婚約破棄後の選択肢がすでに一つしかありませんでした
「ねぇ、ヒース。
私と踊ってくださる?」
背筋を伸ばし、横に立つ男――ヒースに問いかける。
視線が絡み、ヒースが口角を上げる。
「お嬢様の仰せのままに」
芝居がかった口調で恭しく私の手を取るヒース。
この幼馴染の従者はどうやら私の願いを叶えてくれるらしい。
……貴方がいてくれるなら私はなんだってできるわ。
小さく息を吐き私は会場に一歩足を踏み出した。
視線が刺さる。
貴族たちが私たちを見ては眉を顰め、囁く。
それはそうでしょうね。
婚約者ではなくて従者がエスコートしているのですもの。
堂々と、私は歩く。
そういつも以上に心がけた。
頭は割れそうなほどグラグラと揺れ、吐き気がする。
足元がふらつき、周りはすべて私の敵に見える。
唐突に、ぎゅっとヒースが強く私の手を握った。
視線だけを上に飛ばすが、ヒースは実に堂々としたもので何時もの飄々とした雰囲気を消し、
真面目な顔で前を向いている。
つまり。
励まされたのだかなんだかよくわからない。
けれど、どこか心が軽くなったような気がする。
誰かが「あ」と囁いた。
別の入り口から、私の婚約者であるこの国の第一王子様が入ってきたのだ。
私ではない女を連れて。
――唐突だが、私は転生者だ。
思い出したのは学園にはいってからのこと。
入学初日に高熱を出して3日間寝込んだ私は、この世界が前世でやっていた乙女ゲームと
そっくりだということに気付いたのだ。
ヒロインがハッピーエンドを迎えれば
悪役令嬢はバットエンドしかないというまぁ、ありふれたお話。
勿論そんな私は――ヒロイン。
ではなく悪役令嬢。
つまりはバットエンドが待ち構えている可能性が高い。
学園にはいって三年生になる手前の王家主催のダンスパーティ。
そこが私の断罪の場。
えぇ、死に物狂いで回避を目指した。
王子の婚約者としてふさわしいと言われるようなお一層努力をした。
転入してきたヒロインにだって虐めなんかしなかった。
なのに。
私の努力はすべて無駄だったらしい。
第一王子――クラウス様が私を見つけ歩いてくる。
べったりと張り付いたヒロインは、他の攻略対象を取り巻きのように侍らしている。
人だかりが自然と割れ、道ができていく。
「よく来れたな」
ねぇ、クラウス様。
貴方がそれを言える立場なのかしら。
「俺以外の男にエスコートをしてもらって来るほど、お前が恥知らずな女だとは思わなかった」
私もクラウス様がそこまでの馬鹿だとは思わなかった。
婚約者の私でもない女を連れているクラウス様は一体なんだというのだろうか。
「彼は私の家の従者ですわ、クラウス様。
幾度か顔を合わせたこともあるかと……。
父が多忙ですから彼に頼んだのです」
貴方には断られたから。
それに、嘘は言ってないわ。
私の父はこの国の宰相の為、今だって国王陛下の隣で事の成り行きを見守っているはずだ。
ふん、とクラウス様がヒースを上から下までじろりと見た。
「まぁ、その話はどうでもいい。
俺はお前に言いたことがある」
「なんでしょうか?」
ヒロインがクラウス様に見えない位置で私に向かって笑む。
嘲るような目が心に刺さる。
続けるクラウス様の言葉を遮ることができたらどれほど楽だろう。
「この場をもって正式に宣言する。
この俺、クラウス・リュードゲルは令嬢フィオネ・ディセンダントとの婚約を破棄する!!」
朗々とした声が広間に響き渡り、騒めきが止まる。
重苦しいほどの静寂を破ったのは、私。
「理由をお聞かせ願えますか?」
冷静に、冷静に。
凛とした態度とは裏腹に、私はともすればしゃがみ込んでしまいそうになる自分を必死に叱咤していた。
そんな私の心情を知る由もないクラウス様は憎々しげに私を見る。
「理由、だと?
