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2 能力の誤字

「おかしくなっちまったか……」

「ああ、この状況じゃ仕方ねえだろ。一人や二人気が変になる」

「加藤、お前の話な」


 なんだよ、可哀想な目でこっち見やがって。

 目を覚ませば、この状況下がたちの悪い夢じゃないと見せつけられる。全身の痛みを感じつつ、胡坐を掻いた。

 

「お前、中学の時から変な奴だなーとは思ってたよ。でもな、欲望を口に出す変態とは想像もしなかった。……縁、切ろうぜ?」

「ちょっと待て、てめえも落ち着け」


 一度の失言で俺は親友すら失うのか。


「違うんだって。てか、元々は江島のせいだからな」

「おいおい、変態が移るだろ。やめろ」

「移るか」


 まあ、冗談はさておき。と、江島はため息をつく。

 

「三ヶ崎が好きな事は知ってたぜ? でも、そんな素振り見せなかったじゃねえか。どうしたお前」

「えっ?」

「知らないと思ったか? いっつも三ヶ崎の席ばっか見てんだろ。男子全員知ってるぞ」

「いや、まあ、うん……」


 思わずきょどって目線を逸らしてしまう。江島はまだしも、クラス全員が知っているとか……耳が熱い。顔全体が沸騰しそうである。

 

「なんだ、人生終了する前に出したこともない勇気を振り絞って告白でもしてみた、ってか?」

「バカ、んなわけねえだろ」

「じゃあなんで」

「おっぱいを揉んだら……チートが手に入るって書いてあんだよ」

「……」

 

 無言で肩に手を置くのやめろ。


「マジで頭に来てたか。ゴメン、気づいてやれなくって……じゃあな」

「待て、逃げんな」


 爆発寸前の爆弾から逃げるような、逃げ足の速さ。

 改めて、俺の失態の理由を説明。スキルが明らかに変態仕様な点、思わず放った独り言で自爆した点。

 その時の江島の表情と言えばまあ、可愛そうな人間を憐れむそれだった。


「まあ、どんまい」

「やめてくれ、そんな憐みの目で俺を見つめるのは」

「だって他の奴らの見たか? 相当いいのばっかりだぞ」


 江島の話によればクラスの半数以上が攻撃系のチートならしく。火や水、電撃などの中二心くすぐられる能力までずらりと揃っているのだとか。

 その他のチートもサポート系、ステータス強化系、回復系と間違いなく後方支援で役に立つ物で役立たずなのは一人もいない。








 俺を除いて。









「……ナニコレ」


 まさに仲間はずれ。おめえの席ねえから!! 状態である。

 

「ばか、逆に考えろって! おっぱい揉めばチートが手に入るって事は……?」

「そうか!!」

「ああ、いくらでもチートが持てる!!」


 江島の言葉に、全身に力が蘇ってくる。

 発想自体をマイナスに考えすぎていた。能力内容は『揉めば揉むほど能力が手に入る』。

 つまりは、胸さえ揉めば俺はこの状況下で最強の人間になるわけだ!!


 揉む胸があれば。


「それだけ人望があれば、リア充の仲間入り出来るだろうな」

「欲望はあるのにな」

「あっはっは、死ね」


 人望があっても胸が揉めるわけじゃないだろう。軽口を叩く親友の首を絞めつつ、俺は最終手段を決行する。


「ってわけで、中学からの仲だ。胸揉ませろ」

「はっ? 何言ってんだ」

「説明欄に書いてあんだよ。いいだろ、減るもんじゃないし」

「いやいや、ちょっと待て加藤」


 いつになく真剣半分、軽蔑半分か。俺にはもはやこれしか方法がない。


「お前、正気か? 異性の胸じゃねえとチートが入らねえって書いてあるだろ」

「よく考えろよ。こんな狂気的なチートが許されると思うか? だったら誤字の一つや二つはあるに決まってる」

「ちょ、やめ」


 壁に密着させて、ゼロ距離状態。無理やりに胸元の開いたYシャツを脱がせる。

 すまない、親友よ。だが俺の希望のための犠牲となれ。俺の思考状態は無の境地に達しつつあった。


「ぐっ……どうだ、加藤。チートは手に入ったか!?」

「いや、何も起こらねぇ」

「そんなはずないだろ、こんな思いしてよぉ……もっとよく確かめろ!!」

「く、っそおぉぉぉぉ!!」


 まるでその手の職人のような手さばきで親友の胸を揉みしだく。その行動原理は別に、どうと言う事はない。決して卑猥な意味があったわけじゃない。


 ただ、それを第三者が見たらどう思うのだろう。

 男が男を押し倒して、半裸の状態でイチャイチャしてる。


 クラスの半数以上がこちらを神妙な面持ちで見つめ、ある者は目を伏せ。ある者は見なかったことにした。一部の女子はなぜか興奮している。


 もう、この空間での居場所は俺にはない。

 その事実に気がついたのは数分後の事だった。


 あと、表記には異性の胸と書いてあった。誤字じゃなかったよ。


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