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ゴスロリ・スピカ! その1 ~せめて女の子にしてください!~  作者: 首藤えりか
~せめて女の子にしてください!~編・第三部
13/30

第十三話・女装でデート?

再リメイク版と差し替え

「おっやすっみおやすみっ♪」


始業式から数えて最初の週末、シエリが朝食をとりに二階から降りてきた時に歌っていたのがこの替え歌。


「今日はご機嫌だな?」


「うん♪ 天気もいいし、やっぱり一緒にお買い物行こ!」


「昨日言ってた買い物か、いつものディスカウントスーパーでいいのか?」


「やだやだっ! 今日は本通り商店街まで行くのっ!」


これだけは妥協しないよ! とでも言うかのように駄々をこねるシエリ。まあ両親からの仕送りもあるから問題はないだろう。

ちなみに本通り商店街というのは市の中心部にある巨大なアーケード街、複数の大型デパートや無数にある専門店で構成された「広島の秋葉原」と呼ばれる歩行者専用の店舗通りだ。

そして、シエリからもう一つの信じられないリクエスト!


「今日はお兄ちゃんも女の子の服着て出掛けない?」


こ、こら待て! 何が悲しくて男の僕が女の格好しなきゃならないんだよ!?


「やだ! 第一僕は男だし、女物の服なんて持ってないぞ!」


「あたしの着てない服貸してあげるから大丈夫、それに秘密兵器もあるしね♪」


慌てて叫ぶ僕に、シエリは悪戯っぽい笑顔を見せながらけろりと答える。どうやらこの提案、妹として見れば本気らしい。まあ普通に男の服装でも女の子と勘違いされることが多いから、この際何着ても変わらないんだろうね。

ってか妹がうちに戻って以来、いつも僕は妹に振り回されてる気がするなあ。

そうは言ってもかわいい妹だし、ゴスロリ・スピカに慣れるためにも少しこの話、乗ってみるか。


そんな妹のシエリが用意してくれたのは


「……これ、着るのか?」


「うん♪」


なんと派手な花柄にレース飾りや巨大なリボンまでついた、パステルピンクのミニ丈ロリータ風ワンピースドレス! これって「甘ロリ」ってやつじゃなかったっけ?


「マジでこれ着るのか?」


「そだよ♪ お兄ちゃんにはもっと度胸つけてもらわなきゃ!」


やめてくれ! いくら僕に意気地がないからって、これはあんまりじゃないか!


「あとね、こういうドレスって体型ごまかしやすいのよね。いくらお兄ちゃんがスマートでもよく見たら男の子体型だから、リボンとかで視線を逸らしてばれないようにしよう! ってわけ♪」


「まあ……変な服着て男ってばれる方が怖いけど、やっぱり恥ずかしいから男の服がいいよ!」


「それだとあたしの正体がばれたら、また変な追っかけストーカーが集まっちゃうよ? そうなると大変だよお?」


そうだった、妹を迎えに行った時に実際に出くわしたもんな。


「つまり僕を隠れみのにしようと?」


「有り体に言えばそうだね!」


ううっ、こいつ天然系の振りして悪知恵だけは働くなあ。


「でも僕、髪が明るい水色な上にくせ毛だし、アップにするから似合わないよな!」


そう、僕の髪はひどいくせ毛で扱いが大変。わざと残念だったねと肩を竦めながら、僕は何とかささやかな抵抗をしてみる。


「そんなの理由になんないじゃん♪」


その言葉を待ってましたとでも言うように、シエリは僕のアップにした髪を梳き下ろして綺麗に伸ばしてしまう。ダメだよ! そんなことしたら、僕、ゴスロリ・スピカだってばれるじゃないか!


「ほんとはスピカなりきりキット! というのもあるんだけどね。最近ネットで話題のグッズだよ♪」


あまつさえ、そう言いつつ取り出したのは、僕の愛用しているステッキとスカイブルーの長いかつらウィッグ!?