何故、婚約を破棄されたのかがわからないとでもいう気か」
「わかりませんわ」
「……いいだろう、教えてやる。
お前にはフレアを虐めたという罪がある。
お前はフレアをクラスから孤立するように仕向け、その上俺に近づくなと言ったらしいな?
そして言葉で無理だとわかると暴力で訴えた!」
自分に酔ってるのかしら。
大仰な仕草で私の罪とやらを上げていくクラウス様。
ヒロイン――フレアというらしい、もうっとりとした表情でそんな彼を見ている。
私は……ここで泣き出し、そして感情的に否定の言葉を叫ぶ。
ゲームの私は、だが。
何故かわからないけれど、振り返ってヒースの顔が見たくなった。
彼はクラウスの言葉にどう思ったのだろうか。
「存じ上げません。
証拠をお見せくださいませ、クラウス様」
「そんな、フィオネ様、ひどい!
私、貴女に虐められてすごくつらかったのに!!」
言い切れば、ヒロインが目に涙を湛えて私を見た。
触れれば消えてしまいそうなほど儚い姿に、周りの攻略対象たちが
次々と甘い言葉をヒロインに吐いていく。
そして私に向けられる嫌悪の目。
「まだ言うか!
証拠はフレアの証言がある!!」
「本人の証言は証拠になりませんわ。
……フレア様、私が貴女に暴力を振るったとのことですがどのようなことを?」
「まだしらばっくれるのか!!
お前はフレアを階段から突き落としたっ」
クラウス様がここまで残念な人になっていたとは思わなかった。
そして続く言葉に唖然とする。
それ下手したら大怪我よね?
ヒロインを見るがどこにもそんな怪我をした様子はうかがえない。
「いつ頃のことでしょうか?」
「フレア、いつだ」
「……えぇと」
私に見られクラウス様に促されヒロインの視線が宙を泳ぐ。
考えていなかったのか。
「……いつ頃かなんてそんなのつらくて覚えてるわけないじゃない!!」
言うなり、ヒロインはその場にしゃがみ込んで顔を覆う。
慌てたのはクラウス様たちだ。
「無理に思いださなくてもいい」だの「フレアは何も悪くないんだ」だの一生懸命機嫌を取っている。
泣き声だけが響く、静まり返った広間の空気を塗り替える様にその笑い声は聞こえた。
くつくつと楽しそうに喉を鳴らす声は、私の後ろから。
「ヒース?」
「……申し訳ありません、お嬢様。
あまりにもふざけた茶番劇なもので」
そのセリフにざわりと鳥肌が立った。
これは攻略対象の一人であるヒースがヒロインと出会う場面でのセリフ。
状況も場所も異なるけれど、忘れるはずが、間違うはずがない。
現にヒースが私を見る目にはいつものからかっているような光がなく、
夜を溶かしたような黒色の目にときおりちらりと赤が灯る。
ヒースが体をかがめる。
腕を掴まれていてその場から動けない。
耳に口づけをするようにヒースが囁く。
「殺してやりたいと思うのをずっと我慢していました。
ねぇ、お嬢様?」
私の中で、何かが壊れた。
貴方にだけはその言葉を言ってほしくはなかった。
貴方だけは信じてた。
――私はヒロインに勝てなかった?
倒れそうになる体をヒースが優しく受け止める。
「茶番劇とはどういう意味だ!?」
「気を悪くさせたのなら申し訳ありません」
全く思っていなさそうな口調でヒースが笑う。
ヒロインが上目づかいにヒースを見上げた。
気づいたのだろう、ヒースが助けに現れたことに。
ヒースが私から離れヒロインの前に立つ。
行かないで、と言おうとした言葉は引き攣れて形にならない。
「ですが、そうでしょう?
