周囲に広がっている、がそんなことよりも何なんだ、これは。



 俺が愕然とこの状況を見つめるのも、無理はない。そう思いたい。担任はやれやれと肩を落とし、栄田には今後気をつけるよう注意を受けた。實下には「死になさいよ、カス」とぼやかれ、他の生徒には煙たがられる視線を浴びせられ……。

 え、なに。俺何かした? ただ江島の誘いに乗って水を飲んだだけなのに?

 理不尽な立ち位置、環境、そして仕打ち。どれもこれも異世界に転移した瞬間に降り注ぎ、体力と精神力を削られていくのだ。



 よく考えれば、こいつが事の始まりであり俺は全くの無関係である。

 獲物を自分で張ったトラップにおびき寄せ、引っかかった所をあたかも恩人に見せる鬼畜の所業となんら変わりはなかった。

 まさに悪役のする事だ。自分の非を身近の人間になすりつけ、挙句に手柄と変える。手腕は一流だろうが精神は極悪人のそれだ。




 ちらりと隣を見やれば、そいつは満面の笑みを浮かべて大笑い。




「ええ、本当にどうしようもない上、自己中心的で、かつ自分の立ち位置すら把握できない阿呆ですからね。俺が面倒を見てやらないとまともな生活すら出来んのですよ、あっはっは!!」

「死に晒せ、くそやろぉぉぉぉぉ!!」

「ぐふっ!?」



 自制など俺の辞書にはない(断言)。



 調子に乗ってべらべらだべる親友くその顔面へとダイレクトアタック。顎が明らかに歪む様を無視しつつマウントを取り、集中攻撃。



「ちょ、やめろ加藤! 俺が守ってやったろが!!」

「てめえがすべての元凶だよ!!」



 こいつの行動原理は単純明快だ。自分の為になることしかしない、俺と付き合っているのも自然体で喋れる友人がいるからだろう。

 でなければこいつは第三者に不快になる言葉を吐き続け、友人は一生出来ないそう断言できる。俺と言う友人がいる事に感謝しろ、えしまぁ!!



「なんで感謝されるべき友人にマウントとられ、ふげぇぇぇぇ!!」



 その後、クラスの人間に暴行とうぜんのけんりを止められ、親友にんげんのくずは事なきを得

たが、これにより俺の信用は地に落ちた。

 『あいつ、この状況でいかれてんだ。許してやってくれ』と生徒全員にホラ吹いてる友人一名の行方は知らない。どうせ朝には帰ってくるだろう。


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