第八話・敵の魂胆?
再リメイク版と差し替え
鋭い風切り音を響かせ、フンドシ男の拳が僕に襲い掛かる。もうダメだよ、僕、これ以上変態扱いされたら生きていけないよ! と泣いているだけの状態だから、僕は当然避けるなんて想像すらできないまま……
げしっ!
迷う事なく僕の頬を捉え、振り抜かれるフンドシ男の拳。僕の体は大きく浮き、同級生たちの前まで飛んでいく。
「留崎君立って! みんなも仲間でしょ? 見てないで応援して上げなさいよ!」
生徒たちの中で女の子の声が響く。これってクラス委員の瀬戸彩花さん?
見るとそこにはややきつい目つきが気になるものの、漆黒色をした髪のすごく長い美少女一人だけが僕を必死に応援している。
それに触発されたのか、わずかながらも生徒の中にチラホラと応援の声が。
「大丈夫かっ?」
「しっかりしろっ!」
確かにいくつかの声援が耳に届くけど、やはり大半の生徒たちは僕を奇異の眼差しで、ただ見つめているだけ。
応援してくれてるのは瀬戸さんと数人の男子生徒のみ、あとは明らかに軽蔑の眼差し。
そうだよね、女装してもっこり、しかもあんな戦い方なんてしてたら誰だって変態だって思うし、気持ち悪くもなるよ……
やっぱり変身するんじゃなかった、だって僕には、悪者を倒すための揺るぎない正義感や根性なんて、ほんのひとかけらほども無いんだから。こんなことなら、同級生たちの中で震えていればよかった!
殴られた頬の痛みより、もっこりを見られた情けなさの方が痛い。出来るなら僕、今すぐにでもどこかに閉じこもりたいよ!
泣きながらひたすら殴られ続けるしかない僕。生徒たちの目が泳ぎはじめ、ひどい混乱に陥っているのが傍目にも解る。
でも僕は変態なんだ、人前で臆面もなく女装し、もっこりを晒すような情けないやつなんだ……
「もうやだっ! 変身なんてしたくないっ! ゴスロリ・スピカなんて消えてなくなっちゃえばいいんだっ!」
「留崎君……!」
もういいよ、フンドシ男さん、さっさと僕を殺しちゃってよ!
呆れたように僕を見下すフンドシ男。なぜか殴ることもやめてしまい、蔑むような雰囲気で淡々と僕を睨んでいるだけ。
「こんなクズを殴るのに俺の拳は勿体ない、とっとと失せろ、負け犬野郎っ!」
何で? どうして? 何故そんな態度で見るんだよ! 冷たいこと言わないでさっさと僕を殺してよっ!
ゆらりと立ち上がり、僕はフンドシ男の前に進み出る。けどそいつは僕を押しのけ、まっすぐシエリの方に歩いていく。
生徒たちがたじろいで道を開け、あっさりとフンドシ男に捕まってしまうシエリ。
「お兄ちゃん頑張って! この前みたいにガツンとやっちゃってよ!」
「そうよ留崎君! あなたが立たないと妹さん、連れて行かれちゃうのよ!」
フンドシ男に引きずられながらも、必死に僕に助けを求めるシエリと、冷ややかな生徒たちの中で必死に応援してくれる瀬戸さん。けど、けどさ……
「僕もう無理だよ、戦えないよ! だってただの女装した変態でしかないんだから! こんな情けないやつ、この世から居なくなっちゃえばいいんだっ!」
ああ……僕の大事な妹が連れて行かれちゃう。僕を含めたみんなが黙ってそれを黙認する中で……
「お待ちなさいっ!」
いきなり背後から響くオネエ言葉、太くて強い男の声。
「シリウス……!?」
ずざざっと引いた生徒たちの間から姿を現したのは、水色の超ミニ丈アリスメイド服を着た、長身でたくましい中年男。彼のスカートの前面はもっこりと高く盛り上がり、熱く、熱くたぎっている。
「スピカ! あなたが情熱を失ってどうするの!? あなた負け犬になりたいの? 妹さんはどうなってもいいのっ!?」
「やだよ、僕、変態になっちゃったからもう戦えないよっ!」