フレア嬢。
階段から落とされたわりには元気ですね、貴女」
「え?」
……何を言い出すのだろう。
それじゃあ、ヒース、ヒロインを責めてるみたいに聞こえるわ。
こんなセリフはゲームにない。
ヒロインが大きく目を見開く。
「俺はきちんと見ていましたよ?
貴女が自分から階段から飛び降りるところを」
辺りに音が戻ったかのように囁き声が広間を一気に満たした。
私はぼんやりと、前に立つヒースの背を眺める。
「なに言ってるの、ヒース様?
ねぇ、ヒース様、言わされてるんでしょ、その女に!」
ヒロインが叫び声をあげて否定する。
クラウス様がヒースに詰め寄った。
貴族たちの間から悲鳴に近い声がいくつか漏れる。
「主人が主人なら従者も屑か。
フレアが自分で飛び降りただと!?
いい加減なことを言うな!」
「証拠もないお前らが何を言うんだか。
いい加減なことなど言っていませんよ。
……あれをご覧ください」
すっとヒースが右手を空中に向かって振る。
私はそれを見て吐息のようなため息を漏らした。
初めて見るそれは、とても幻想的で美しい。
ヒロインの頭上辺りに水晶のような透明の球が浮かび、
ヒースが指先をまわすとその動きに合わせるかのように鮮やかに色が映りだす。
形作られたそれはぼんやりと人の形を形成し、一人の少女を映し出した。
場所は――階段。
『さて、この高さぐらいからなら怪我しないわよね。
クラウスたちがあと少ししたら廊下を通るはずだからそれに合わせないとねー』
くすりと顔を歪め笑うヒロイン。
私の姿はもちろんない。
呆然とそれを見る、観客と化した私たちを嗤う様にヒースが指をまわす。
次はヒロインが自身で授業ノートをごみ箱に捨てていた。
自身で水をかぶっていた。
自身でドレスを破っていた。
「いやぁぁぁ!!」
「ふ、フレア?」
「お願い信じて!
クラウス様、私こんなことやってない!!」
頭を抱えいやいやと首を振るヒロイン。
戸惑った雰囲気で周りが声をかけるがそれすらも聞こえない様子だ。
「ヒースって魔法が使えたの?」
そんな設定はゲームにはなかったはずだ。
悪役令嬢の幼馴染で従者、それがヒース。
「……はい、お嬢様。
今まで隠しており申し訳ありません」
ヒースの上着の裾を引っ張りつつ問えば、視線だけを私に向けたヒースが
本当に申し訳なさそうに謝罪をした。
「そこまでにしろ」
すべてを黙らせてしまうほどの威厳に満ちた低い声が王座から轟いた。
ヒロインですらひくり、と体を縮こまらせ泣き止む。
かつり、と杖が床を叩く音が聞こえ、ほどなくして薄い絹の合間から国王陛下が姿を現した。
その後ろには私の父が控えている。
「父上!!
どういうことですか!?
何故、魔法使いがフィオネの従者をしているのです!!」
「黙れ、この戯けが」
叫んだクラウス様だが国王陛下の一喝にびくりと体を強張らせた。
「こんな大勢の前で、ディセンダント家の令嬢との婚約を勝手に破棄しおって……」
「どんな教育をしたらあんな子供に育つんでしょうなぁ、国王?」
「わっかとるわ、ディ」
……ねぇ、お父様、相手は国王陛下よ。
お父様のほうが偉そうな言い方をしているわ。
お父様と国王陛下が血の繋がった実の兄弟だったとしても、だ。
状況が理解できない頭が現実逃避を図る。
ヒースが魔法使いだったというだけでも衝撃をうけているというのに。
「クラウス、お前は関係者を連れて部屋に来い。
……ほかの者たちは楽しんでいってくれ」
国王陛下が有無を言わさず命令し、王座を去る。
私もヒースに連れられ父の後を続くように退出する。
廊下に出ると同時にヒースが私の頬を撫でた。
白い革の手袋はひんやりと冷たい。
「泣かないでください」
そこで初めて私は泣いていたことに気が付いた。
「お嬢様が泣くのを見るのは俺だけでいい」
それだけ言うと、ヒースは止める間もなく私の手を引っ張り先を行く国王陛下のもとに歩き出す。
握られた手が痛い。
大きな一歩についていけず体がふらつく。
「ヒース、ねぇヒースってば」
国王陛下のもとに辿り着いた時には私はすっかり息切れを起こしていた。
気力を振り絞って平然とした顔を見せていたが。
ヒースを一瞥し父が国王陛下に肩を竦めて見せる。
「私はヒースを止める気はありませんよ。
もともと、可愛いフィオネをクラウス様に嫁がせるのには反対だったものですし」
「ディ」
「はぁ……で、ヒース?
