資産家独居老人の道楽4
アキを我が家に住まわせるようになってひと月が過ぎようとしていた。
アキは家事や炊事など色々なことを積極的にしてくれるのだが、あの子の身辺はまだ危ういと思ったのでワシは色々と手を尽くした。
先ずは交代制で信用できる筋から家政婦を2人雇い入れた。
そして、アキが安心して外へ出られるように、8人の元特殊部隊メンバーをこれも信頼できる筋から雇い入れた。
すべて我が家の敷地内にあるいくつかの離れの部屋に住まわせている。
これらのワシの手配によってアキは護衛をつけての外出が出来るようになり、表情も以前よりはだいぶ明るくなった。
自家用車も1台増やした。
ほぼビーストと同じクオリティの車だ、ワシは良くわからんが防御力の高い車らしい。ゴジラと名付けた。
すぐ使える手持ちの現金の用意もあるが、長期戦を見越して株式の一部を売却し当面のゆとりある資金も確保した。
「剛田さん私買い物に出かけたいのだけど…」
「八咫烏のメンバーに護衛を頼もう」
「剛田さん…ちょっと大袈裟すぎるんじゃないかしら?」
「ワシ1人ならどうにでもなるのだがのう」
「そんなに私のことが心配なの?」
「ワシが預かっている間はおぬしの身の安全は保証したいのじゃよ」
ワシは八咫烏のブラボー1に連絡をしてアキの外出の護衛を頼む。
3人の八咫烏メンバーがすぐにやってきて外出の準備をする。
「アキ様どちらへお出かけですか?」
「ちょっと洋服とか欲しいかなー?って」
「かしこまりました」
「ご主人さま、私も買い出しにいきたいのですが?」
家政婦の三田さんがワシに頼んで来た。
「一緒に連れて行ってもらうと良いじゃろう」
ブラボー2が頷いた。
ブラボー4とブラボー6の3人が護衛の任務につくようだ。
大きな扉が開いてゴジラが正門からぬるぬると出ていった。
「あれはいい車じゃのう」
そういってワシは美術刀剣の手入れに地下の隠し道場へ向かった。
美術刀剣の手入れをしている時はとても気持ちが落ち着く。
ワシは時を忘れて一刀一刀眺めながら手入れをして白鞘に納めていく。
「剛田さん!ただいま!この服どうかしら?」
ワシの目の前でくるりと回るアキ。
「20歳か…。よく似合ってるぞ」
「剛田さん!ありがとう!」
そういえばワシを俺とか僕と言っていた20歳のころに、アルバイトで貯めたバイト代の余ったものを株式に投資していた。僕の投資は存外に利益を上げて学生の身には余る資金を手に入れることが出来た。
僕は株式と並行して勉強をして…もちろん大学の講義も受けていたのだが、物件売買に手を出した。
株式会社を作り当時の仲間を巻き込みその時の資金で買える物件を買い、直ぐに売り払って利ザヤを得ての繰り返しだった。そのうち仲間は他にやりたいことを決めて1人ずつ抜けていったが、利益を配分して最終的には円満にほぼ解散と言う流れになった。
僕は地上げ屋のような物件売買に見切りをつけてすべて売り、気になる企業を買収した。
それからバブル崩壊があり大変な時期が続くが、僕の会社の運営はことさら影響を受けず、価値を下げて将来性の見込みのある会社を次々と買収して傘下にしていった。
まあ、仕事は楽しかったのだけれど。
プライベートは寂しいものだった。
25歳の時にある異業種交流会のようなパーティーの会場で、1人の女性と出会う夏希翠という20歳の大学生だった。
屈託もなく僕に話しかけてくる彼女に僕は惹かれた。
何回か食事やデートを重ねて交際がスタートした。
そして1年後僕たちは結婚したのだった。
新居は都内の高級マンションで楽しい新婚生活が始まったが、直ぐに妻が妊娠した。男の子だった。
生まれたその子に僕は甚吉と名付けた。
