ギルド登録
いや、しかし、と俺は首を振る。ここで嘘をついたり、曖昧な態度をとったりすれば、後々もっと面倒なことになるかもしれない。
それに、ここは城の中とは違う。冒険者ギルドという、実力が全ての場所ならば、あるいは……。
俺は意を決し、受付カウンターに少し身を乗り出すようにして、声を潜めて答えた。
「スキルは……【コピーアンドペースト】です。ただ、まだ授かったばかりで、詳しい効果は検証中なんです」
正直に、しかし少しだけ含みを持たせて告げる。さあ、どう出るか。
受付嬢は、俺の答えを聞くと、一瞬きょとんとした顔で瞬きをし、それから小首を傾げた。
「コピーアンドペースト……ですか? ふむ、初めて聞くスキル名ですね……」
彼女は困ったように眉を寄せたが、予想していたような嘲笑や侮蔑の色は浮かんでいない。
むしろ、純粋に未知のスキルに対する戸惑いといった様子だ。
「まあ、スキルの中には本当に多種多様で、未知のものも多いですから。分かりました、ひとまずそのように登録しておきますね」
そう言って、彼女は羽ペンをさらさらと走らせ、登録用紙に何かを書き込んだ。
周囲の冒険者たちも、特に俺たちの会話に聞き耳を立てている様子はない。どうやら、このギルドでは他人のスキルに過剰に干渉するような野暮な雰囲気はないらしい。
俺は内心でほっと胸を撫で下ろした。
「はい、これで登録は完了です!」
受付嬢は手際よく手続きを進め、やがて一枚の金属製のプレートを俺に差し出した。
「これがあなたのギルドカード、相馬巧さんの身分証になります。失くさないように、大切にしてくださいね。依頼の受注や報告、ギルド施設の利用にも必要になりますから」
プレートの表面には、俺の名前「ソウマ タクミ」と、最低ランクを示す「F」の文字、そしてスキル名【コピーアンドペースト】が刻まれていた。
異世界に来て初めて手に入れた、自分の存在を証明するものだ。
続けて、受付嬢はギルドの基本的なルールについて説明してくれた。
ギルド内での注意事項など。俺は真剣に耳を傾け、その内容を頭に叩き込んだ。
説明を一通り聞き終えた俺は、礼を言って受付を離れ、ホールの一角にある依頼掲示板へと向かった。
コルクボードのような板に、ランク別に分けられた依頼票がびっしりと貼られている。俺が受けられるのは、当然一番下のFランクの依頼だけだ。
視線を走らせる。
「薬草『ポポ草』の採取:指定の森で10本採取。報酬:銅貨5枚」
「下水道のネズミ駆除:小型ネズミ1匹討伐につき銅貨1枚」
「倉庫の荷物運び手伝い:半日拘束。報酬:銅貨8枚」
どれも地味な依頼ばかりだが、今の俺にはこれくらいが丁度いい。
特に、「ポポ草の採取」依頼が目に留まった。
依頼票には、ポポ草の特徴と、採取場所である「初心者向けの森」への簡単な地図が描かれている。
「よし、これにしよう」
俺はポポ草採取の依頼票を剥がし、再び受付カウンターへ持って行った。
「この依頼を受けたいんですが」
「はい、ポポ草採取ですね。承りました。期限は三日以内です。達成したら、採取したポポ草と一緒にこの受付まで報告に来てくださいね。頑張ってください!」
快活な笑顔で見送られ、俺はギルドを後にした。さて、依頼は受けたが、このまま手ぶらで森に行くわけにもいかない。
採取した薬草を入れるカゴくらいは必要だろう。あと、武器は餞別にもらった錆びた短剣があるが……心許ない。
街の露店で安いカゴでも買うか? いや、待てよ。
俺はふと、さっき街を歩いている時に見かけた、どこかの家の軒先に無造作に置かれていた、シンプルな編みカゴを思い出した。
あれくらいなら、もしかして……。
再び人通りの少ない路地裏に身を隠し、目を閉じて先ほどのカゴの形状を詳細に思い浮かべる。そして、強く念じた。
(コピー!)
《[記憶内の簡易なカゴ]をコピーしました。クリップボード容量:4 / 10 》
「……できた!」
思わず声が出た。物質だけでなく、記憶の中にあるイメージもある程度ならコピーできるようだ! これは凄い発見かもしれない。続けて、MPを少し消費してペーストを実行すると、手元に記憶通りの安っぽいカゴが出現した。完璧だ。
さらに、依頼票に描かれていた簡単な地図。これも今のうちに頭に叩き込んでおこう。
(コピー!)
《[依頼票の地図情報]をコピーしました。クリップボード容量:5 / 10 》
頭の中に地図データを「ペースト」し、情報を記憶する。これで道に迷うリスクも減らせるだろう。
スキル【コピーアンドペースト】は、戦闘以外でも工夫次第でいくらでも役に立ちそうだ。
最低限の準備――コピーしたカゴ、記憶した地図、腰に差した短剣――を整えた俺は、街の門へと向かった。
城から追放された時とは違い、今度は明確な目的がある。
門番の衛兵にギルドカードを提示すると、簡単な確認の後、すぐに通してくれた。
冒険者という身分は、最低ランクであっても、ある程度の信用にはなるらしい。
門をくぐり抜けると、目の前には広大な草原が広がっていた。
心地よい風が草を揺らし、遠くには目的地の森が見える。空はどこまでも青く、空気は澄んでいる。
追放された直後の不安は、今はもうない。あるのは、これから始まる冒険への期待と、自分のスキルでどこまでやれるのかという挑戦心だけだ。
「よし、行くか」