クラウス様を殴りに来たわけでもないだろう、何の用だ」
渋々といった様子でヒースに問いかける父。
また、さらっと聞き逃せないことを言った。
「婚約破棄についての確認を」
ヒースがにこやかに微笑みながら一瞬だけ、私に視線を向ける。
からかうような色合いを含んだ何時もの目、のはずだ。
それなのになぜだろう、獣にでも射すくめられたような気持ちになるのは。
「婚約はもちろん破棄する。
……愚息が本当に迷惑をかけた」
私に向かって国王陛下が頭を下げる。
父もヒースもまるでそれが当然とでもいう様に頷いているが、私は慌てた。
急いで頭を上げてもらう。
私ごときに下げていいものではない。
「ディとは違って優しい子じゃな」
「そりゃぁ、天使ですから」
国王陛下の世辞にデレデレと頬を緩ます父。
お父様、こんなところで親馬鹿を発揮しないで……。
「ヒース?
それが聞きたかったの?」
私の言葉にヒースがそれもありますが、とくつくつと笑う。
「では、フィオネ様は今婚約者がいない状況ですね。
王子の婚約者だったフィオネ様を求める男性は少ないでしょう」
「そうでしょうね」
わざわざ言わなくてもわかっている。
クラウス様からの婚約破棄だったとしても、ここまで話を大きくした私を誰ももらってはくれないわ。
やはり彼は少々意地が悪い。
私のツンとした表情にヒースが目を細める。
熱のこもった赤い光が黒目の奥でちろりと燻り、私を捕える。
「俺の婚約者になってください、お嬢様」
「……はい?」
「了承を戴けて光栄です」
「ち、違うわ!
さっきのは驚いたからで……」
慌てふためく私とは対照的にヒースがにやにやと笑う。
絶対にからかって遊んでいる。
父が人の悪そうな笑みを浮かべ「それはいい」と肯定の言葉を投げる。
国王が「第二王子と……いや、なんでもない。
だからそう睨むなディよ」と父の視界から遠のいている。
「……第一、
ヒースは私のことが嫌いなのでしょう?」
忘れられない。
殺してやりたいと思うのをずっと我慢していた、というあの言葉とヒースの暗い目。
どうして今彼は私に笑いかけ、あの時助けてくれたのだろう。
ねぇ、あれは私の勘違いなの?
それとも、ゲーム通り本当はヒロインが好きなんじゃないの?
ゲームの設定を知っている、続くストーリーも、ヒロインと幸せそうに笑うヒースの姿も。
それが私の枷になる。
「俺がお嬢様を嫌い、ですか。
……本気でお嬢様はそう思っていらっしゃるんですか?」
低い掠れた声に「え」と思う間もなく抱き上げられた。
「国王陛下、ディセンダント宰相。
お嬢様がご気分が悪い、とのことなのでこの場を失礼させていただきます」
勿論、私は気分なんて悪くない。
ヒースの腕を叩くがどこ吹く風だ。
私は彼の機嫌を損ねたらしい。
「そうか、今日はこちらが起こしたこととはいえ色々あって疲れたであろう。
帰ってゆっくりと休んでくれ」
「……ヒースの良識に任せるぞ」
話し合いをやめこちらを振り向く二人。
国王陛下は心配そうに私を見て鷹揚に頷き、父はヒースをぎろりと睨んだ。
と同時に景色がぶれる。
国王陛下が目を見開いたのを最後に私の視界は暗転した。
「なに、今の……?
