新緑
シビルにどう接すればよいか分からないまま、一月が過ぎた。自分でシビルに会いに行く勇気がなく、頻繁に宴をするようになった。臣下たちは不審に思ったことだろう。
シビルは舞を頼めば宴に来たが、客として出ることを拒み、舞を舞えば誰が引き止めようとすぐにいなくなった。そして、舞の最中に衣を投げたり楽器を弾いたりする小柄な少年を常に連れていた。
王妃の実家で受け継がれている祈りの舞を舞うために、帝王学を学ぶ間に舞の稽古をしていたのだろう。十年前はそのような素振りを見せなかったが。許婚でありながら、そのようなことも私は知らなかった。
舞を見ると、この十年間でシビルが訪れた場所が分かる。この国の地方の舞もあれば、異国の服を着て見たこともない踊りをすることもあり、衣装を翻す姿に見とれた。この若さで遠い異国の地まで旅をしなければならなかったことに胸が詰まる思いがした。あれほど美しければ、行く先々で危険も多かっただろう。その元凶を作ったのは私だ。
シビルと言葉を交わすこともないままでいることに焦りを感じたが、幸いシビルが宮殿を出る気配はなかった。
回廊で見つかった死人の身元は、全く分からなかった。ただ、この国の服を着ているが、着慣れていない様子があった。異国の者だったのだろう。それ以外に分かったことはない。宮殿に身元が分からない異国の者がいることは不審であったが、宮殿に入ってきた経路さえ分からない。気味が悪いくらい、全く手がかりがなかった。
シビルは何か知っているのだろうか? 遺体を見たときのシビルの顔を思い出すと聞き出す気にはなれなかった。シビルが話した言葉から考えようとしたが、全く見当がつかない。
むしろ頭に浮かんでくるのは、シビルが私に対して言った言葉だった。
シビルは私のことをどう思っているのだろうか。そして十年前はどう思っていたのだろうか。私は自分の気持ちに夢中で、シビルが自分をどう思ってくれているかを考えていなかった。
新芽が芽生えた木々に風がそよいでいる。シビルに再び会ってから、中庭を訪れることが増えた。ここで何度彼女に会っただろうか。しかし、シビルはもうここには来ない。
今の法では、女であるシビルは王になれない。しかし、王家でない者が王となった今、その法にどんな意味があるだろうか。
正当な王位継承者が国に戻ったことが分かれば、王位を譲ることに反対する者がいるとは思えない。隣国との婚約の話が上がった時、女王の即位が可能であればこの国が安泰なのにと悔やむ声が多かった。
どうすればこの国に留まってもらえるのか。この国にいてもらえるのなら、なんだってする。できることならだ、正統な王位継承者であるシビルに王位を継いでもらいたい。自分がどうなろうとも。
シビルの立太子を誰よりも望んだ自分が、王位を奪ったとは皮肉な話だ。シビルが私を恨むのも無理はない。
本来なら私がシビルに即位について話をするのが筋だろうが、どう話せばいいか分からない。シビルは私に目も合わせようともしない。また、王宮内で不審者が殺された件を解決しなければ、王位を引き継げない。
何をすればよいのかわからないまま、時だけは無駄に過ぎた。不審者の調べは進まず、シビルと話すきっかけもつかめない。新緑の風が何事もなかったかのように頬をかすめるだけだ。
そんな中、シビルが連れてきた少年が気になって仕方がなかった。女のように顔が美しいが弱弱しい少年。彼が寝込むたびシビルは宴の出席を拒む。十三歳からほとんど戦地で過ごしていた私とは正反対の男。シビルはそのような男の方を好むのかもしれない。
時を戻せるのなら、もしあの戦いがなければ、私は幸せになれていたのだろうか。