「え? なにこれ? それに、今何といった!?」


「だからスピカなりきりキットって……?」


「違う! ネットで話題とか何とかって!」


「そだよ? 今コスプレアイテムの中じゃダントツ一位の売り上げなんだって♪」


「おい、それってかなりやばくない?」


「注目されること間違い無し! だからあたしは安心してお買い物出来ちゃうね♪」


「鬼っ! 悪魔っ!」


「かわいい妹のために頑張ってね! スピカちゃん♪」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 結局僕はロリータドレスを着たまま今、広島の巨大アーケード街、本通りに立っているわけで……

なんか周りの視線がすごいよ! 怖いよ!


「あれ、もしかして……?」


「ゴスロリ・スピカのコスプレ? でもドレスが違うよね?」


「でもさ、すっごくかわいくないか? もしかすると本物よりかわいいかも!」


うわっ! ばれてるよ。というより「本物よりかわいい」って何なんだよ?


ついでに言うと今の姿はあのドレスに加えてボーダー柄のオーバーニーソに黒のストラップシューズ、おまけのついでに大きな赤い薔薇が三つもついたカチューシャ。目立つなって方が無理だよね?


ちなみに妹のシエリはというと、ラフに着こなした白いドルマンシャツにデニムのミニタイトスカート、黒のロングブーツに黒いニットのカーディガン。まあ、いたって普通の服装なわけで僕と比べるとちっとも目立ってない。せいぜい「痛い子」の付き添いくらいにしか見えないだろうな。


「お姉ちゃん、こっちこっち!」


「どうして僕がお姉ちゃんなんだよっ!?」


「あれぇ? もしかして女装趣味の変態さんになりたいのかな? お・に・い・ちゃ・ん・は?」


「い、いえ、いいです……」


ってか元はと言えばお前がこんな格好をさせるからいけないんだろっ!


ちなみに今の僕の胸は、スピカ変身時と同様そこそこある。というのもパットつきのブラを妹がわざわざ取り寄せていたらしく、それを着けさせられているのだ。

こいつ、絶対今日のデートは計画的犯行だよな!?


「確かこのビルの……四階だったはず!」


とあるビルの前に立ち、僕の手を引きながらシエリは足早に階段を駆け上がる。半ば息切れ状態で着いた場所は


「な、なんだよこれは!」


なんとロリータファッションの専門店!?


「ここならきっとゴスロリ・スピカ風のドレスも見つかると思うよ~♪」


「本人がコスプレしてもちっとも嬉しくないよっ!」


「またまた~っ、ホントは着てみたいくせに♪」


悪夢だ! これはきっと悪夢に違いない! 僕は今、夢を見てるんだよね? そう決めた今決めた! だから僕は何されても怖くないぞ!


「すみませーん!」


「いらっしゃいませ~っ!」


シエリがかわいらしいロリータドレスの女性店員に声をかけると、ニコニコと愛想笑いをして店員がこちらにやってくる。すると


「あれ? もしかしてゴスロリ・スピカのコスプレ目指しているんですか?」


……ちょっと待て! なんで僕を見るなりゴスロリ・スピカの名前が出てくるんだ!? あ、そっかー、これ、夢だもんね!


「すごい! よく分かりましたねー!」


「ここ数週間というもの、ものすごい人気なんですよ! 本物は男の子らしいんですけど、ほんとお客様みたいにかわいらしい方らしくて♪」


おい、本物が男ってばれてるぞ! じゃあ僕がここで男だってばれたら、そのまま実物だってばれるってことじゃ!?

おろおろする僕を無視して、しっかり話し込んでいる店員とシエリ。どうやらオススメのドレスはまだ在庫しているらしい。


「お客様、どうぞこちらに」


店員の誘導についていくシエリと……そして僕。これ、夢にしては実感ありすぎだよね?


「うわ、すごいっ!」


取り出されたドレスにちょっと目を丸くしているシエリ、よく見ると実物とは微妙に違う部分もあるけど、それでもよく似たその豪華な黒いドレスは、確かに雰囲気ばっちりだ。


「ご試着されますか?」


「ええ、もちろん!」


店員の問いかけに一も二もなく応じるシエリ。って僕の意見は? と思う間もなく強引にフィッティングロームに押し込まれ


「さあ着てみてね、お姉ちゃん♪」


そのドレスを押し付けられてしまう僕。


「ううっ……」


ぶつぶつ不平を言いつつドレスを着込む僕だけど、あれ?


