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風に舞う姫  作者: 都萌
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嵐の予感

 その日のうちにシビルたちに長く宮中にいるように遣いに依頼させ、宴には出席するように手配した。シビルの責めるような目が苦しかったので、直接会うのはつらかった。

 シビルが生きていてくれてよかった。初めはそう思ったが、射るような目がどれだけつらい日々を暮らしてきたか物語っていた。あの混乱期に女性が無事にいられたのは奇跡に近い。

 あの花のような笑顔を見る日はもうないのだろうか?

 シビルが国を追われ、私が世継ぎとなった。本来なら彼女が国を治めるべきだ。女性が王になれない決まりだが、彼女以外に世継ぎにふさわしい人物はいなかった。

 シビルは何を考えているのだろう。こんな私に生きろと言った。私を生かしてなんになるのか。

 父が兵を挙げる前に、私は初めて幸せを知った。それを潰されて生きるだけなら生きたくない。


 翌々日に宴があり、シビルに遣いをやった。しかし供の者が寝込んだ看病のため出席できないと宴に来なかった。シビルはあの男の子をいたくかわいがっているらしい。むしろシビルの方が疲れているのだから彼女が休むべきだと思いながら、一人で酒をついでいた。

 珍しく隣国の大臣に声をかけられた。

「舞姫様は今日来られてないようですね。」

「はい、供の者が体調を崩したようで。」

「自ら看病されているのですか。おやさしいですね。」大臣が敬語を使うのを不思議に思いながら聞いていた。

「実は、以前私が宴に入り込んだくせ者に襲われた時に助けていただいたのですよ。芸人が踊りの途中で剣を抜いて、もうだめかと思ったのですが、剣舞をしていていた姫が剣を投げてそのものを抑えてくださって助かりました。どうやら私を暗殺する計画を聞いてかけつけて来られたらしい。あれだけ舞の種類が多いうえに剣の腕もたつとはすばらしいと思いましてね。国に留まってくれるよう王も頼んだのですが、しばらくしたら旅立ってしまわれて。」

 今の王はかつてシビルの許婚だった方だ。シビルと分かって留めようとしたのだろうか。

「こちらの国の宴は怪しいものが入り込まないので、安心できます。でも宮中は人の出入りが多く、一度襲われた者としてはこの宮殿でも安心できない。いつもひやひやしておりますよ。」

 大臣は目配せしながら話し、用心しろと私に伝えた。

大臣が離れてから、最近の出来事を考えた。大臣はシビルの素性を知っているのだろうか。王女がわざわざ自分をよく知る人がいるところに戻ったのは、それなりの目的があると。

 そうであれば、シビルの目的は何か。私を見るあの目からは何も読み取れなかった。


 シビルの部屋を叩いても誰も出て来ず、供の者がいる隣室を叩いた。返事がしてシビルが出て来た。

「何のご用でしょうか?」穏やかなシビルの表情が、私と分かって硬くなる。よほど嫌われているのだろう。

「供の方の具合が悪いと聞いてきたのだが、お具合はどうでしょうか。」あの男子がシビルと私の関係を知っているかわからないので、口調がおかしくなる。

「旅の疲れがたまっただけで、大したことはありません。グレイのことはお気遣いなく。」そう言いながらシビルは部屋を出た。

「連れは今休んでいるので、その部屋にはお通しできません。何か他にお話がございますか。」

 とりつく島もないような口調で話す彼女を見ながら、思い切って話を切り出してみる。

「彼が寝込んでいるなら、しばらくこちらで休むのがいいと思いますが、こちらにしばらく滞在する気はありますか。」

 微妙な話と思ったのか、シビルは自分が使っている部屋に私を通した。

「しばらくは滞在させていただきます。あなたには不都合かもしれないけれど。」

「いや、私としてはいてもらったほうがうれしい。彼は大丈夫なのか。薬師が必要なら言ってもらいたい。客人に失礼なことはしたくない。」

「いいえ、あの子は疲れているだけよ。今日でだいぶよくなったから、ご心配なく。」

 目を合わせずに話していた彼女が急に私を見た。

「わざわざこちらに来たのは聞きたいことがあるのでしょう。むやみに女の部屋に来たりしたら恋人に勘違いされるわよ。妃が決まっていなくても想い人くらいいるのでしょうに。」

「いや、そんな者はいない。隣国の大臣の話を聞いて、気になってきただけだ。他意はない。」

 今のシビルは、顔には出さないようにしているが疲れ切っている。そのうえに負担をかけるようなことは言い出せなかった。

「大臣が何をおっしゃったの?」

「隣国で大臣が暗殺されそうになった時、シビルに助けられたと話された。今まで寄り付かなかったこの国に戻ってきたのはなぜだ。」

「この国に戻ってきたのは、もう私のことが分かる方がいないと思ったから。あなたも分かるとは思わなかったし。」うつむきながらシビルが話した。

「分かった。何かあったら伝えてくれ。すぐに私に取り次ぐようにしてある。それでは、おやすみ。」

 シビルに目が合わないまま、私は部屋を出た。月が夜を照らしていた。

 最近あったことを考えながら自室に戻った。今何をしなければいけないか考えた。しかし、シビルに何ができるのかわからなかった。


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