表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4 無能力の代償


「ほら、さっさと歩く、荷物を運ぶ!!」

「あんたにはそれしか取り柄がないんだから、この変態」

「おっぱい星人、さっさと来なさい!! とろいわねぇ!!」



 量にして体重の二三倍はあるかという重さ、パンパンに詰められたリュックサックを背負い無理やりに歩を進める。その光景を女子数名が罵声を浴びせ、時には笑われる。思わず張り倒してくなってくるがそんな状況でもないし、立場でもない。


 どうして、こうなった。


 実際の所、心当たりしかないが愚痴を零さずにはいられない。こき使われて、くったくたの顔になりつつ、俺達は樹海をなって歩く。



 担任と栄田の案によってクラスは三分割に別れ、グループを作る事となった。

 第一部隊、栄田を筆頭に戦闘能力を主体にした前列軍団。

 第二部隊、担任と實下を筆頭に防御やサポートに特化した能力の後方軍団。

 そして、第三部隊。こちらは能力的に何とも言えない、グループ分けできない生徒たち。


 ぶっちゃけて言えば、戦闘に役に立たない生徒たちである。俺に関して言えば、能力がないに等しいだろう。現段階では。

 でも、胸さえ揉めば俺だってなぁ!!



「可哀想、加藤君。實下さんにあんなになるまで」

「いいじゃない、三ヶ崎。あんつはそういう役割なんだし」

「そーそ、それしか取り柄がないむのうなんだからさー」

「まあ、自業自得と言えばそれまでだけどね」

「確かにそうよね、ほんっとサイテー」


 暇さえあれば罵声を飛ばしてくる女子ども。覚えとけよ、ただでは済まさんぞ。


 第三舞台は女子の割合が九割だ。どうやら江島の話で男子の八割方が攻撃、防御系の能力に振られているそうだ。他の二割はサポート系に属していて親友の江島もその例に漏れない。

 江島の能力はさておき、第二部隊の後方で手を振っている所を見ると怒りが煮えくり返ってくる、なんさその満面の笑み。殴りてぇ。

 つーか、この仕切り方だったらまるで軍兵のようだな……まあ、状況的に言えば相当危ういし、近いものがあるが。



 担任と栄田の話が纏まり、生徒たちにも情報が行き渡ってから一夜置いて、行動を開始した俺達だったが思っていた以上にこの世界の弱肉強食は激しいようで。

 数十分ほどを目安にして猛獣が襲ってくるのだ。それも虎やライオンの類に牙やら巨大な爪を付けたような、小学生が考えたような『ぼくがかんがえたさいきょうのどうぶつ』である。

 にも関わらず、それをものの数秒で撃退した。攻撃系の能力を持つ彼ら(男子)の圧倒的とも言える戦力によるもの。火炎フレイム洪水フォール深緑力フォーレスト岩石ビックロックと様々な中二属性を用いて、見事に制圧していったのである。

 防御を特化した第二部隊も前線で活躍した。猛獣の中には遠距離で攻撃するヤツもいたからだ。だが、能力で完全に受け止める、またはかわすと言った能力の便利さ。サポート系も体力回復、不調や疲労の状態回復、指揮やテンションを上げると言った付加効果を持つ者まで、数々の活躍を見せた。

 江島の能力は仲間にムカつく言葉、もとい罵声を浴びせ激昂させて攻撃力を増強させる『感情増強(m9(^Д^)プギャー)』だったからな。あいつ、戦い終わるごとに仲間にボコボコにされてる。ざまぁ。てかどう読むんだ、これ。




 え、じゃあ第三部隊はどうかって? はっはっは。




「はい、上がりー」

「あー、また負けたァ」

「へへーん、あんたがウチに勝てるわけないじゃん」

「悪いねー、エミ」

「むー、もう一回!! もう一回!!」



 参加どころか、遊んでたよ(白目)。



 そう、俺達のグループの持つ能力は『戦闘で役に立たない物』なのである。ちなみに、今のはボードゲーム系がいくらでも出てくる能力のトランプでババ抜きをしていた。他にも好きな食べ物、お菓子が出てくる、いくらでも防災グッズが出てくる、欲しい本が具現化できる……いや、便利だけどさ。便利だけどいいのかそれで。

 それならまだいいが、中にはこの状況で一切使えない能力持ちもいる。そう、俺の事である。



「あー、疲れた。加藤お茶取ってよ」

「なんで、おれが」

「ん、いーよ別に。ただ、あんたの分の食べ物は回さないけど」

「……ぐっ、ぐぐ」



 数十メートル先で皆が命がけで戦ってるさなか、俺は震える手で女子達のお茶くみをやってたよ。なんだこれ、なんだこれ。

 戦闘が終わった後も、俺達は第三部隊の風当たりはキツイ。まあ、真剣に戦っているのだから当たり前の話なのだろうが、女子達は違う。食糧や生活、娯楽グッズを出せる彼女らは相当重宝されるのだから。それにいい気分になったのか、彼女たちは日を重ねる毎に態度がデカく、天狗になっていく。



 逆らえば生活すら危ういのだ。当たり前の話だが……その接待役として、俺は任命されてしまった。


 あの時のクラス総意の『当たりまえだよね、加藤君』という無言の圧力を思い出すだけで涙が止まらない。俺は働かず食料を貰っている身なので拒否権すら与えられないのだ。

 気がつけば、ただ飯食らいの召使としての役割を確立した。確立させられた。もちろん高飛車女子だけじゃない、戦闘で疲労したと言う男子のマッサージ、癒しの提供、さらには食事まで。てか、お前ら疲れたとか言ってんけど、鼻ほじりながら対処してただろ、殺すぞ。

 でも、そんなことを言える立場でもない。立場すら出来ないもう、行きてるのがつらい……つらいよ。

 なお、いい気になった江島がm9(^Д^)プギャー、と泣きながら笑ってるのを見て思わずグーパンで殴ってしまったが、特にクラス間のお咎めはなかった。活躍してんのにお前も大変だな。同情はせんが。



 そんなこんなで、一週間が過ぎようとしていた―――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