「せ、背中のチャックが……!」


「失礼しますね」


僕が小さな悲鳴を上げてると、いきなり店員さんがフィッティングルームに入ってきてチャックを上げるのを手伝ってくれて


「あら? あなた男の方? じゃあもしかして本物のゴスロリ・スピカさん?」


ぐさっ! ばれた! ばれちゃったよっ!

どうやら背中の微妙な体格の違いに気づいちゃったんだね。


「安心して、あなたが男の方だってことは秘密にしておきますから♪」


そっと僕に囁きつつフィッティングルームから出て行く店員さん。なにやらまた持ち込んできて


「ついでにこれも試着してみてくださいね~」


と手渡されたのは


「まんまゴスロリ・スピカの服装じゃん!」


白いフリルカチューシャに白いフリルエプロン、レース飾りのついた白いオーバーニーソまで!

というわけで、なぜか完璧なゴスロリ・スピカになっている僕がいる。


「すごい! ぴったりですわ!」


わざとらしく賞賛する店員さんと妹のシエリ。すると周囲のお客さんが何事かと集まってきて


「おい、ゴスロリ・スピカだ!」


「すげえっ、あれコスプレだよな? よく似てるじゃん!」


「それにすっげえかわいいし!」


「本物は男の娘なんだろ? やっぱこっちの本物の女の子の方がいいよな!」


特に隣のホビーショップからのお客さんが多い気がする、もしかしてこいつら、そういうのが好きだとか?


「うおおおっ! 萌えぇぇぇっ!」


思わず一人が叫びだすと


「「「「萌えぇぇっ!」」」」


途端に始まる大合唱! やだよそんなの、僕恥ずかしいよ!

シエリはさっさとレジでドレスの精算なんてしてるし!


「ついでに記念撮影とかいかがですか?」


騒いでいるお客さんに、さっきまで僕たちの相手をしていた店員さんが声をかけている。


「うおおっ! もちろん!」


途端に携帯やらデジカメやらを取り出してカシャカシャ撮影を始めるお客さんたち。って、本人の意思はどうなんだよ?


「スピカちゃん、決めポーズとって!」


「え、は、はいぃ」


リクエストに応えてなぜか決めポーズを取っている僕。ってなんでだよっ!?


「照れてる照れてる!」


「かわいいっ!」


「本物もこれくらいかわいいのかな?」


「男の娘だぜ? ここまでかわいくないよ!」


「だよなー!」


などと話し合っている客の中で


「おい、こいつトランクスはいてるぞ!」


「うそっ? 見られてもいいようにショートパンツ穿いてるだけだろ?」


「いや、確かにトランクスだよ! 男物の!」


えーっ!? 見られた! 見られちゃったよっ!


「いやあっ! チカンっ! 変態っ!」


あまりの恥ずかしさに思わずしゃがんで叫ぶ僕。チカン呼ばわりされた当人は当惑してるけど、周りのみんなはなんか嬉しそう。なんでだろ?


「恥ずかしがってるとこグッジョブ!」


「本物そっくりだ!」


「すげえ、めっちゃかわいいじゃん!」


それはまあ、僕が本物だもん。素の状態で恥ずかしがれば似て当たり前だけど。

あれ? 僕ってそんなに有名人なの?


「お兄ちゃんすごい人気だね! アイドル並だよ!」


隣で嬉しそうに囁きかけるシエリ。と、僕を撮影していた一人がシエリを見てはっとしたみたい。


「この子、あの動画に出てた子じゃないか?」


「えっ? 違うよぉ、あたしスピカの妹なんかじゃ……やばっ!」


ごまかそうとしたシエリが逆に墓穴を掘ったことに気づいて、慌てて口を閉じたんだけど、これ、本気でやばいんじゃない?


「そうだよ! この子本物そっくりってか……まさか二人とも本物!?」


「嘘だろ? まさか……でもありうるよな?」


「本物二人もマジかわいいっ!」


うわっ! ここまで来たらもうバレたも同然じゃないか!


「とにかく逃げるぞ!」


「う、うん!」


結局僕たちってすごく目立つ存在だったっていうのがよくわかったよ。

でもなんでみんなスピカのことあんなによく知ってるんだよっ!?

お読みいただき、ありがとうございました。

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