「いい加減になさいっ!」
シリウスの鋭い叱咤の声、泣きじゃくる僕につかつかと近寄ると、バシッ! といきなり頬を平手打ちして
「変態がなに? 人間ってね、きれいごとだけじゃ生きていけないのよっ! 地を這いつくばってでもしぶとく生きなきゃならない時もあるの! 女装ごときで、くじけてどうするのっ!?」
「だってあいつら、力技じゃ倒せないから恥ずかしい戦い方しか出来ないし、それに僕、みんなにもっこりを見られちゃったし……!」
「何? そのために編み出した奉仕技でしょ? それに、あなたの言ってるのはこれのこと?」
なおも泣きじゃくる僕の目の前で、シリウスは自分の短いスカートの前を迷う事なくばさっとめくり、熱くたぎっているもっこりを納めた純白パンティを、これでもかという勢いで僕に見せつける。
「このパトスこそが私たちの活力、正義の鉄槌を下す原動力なのよ! これは正義の戦いであって変態行為なんかじゃないのっ! さあ立ちなさい! もっこりを復活させなさい! あなたなら出来るはずよっ!」
「シリウス……」
僕の中心で萎れかけていた情熱が少しずつ元気を取り戻していく。シリウスの登場で引きまくっていた生徒たちも少しずつ集まってきて
「留崎君、そうよ! 立つのよっ!」
「スピカ頑張れ!」
「シエリちゃんを取り戻そうぜ!」
「一緒に戦おう!」
「もっこりは正義だ! 勇気を出せよ!」
僕を抱き起こしながら、みんなが口々に声援を送ってくれる。
「ありがとう、ありがとうみんな! 僕頑張るよ、頑張ってシエリを取り戻すんだ!」
「「「「おおっ!」」」」
僕の強い決意にみんなの歓声が応える。そうだよ! 僕は一人じゃない、一緒に戦ってくれる仲間がいるんだ!
遠く立ち去ろうとするフンドシ男たちを追い、僕は走る。あとに続く同級生たちとシリウスが口々に「頑張れ!」を連呼する。
「お待ちなさいっ!」
「おや? 変態の負け犬が戻ってきたぞ? また殴られたいのか? 女装趣味の変態ちゃん!」
「パトスは情熱! 変態なんかじゃない! そして……スピカは負けない! あなたを倒してシエリを取り戻すのっ!」
なぜか決め台詞となるとオネエ言葉になるけど、でも僕はもう負けないぞ!
「やっちまえっ!」
「「「「がってんだいっ!」」」」
再びゴロツキたちが僕たちを襲うけど、僕とシリウスの……その、脇腹や背筋くすぐりとか、「ピー」の愛撫とかを受けて悦びの声を上げ悶絶、次々と沈んでいく。相変わらず同級生のみんなはちょっと引いてるみたいだけど……
そしてついに、フンドシ男は僕の同級生たちによって行く手を塞がれ立ち往生。とうとう追い詰めたぞ!
「もう逃がさないわっ! 諦めてシエリを返しなさいっ!」
ずいっと踏み出し、僕は声高らかに警告する。
たじっ、と引きながらも強気のフンドシ男は、
「な、ならこの娘がどうなってもいいんだな? 俺は本気だぞ!」
と叫びつつシエリの首に手を回し、ぎりぎりと締め付ける。苦しそうに喘ぐシエリに、思わずたじろぐ僕とシリウス。
「どうだ、手も足も出まい! 変態は変態同士、仲良くいいことでもしてるんだなっ!」
「ひ、卑怯よっ!」
僕たちを嘲笑うフンドシ男に対して何も手が出せない僕たち。と、いきなりシリウスが僕の耳元に顔を寄せ、そっと耳打ちする。
「こうなったら合体奥義、行くわよ!」と。
「どうするんですか?」
「私としっかりと抱き合ってキーフレーズを叫ぶのよ! あとは私か何とかするわ!」
「抱き合うって!? シリウスさんと?」
「そう! 迷ってる暇はないわ! そして叫ぶの『合体奥義、クイーンエクスタシー』って!」
ううっ、僕、よりによってこんなたくましいオカマさんと抱きあわなきゃならないなんて!
