第二話 見つけられた小さな”冬”
誰かさんが誰かさんが
誰かさんが見ぃつけた
小さい秋 小さい秋
小さい秋 見ぃつけた
ねぇ、小さい冬を見つけてくれるのは誰ですか?
はっ。
目を覚ました時にはもう遅かった。
『次は終点〜、次は終点〜』
嘘っ。あたしが降りるはずの駅は確か、終点よりも乗った駅からの方が近かったはずだ。
またやった。
ほんとに今日は最悪な一日。家にすら帰れない。
とりあえず、終点で電車から降りる。夏の夜の涼しい風が肌を撫でる。
ふと顔を上げてみた。
あたしは、思わず絶句。駅の周りは真っ暗。かろうじて、出口から続く細い道を微かな外灯が照らしているだけだ。
あたし、どこまで来たの?さっきまで、外はまだ明るかったはず……。
退屈そうに乗車客の切符を集めている駅員に近寄ったあたしは、手に持った切符は渡さず、思い切って尋ねてみた。
「あの、次の電車って……」
それを聞いた駅員は面倒くさそうに、口を開いた。
「次?次は、明日になるまでありませんが」
ありえない。
やっぱ、今日は最悪。
これからどうしよう。こんな田舎じゃ、ビジネスホテルなんかもありそうにないし。
あたしはとりあえず、駅のホームから出た。だって、明日まで使われないのに居たってしょうがないもの。
どうしようか迷っていると、一台の車が駅の前に立ちすくむあたしの眼前を走っていった。
へぇ、こんな細いとこ車通れるんだ。
なぜか感心してしまったあたしの目の前で、その車はブレーキを踏んで停車した。
どんな人が乗っているか少し気になったあたしは、横目にその車のドアが開き中から人が出てくるのを盗み見た。
「あっ」
そこから出てきたのは、朝の電車で痴漢を撃退してくれた、あの人だった。
「ん?なに人見て変な声だしてんの?……江藤冬華さん」
それを聞いた瞬間、あたしは目から目ん玉が落ちるかと思うくらい驚いた。
「な、なんで――」
驚きすぎて、それ以上言葉が続けられない。だけど、その後に続く言葉を察したのか、彼が言う。
「だって、待ってたんだもん。……最初あなたの降りる駅で待ってたのに、降りてこないから。ホントは、俺が駅から出てくる冬華さんをかっこよくお出迎え〜なはずだったのに」
顔の印象とはまったく異なる軽い話方をするこの男を記憶を引っ張り出して脳内検索にかけたが、一つも該当するものとして弾き出されたものはなかった。
もしかして、これが世に言う、ストーカーさん?
「あたし、あなたみたいな人知りませんっ」
思いっきって、冷たく言ったあたしに、彼の見せた反応は意外でしかなかった。
「知るわけ無いじゃん。初対面だもん、今日の朝で」
はぁ?
思わず口が開けっ放しになったまま、彼を見つめた。
「まさか、ターゲットが朝助けた美人さんだったなんてね。俺だって思いもしなかったし」
まったく話が読めないんですが……。
「え?だって、あの大企業に勤めてるんでしょ?皐月姉からそう聞いたんだけど」
さぁ〜つ〜き〜?
親友の名前が出た瞬間、あたしは皐月に殺意さえ覚えた。この、面倒くさいのを押し付けた張本人て訳だ。
きっと、今日飲みに行ってたら、こいつが乱入して来たに違いない。
「キャリアウーマンで、こんな美人なら言うことなしだし……決めたっと」
一人でぶつぶつつぶやいていた男は、突然顔を上げると、子供のように輝かした笑顔をあたしに向けると、こう言ったのよ。
「冬華さん、今から俺の彼女ね」
小さい”冬”が見つかったのは、他でもない、この魅月晴と言うとてつもなく変な奴だった。