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第三話 何でこうなるの?

「ちょっと、皐月ぃ〜どぉいうこと?」


朝一番にかけた文句の電話の向こうに、思いっきり心のうちを吐き出した。


「えぇ〜?だって、あんたいつまでたっても彼氏作らないじゃないの。……まあ、あいつのこと忘れられないのは分かるけどさ」


あいつ……。あたしの元彼のこと言ってるのは分かってる。別に忘れなくたっていいじゃない。だが、まわりはどうもそうは思ってくれないらしい。


「でも、晴はなかなかいい奴だからさ。変だけど。あ、あいつには冬華が会社辞めたこと言ってないから。じゃ」


がちゃ。つーつー。


一方的に切られた。


仕方なく、耳から受話器をはずしたとき、台所から声がした。


「朝ってご飯派?それともパン?」


こちらに半分身体を乗り出して居たのは、他でもない、魅月晴。


「ていうか、君、いつまでここに居るの?」


あたしの口からはため息。


「いいじゃん。送ってきてあげたんだし」


そりゃあそうだけど。


「っていうか、冬華さんってほんと往生際悪いよね」





こいつが言ってるのは、昨日の出来事のこと。






* * *






「絶っっ対、い・や」


「いいじゃん、減るもんじゃないし」


「いいや、減る。あたしの平和な日常が」


「せっかく送ってってあげるって言ってるのに。家教えてくれなきゃ、送ってけないじゃん。それに、彼女の家を知ってるのは当然だと思うんだけど。後、合鍵も」


あたしはそんなことしたら終わりだと思った。


「あたしはあなたの彼女じゃありませんし……あたしの家をあなたになんか教えたら、何されるかわかんないでしょ」


「何って?毎日通うだけだけど」


それが一番恐ろしいんだって。


「じゃあ、どこ行くの?俺んち?」


「誰が行くかっ!!」


あたしがほぼ怒鳴るように言ったら、晴は、少し悲しそうに俯いた。なんだか、あたしが悪いことしたみたい。


「う、と、とにかく、あなただけでも、家、帰ってください。あたしは自分で何とかする。明日、会社とかあるんじゃない?」


「あー、まあ、一日くらいいいじゃん。まだ入社一年目だし。職場の人たち、俺に甘いし」


ちょっと待って。入社一年目って、こいつあたしより……年下?!


「君、いくつ?」


「21だけど?」


うっわ、あたしより4つも年下……。この、ふけ顔め。てっきり年上だと思ってたのに。


「じゃあ、冬華さんが決めないんなら、俺が決める。早く、車に乗って。ほら、早く」


「ちょっと、押さないでよ。もう」


あたしを強い力で車に無理やりと言っていい感じで押し込む。はたから見たら、誘拐現場。幸か不幸か近くには誰も居なかったが。


あたしを助手席に荷物のように詰め込み終わると、彼は、車の前をまわって、運転席のドアを開けた。


「どこいくの?」


隣のエンジンをかける男におそるおそる尋ねた。


「楽しいとこ〜」


は?


バカみたいに口を開けたままのあたしに、彼は初めて会ったときと同じ、あのさわやか笑顔を向けた。


「それと、俺、”あなた”でも”君”でもないから。魅月晴。み・つ・き・は・る。分かった?」


だが、そのときの笑顔は初めみたようには素敵に思えず、寧ろ悪魔の笑みに見えたのだった。


















「くぅ〜」


「きく〜」


「やっぱ、夏のビールはいいねぇ。これで、花火がパーンて上がれば最高なんだけどなぁ」


「冬華さん、なかなか風流なこというね〜。おっちゃぁん、もう一杯追加ぁ」


そう、ここは、どこにでもある居酒屋。


「まだ、飲むんですか?お二人さん」


カウンターの向こうから、怖そうな顔の居酒屋の店主が似合わないにこやかな笑みで話しかけてきた。


「まだまだ行くよ〜。朝まで飲み明かすもんねぇ、ね、冬華さん」


「もっちろんっ」


気前よく返事するあたし。

今思えば、ただのバカ。やめとけばよかったと後から思っても、もう遅い。


騒ぎまくって、晴相手にたくさん愚痴ったのは、恥ずかしながら覚えてる。


それからしだいにはっきりしなくなる記憶のとぎれとぎれに、あいつのと、居酒屋のおじさんの顔とが浮かんでは消えていく。




次に、頭がしっかりしたときには自分の家のベットの上だった。



少しだけ首を横に動かして、一瞬見覚えのないものが視界に飛び込んできた。目が冴えてきたとたん、それが、人の顔だとわかる。




そして、あたしの本日第一声は、外を散歩してた猫が塀のうえからおっこちるくらいの悲鳴。






で、今に至るわけで。







「ほんとにさあ、酔っ払ってる癖に、なかなか自分ち言わないんだから。『あたしの日々がストーカー対策で埋まっちゃう』だの叫んでさぁ。どうせ教えるんならあんな喚いてる前にさっさと教えればいいのに」


あたしに引っ掻かれた傷に少し痛そうに触れながらすねた子供みたいな表情。

また、あたしは悪くないのにちょっと罪悪感が胸を過る。


「って、あんた、これが狙いだったでしょっっ」


あたしはこいつのあくどいやり方を思い出して罪悪感を振り払い、水を得た魚のように反撃した。


「しかも、この状況、めちゃくちゃ事後」


はぁ、と今日、何回目かわからない深いため息をついた。

逢ったばかりの男とその日になんて―――。

ほんとに取り返しがつかない。そう思い出すと思わず視界が滲んだ。

そんなあたしを知ってか知らずか黙って明後日の方を向いたままゆっくりタバコをふかす。

そんなこいつにだんだん腹が立ってきた。

大体、こいつの所為じゃない。


「もう、いい加減早く帰ってっっ」


その声に飛び上がる晴。


「何、急に」


「いいから帰ってってば!!!」


涙声にで叫びながら晴の背中を玄関のほうへ押す。


「もう二度とこないでよっ。今度あたしの前に現れたら……」


その台詞とともに奴の鼻の先でドアを思いっきり閉めた。


ちょっとやりすぎたかな。いや、と一人になった部屋であたしは首を振った。あいつが悪いのに、何で同情してるんだろ。

今日は気分転換にカラオケでも行くかな。


あたしは、携帯電話を開いて、ダイヤルを押した。

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