時間を作って海外旅行に行った。
とても楽しかったのだけれど、あまり思い出したくない。
2人目の子を妻が妊娠した。
やはり男の子で甚八と名付けた。
妻の翠は「本当にあなたにそっくりよ!」と満面の笑顔で僕に語りかけるが、どこが僕に似ているのかまったく分からなかった。
ベビーシッターを雇い妻の翠のサポートをさせて、僕は仕事に邁進した。
家族が増えて仕事もプライベートも本当に充実していた。
はずだった。
ある日携帯電話に1本の電話が入る。
「奥様が亡くなられました」
他にも色々と言っていたのだけれど、記憶にない。
呼び出されて警察署へ駆けつけると死体安置所で冷たくなっていた翠が横たわっていた。
甚吉は「ママー!」と泣いている。
甚八は「まんま寝てるの?」と僕の腕の中で言っているように聞こえた。
刑事が何人かやってきて事件性が高いので司法解剖するという。
僕は強い抗議をしたが、都内の高級ホテルのスイートルームで裸体の男性と翠が何かしらの薬物で死亡した疑いがあるとのことだった。
訳がわからない。
数日後、刑事から呼び出しがあり署へ向かった。
僕の足取りは重かった。
説明を聞く覚せい剤の過剰摂取、妻の腟内から亡くなっていた男性と同一の精液が検出された。
訳がわからない。
だけど僕は愛する妻の翠を見送るために盛大な密葬を行った。
翠は誰にでも愛される女だった。
警察の説明は信じられなかった。
妻との思い出が詰まった高級マンションでの暮らしは、何故か苦痛で、僕は都内に広大な敷地を買い高い塀で囲い邸宅を建てた。その計画を練っている時だけは無心になれた。
邸宅に転居して2年後くらいだっただろうか?
甚吉も大きくなり、甚八もわんぱく盛に入っていた。
僕は翠の「あなたにそっくりよ!」という言葉がしっくり来なかった。あまりにもかけ離れて似ていない。
僕は知人の医者に頼んで密かに息子2人のDNA検査をした。
結果は剛田甚左衛門の遺伝的確率は限りなく0%であった。
俺は葛藤した。
子供たちは愛おしい。
かけがえのない我が子だ。
訳がわからない。
俺は家政婦や家庭教師などさまざま何かを息子たちにあてがい、極力我が子……達から距離を置いて仕事に邁進した。
苦しい。
悲しい。
振り返り思い出すと胸が締め付けられるようだ。
「剛田さん?急にどうしたの?」
気がつけば俺は食卓で泣いていたようだ。
「なんでもないのじゃよ。気にせんでいい」
「そんなことできる理由ないじゃないの」
いつの間にかワシはアキの腕に抱きしめられて泣き続けていた。
ベッドの中でもアキはワシを抱きしめていた。
「よしよし剛田さん。人間生きていれば色々とあるよね。私の3倍も生きていれば私には想像も出来ないわ」
スーーっと何かの気配がする。
ワシはアキをそっと身体から離して、ベッドサイドの式波・アスカ・ラングレーモデルのレプリカを手に取る。
そういえば手入れを忘れておったの?
静かに階段を降りて大きな廊下をそっと眺めると、ロボット掃除機の上に正座した小さな黒ずくめの何かがクルクルと回っている。
なんなんじゃ?
「!?」
キィーーーン!
ワシは飛来物を撃ち落とした。
「クナイか?」
何本も飛んで来る!
かわしながら撃ち落としながら謎の黒ずくめへと近づこうとすると。
バラバラバラ!と何かを撒き散らす音がした!
「撒菱!」
近づこうとするも近づくことが出来ない。
「ふふふ、またね!剛田さん!」
少女のような声が廊下に響くと、黒ずくめの少女は姿を消した。
「ブラボー1!侵入者ありじゃ!」
小型無線機で八咫烏のリーダーに伝える。
「侵入者ロスト!侵入者ロストです!」
「あの小娘ただ者ではないのう」