って、私の部屋じゃない」
「転移魔法というのがありましてね。
もう国王陛下にはばれてますし、よいかなぁーと」
「……よくないと思うわ、かなり驚いてたもの」
気が付けば私の部屋にヒースに抱かれた姿勢のままいた。
魔法とは便利な物らしい。
「それじゃ、お嬢様の誤解を解きましょうか」
「は?」
言うが早いか、ヒースにベットに寝転がされた。
ヒースが私の肩を押したままベットに腰掛ける。
ぎしり、と二人分の体重をうけ軋む。
「ちょっとなにする気なの、ヒース!?」
「なにって、俺がお嬢様を好きで好きで仕方ないことを行動で証明しようかな、と」
「いやいやいや、待ちなさいヒース。
落ち着いて」
「落ち着いてますよ、俺は。
幼い頃からずっとずっとお嬢様だけを見ていた。
お嬢様とあれの婚約が決まったと聞いた時の俺の気持ちが分かりますか?
――あれを何回殺そうと思ったか。
あの女だって楽には死なせる気はありません」
くすんだ炎が熱をもって私を見つめる。
私は自身の勘違いに気付く。
あの言葉は私に向けてのものではなかった……?
白い革の手袋を脱いで、手が私の頬をゆっくり撫でた。
「お嬢様を泣かした奴らを俺がずっと苦しめ続けてあげます。
お嬢様が泣くのは俺だけの前で、笑うのも怒るのも、すべて俺だけの前で」
籠った熱が触れられたところから広がっていく。
「あの水晶だって、お嬢様の周りを調べてて分かった副産物に過ぎませんし」
「……ヒース、私の周りの人を調べたの?」
「俺のこと気持ち悪いって思います?
それだけ必死なんです。
他の男になんて渡したくない」
――だって、俺は貴女を愛しているから。
すくい上げられた髪の束にヒースが掠めるように唇を落とす。
それは、なんて束縛された重たい愛だろうか。
「俺に昔のようにフィオネと呼ぶ権利を下さい」
懇願する様に、ヒースが私の肩口に顔を埋めた。
「私。
クラウス様の婚約者だったわ」
私の言葉にヒースが目を細める。
「愛していましたか?」
「……いいえ。
慕ってはいたけれど」
愛はなかった。
けれど、王妃としてクラウス様を支える覚悟はあった。
私はきっと逃げたのね?
あの日ゲームの世界だと思い出してから。
ヒロインが現れてから。
「俺は?」
低い掠れた甘い声。
ずっと気を張ってきた私の心を溶かすような私自身を見てくれる言葉。
ずっと幼い時から横で立ってくれている私の従者。
きっと私はヒースに依存している。
「嫌いなはずないじゃない」
ぽつりとこぼした言葉を飲み込む様に、ヒースが私を抱きしめた。
心臓が飛び出しそうだ。
状況を嫌に冷静に考えてしまって今更ながら体中が熱を持つ。
でも、これだけは言いたい。
「ヒースだけはあの子に渡したくなかった」
でも、まだ愛しているとは言えないの。
そこまで気持ちの整理は追い付かない。
にっとヒースが口角を歪めくつくつと笑った。
目はからかうように細められ、飄々とした雰囲気が戻る。
「では、両想いととってもよろしいですよね?
ということは色々と問題はない、と」
「……え?」
「宰相は俺の良識に任せる、とか言ってましたが。
どこまでなら――フィオネはありだと思います?」
「は?」
「フィオネはすごく可愛いこと言ってくれますよね。
こんな場所で二人っきりの時に俺以外の男に言っちゃ駄目ですよ?」
――まぁ、俺以外の男を選ぶ選択しなんて今後一切与える気はありませんが、ね。