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1 始まりの樹海

 


 どうしてこうなった。



 そんな言葉が一番始めに頭に思い浮かんだ。おそらくこの状況下にいる奴ら全員が混乱しているだろう。


「一体どうなっているんだ」

「どういう事だ? ここはどこなんだよ!!」

「ゆかぁ私怖い……」

「大丈夫よ……多分、大丈夫」


 クラス全員が混乱し、慌て、騒ぎ出している。気がつけば俺達は全く知らない見知らぬ地に足を踏み入れた。いや、気がついたら足が付いてた。

 見たこともない風景が広がる。樹海には足を踏み入れた事はないが、おそらくピクニック気分で向かって遭難したらこんな気分になるんだろうなぁ、と漠然に考えが過ぎった。

 学校の授業中、俺達は森の中で遭難していた。

 

「おいおい、まるでSFかなんかだな」

「お前余裕だな」


 まるでプチ旅行に来たノリで話しかける男、彼の名は江島巧。中学からの悪友である。

 

「面白いじゃねえか、加藤。こういうのは大抵、別世界に来ちゃいました系だ。大体は未知の世界に突然追いやられ、逃げ回り、謎の生物に喰われる。一連の流れだ」

「いやぁぁぁぁ!?」

「ちょっと江島、なんてこと言うのよ!!」

「んだよ、ちょっとお茶目っ気出しただけじゃねえか」


 いや、どう考えても脅かしてたけどな。

 確かにこの状況は異様だ。第一、俺達は教室にいたはずなんだから。


「皆さん、落ち着いて!! まずはクラス全員が安全か確かめましょう!!」

「おお、栄田はこの状況でも真面目だな」

「お前はふざけ過ぎだっての」


 江島の後頭部を殴る。緊張感を持てっての。

 委員長である栄田正博は随分と冷静だ。いや、正確にはクールにふるまってるだけか。汗がだらだらなのが遠目でもわかる。

 おそらく江島の方が冷静だろう。なんも考えてない感じだ。考えてないんだろな。


「先生、これは一体……」

「いや、俺にも分からん。何がどうなってるんだ」


 担任の川島と委員長が深刻に話し合っている。この状況じゃ、助けを呼ぶにしても呼べないだろうな。

 スマートフォンの待ち受けを見つめ、ため息をついた。まあ、江島の言う通り【圏外】ってのはお約束だな。少なくとも日本じゃない。

 漠然とした恐怖が俺を襲う。ここで俺は死ぬのかなー、と。


「だいじょぶ、だいじょぶ、何とかなるって」

「何となるってな……」

「加藤、ちょっと頭使ってみな」

「はっ? 使っても状況は変わんねえだろが」

「違う違う」


 言っている意味が分からない。


「なんか……念じる、考える、みたいな。この状況を何とかしてくれ!! みたいな気持ち」

「漠然としすぎだろ……」

「いいから、いいから。騙されたと思って」


 こいつの言う事っていつもわかんねえよなぁ。

 ニヤニヤと隣で見つめる江島を横目に考える。確かにこのままじゃヤバいだろうな、水も食料も持ち合わせてないし。考えられるのは餓死……いや、その前に脱水か。まて、下手すりゃクラス全体で暴動、もっと悪い状況としては共食い……。

 相当ヤバいじゃねえか、今すぐにでも対処しないと。


【  カトウ スグル

  所有能力『興奮生産』 】

 

 なんだこれ。


「おお、やっぱり出たか。だとすりゃ、クラス全員これ持ってるな!!」

「どういう事だよ、説明しろ」

「まあ、落ち着けって。実はお前と同じイメージが俺からも出てきたんだよ」

「で、これは?」

「能力だよ、能力!! 炎吐いたり、水を湧き出したり、超パワーでビルをぶっ放すとかだな!!」


 なにそれ、スーパーマン?

 まあ、何となくイメージは沸いてきた。でもだったら俺のこの能力は何なんだ? 興奮生産なんて聞いたことも……。


【 『興奮生産バストパワー

  異性の胸を揉めば能力を手に入れられる 】


 ちょっと待ってなんだこれ。

 

「どんな能力だ? なあなあ」

「マジデイミワカンナインデスケド」

「どうした、カタコトだぞ」


 変な冷汗が全身から溢れ出してくる。

 落ち着け、冷静にこの状況下を整理するんだ。

 まず、この状況でこんな能力は糞の役にも立たない事。俺は女子と手さえ握ったことがない事。第一、異性のおっぱいなんて揉めるわけあるか頭湧いてんのか……!!」

「落ち着け加藤……くび、くびしめてる」


 ぱっ、と江島の襟を離す。

 マジでこれなんだよ、夢だとしてもたちが悪いどころの騒ぎじゃねえよ。

 おそらく、あいつの振る舞いからしていい能力を手に入れたんだろう。周りを見渡せばちらほらと能力の事に気づいた素振りの奴もいる。どいつもこいつも余裕で、勝ちを目前にし笑いを堪えているような表情だ。

 今の俺の能力を見せびらかしたら顔面崩壊するだろうな、クソが。


 ふと、頭に過ぎる。

 高校一年の時、一目見て惚れてしまった女子の面影。

 華奢な体つきに透き通るような黒髪、身長は他の女子より一回り小さい、人形のような……三ヶ崎楓の事だ。

 今までの人生、女に興奮した事はあっても女性に本気で惚れたことはなかった。

 ……ああ。


「……三ヶ崎」

「ん、どうしたの。加藤君」


 なんてことない。ひとり言のような感じで言葉にして、目の前に三ヶ崎がいただけの話だ。





 でも、俺は言葉にする。






「おっぱい揉ませてくれないかな」






 数時間くらい記憶がない。

 話によればクラス中の女子男子にリンチにされて、気絶していたのだとか。




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