おずおずとシリウスに近づき、そーっと胸に抱きつくと、シリウスはガバっと両手を広げて僕をがっしりと抱きとめる。
ううっ、男の汗の酸っぱい臭いがツーンと鼻を刺激する。じっとりと汗ばむシリウスの腕と体、気持ち悪くてなんか吐きそう!
「さあ、行くわよ! 合体奥義、「クイーンエクスタシーっ!」」
二人で叫ぶと、シリウスがさらに僕に密着してくる。え? 当たってるっ! 僕の太ももにシリウスの熱くたぎった情熱がぐいぐい当たってるよおっ!
「お前らついに目覚めた……か……え?」
あれ? フンドシ男の様子が変だよ? なんか膝がわなわなと震え、ってか全身プルプルしてるんですけど?
「あ、ああっ、そ、そこは……だめぇっ!」
変に上ずった声を上げるなりシエリを手放し、フンドシ男はへなへなと崩れ落ちる。と、クマのお面が静かに外れ……
「な、何この人?」
シエリが呆れた顔で覗き込んでいるフンドシ男の素顔は、ゲジゲジ眉にタラコ唇、これじゃ絶対モテナイよなあ、という見本のような典型的なブ男そのもの!
「こいつらって何者……?」
隣でゴロツキたちの覆面を破り捨てているシリウスに聞いてみると
「この世界を牛耳るために、『特殊な存在』であるあなたの妹さんを手に入れようとしている秘密組織よ。今はそれしか言えないけど」
「ひっでえっ! こんな悪事を企む奴らに俺らのシエリちゃんが奪われようとしてたなんて!」
「そうだそうだっ! シエリちゃんは僕らのものだっ!」
「ちょっと待てっ! いつからシエリがお前らのものになったんだよっ!?」
「「「「さっきから!」」」」
「そんなの僕は認めないっ! シエリは僕が守るんだっ!」
「お兄ちゃんったらっ♪」
「留崎君、こんな人たち相手にしてたら身がもたないわよ?」
僕の独占発言にシエリが恥ずかしそうに、そして瀬戸さんが呆れ果てた表情で答えている。
結局同級生たちとシエリを取り合うことになるのかよ! けどまだこいつらの方が紳士だからマシだけどね♪
けど、僕の同級生たちがいくら紳士でも、シエリは絶対、誰にも渡さないんだっ!
って……あれ? さっきの技って、一体何?
「シリウスさん、さっきの合体奥義って……?」
「クイーンエクスタシー? あれは技をかけた人の感じている数倍の快感を相手に与えて悶絶させる技よ!」
「それって……もしかして!?」
「スピカの太もも、ほんと気持ちよかったわあ♪」
「え……い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
嬉し恥ずかしという態度で腰をくねらせているシリウスに、僕の背筋には大量の冷たいもの。
……あれ以上技が長引いてたら……やだっ! そんなの絶対やだーっ!!
「……よしっ! じゃあ会員ナンバー二〇番までこれで決まりだな!」
あまりの悪寒に身震いしている僕の後ろで、一平は何やらみんなとひそひそ話。会員? 何のことだろ?
「みんな何やってるんだ?」
「ゴスロリ・スピカファンクラブの会員決めてた!」
「え? 僕のファンクラブ!?」
「ついでにシエリちゃんファンクラブも兼ねてるけどさ!」
「ええええええっっっ!?」
勘弁してよ! 僕は平穏無事に高校生活を乗り切りたいだけなんだから!
けど僕はまだ知らない。このファンクラブが後にもの凄い存在になるということを。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まったく、不甲斐ない男たちだこと! 仁義の道は漢の道、決して期待と信頼は裏切りません、と言ったのはどこのどなたかしら?」
あれから数時間後、とある大きな薄暗い部屋に不機嫌そのものといった女の愚痴が響き渡る。
声の主は妙齢の女性、それも磨き上げられた氷のように冷たい印象を与える絶世の美女だ。
髪は長く、輝くばかりの銀色で、ゆるやかなうねりを描いている。肌は透き通るかのように白く、鋭く光る瞳は燃えるような真紅。
背は高くメリハリの効いたボディは非の打ち所もない。身に纏っているのは瞳と同じ真紅のボンデージ、彼女は冷ややかに目の前の男どもを見下し、容赦なくその苛立ちを浴びせていく。
バシッ!
鞭が鳴り、全裸にされた男が苦悶の唸りを上げるが、美女に同情の様子はまるでない。ただ台に寝かされ四肢を縛られた男を、その周囲に畏まる男たちを睥睨するのみ。
「あなたたち、それでも男? それともアイツらみたいに男を捨ててみたいのかしら?」
青ざめた顔に脂汗を浮かべ、男は必死に首を振って否定するが、美女はやはり聞く気が無い。ゲジゲジ眉にタラコ唇、不細工を判で押したような面構えに情けないほどの嘆願の色を見せているが、美女はそれを冷たく突き返し
「そうねぇ、あなた、その顔その体格で今すぐオカマになってみない? さぞかし滑稽な人生が送れると思うわよ?」
冷ややかに横目で睨み、美女は艶然とした笑みを浮かべる。何も知らないものが見れば思わず心動かされそうな笑顔だが、その場の男たちにとって見ればこれは紛れもない脅迫、それも最後通牒というやつだ。
「オカマは勘弁してください女王樣っ!」
涙ながらに訴えるゲジゲジ眉、彼の萎縮したそれを鞭の柄でぐいっ、と小突き、美女は逡巡するような素振りを見せる。
「挽回のチャンスが欲しいようね? でもね、私の上げた付与魔術封入面、そうそう簡単には出来ないのよ? 前回のものはあなたの美貌と引き換えに作ってあげたけど、今回は何を差し出すのかしら?」
冷ややかに笑いながらも美女はゲシゲシ眉にそう問いかける。あくまで小突く動作はやめないままに。
「そんな……!」
がっくりと首を落とすゲシゲシ眉。その視界の隅に写るのは彼が先ほどまで着けていた虎縞のフンドシ。今はひどい異臭を放ち、先刻の彼の見るに耐えない醜態を物語っている。
「リーダーがリーダーなら、あなたたちもあなたたちよね? どう責任を取るつもりか一人一人言ってみなさいっ!」
美女から突き放つように詰問され、何も返す言葉の見つからない部下たち。こちらはまだ着衣のままで跪いている分待遇はマシだと言えなくもないが。
「あらあ、返事がないわね? ということは皆さんお揃いで滑稽な人生が送りたいのかしら?」
「あ、あと一度、あと一度だけチャンスをくださいっ! そこで失敗したらオカマにでもなんでもなりますからっ!」
悲鳴にも似た声で叫ぶゲジゲジ眉に、美女がぴくりと反応する。
「その言葉に二言はないのかしら? その時にはあなた、もっと醜い姿にした上で男を卒業させてあげるつもりだけど、それでもいいのね?」
「はいっ、もう煮るなり焼くなり、好きにしてくださいっ!」
部下ともども涙ながらに懇願するゲジゲジ眉に、美女は少しだけ満足そうに微笑む。
「私はね、どうしても欲しいのよ、シエリとかいう少女の持つ力がね。その力の源が何か、どれほどの力かはわからないけど、近しい人のカリスマ性を著しく増大させるものなのは確かなの。だから私の追い求める世界に、この私が女王として君臨するためにはどうしてもあの娘が必要なのよ!」
歯痒そうに愚痴をこぼしながら、薄暗い部屋から立ち去る美女。その姿が消えたのを見てホッとした部下たちは、重い足取りでゲジゲジ眉の男を縛めから解き始めていた。
意外と重要な敵の内情を追加してみました。
お読みいただき、ありがとうございました。




