廃坑の闇
坑道はしばらく一本道だったが、やがて最初の分かれ道が現れた。どちらに進むべきか。地図作成の依頼でもあるため、まずは右へ進み、行き止まりなら戻って左へ行くことにする。
壁には、以前の探索者が残したと思われる簡単な矢印の刻印があったが、かなり古いもののようだ。
少し進むと、天井からバサバサと羽音が聞こえてきた。
見上げると、暗闇から複数の影が急速に接近してくる! 大型化した蝙蝠、ジャイアントバットだ! 数は五匹。
鋭い牙を剥き出しにし、奇妙な超音波を発しながら襲いかかってくる。
「チッ!」
すぐにショートソードを構える。超音波が耳障りだ。
動きは素早いが、インプほどではない。動きをコピーするまでもなく、剣で的確に斬りつけていく。
一匹、二匹と斬り落とすが、残りの蝙蝠が散開し、四方から襲いかかってくる。
牽制のため、「石ころ複数ペーストを発動! 石つぶてが数匹に命中し、動きが鈍ったところを確実に仕留める。さほど苦戦することなく、ジャイアントバットの群れを片付けることができた。
(ふぅ、まずは小手調べってところか)
死骸を軽く調べ、特に有用な素材はなさそうだと判断して先へ進む。
しばらく行くと、道がぬかるんでいる場所に出た。足元に注意しながら進んでいると、ぬかるみの一部が盛り上がり、不定形なゼリー状の塊が現れた。
スライムだ。半透明の体の中に、消化されかかった小動物の骨のようなものが見える。
スライムはゆっくりとこちらに近づき、体の一部を鞭のようにしならせて攻撃してきた。同時に、腐食性の高い酸液を飛ばしてくる!
(酸は厄介だな)
俺は酸液を避けながら、ショートソードで斬りかかる。
しかし、物理攻撃はあまり効果がないようだ。剣はスライムの体を通り抜けるだけで、ダメージを与えている手応えがない。
(物理がダメなら……)
クリップボードから[石ころ]データを呼び出し、シンプルに「ペースト」! 生成された石ころをスライムの核らしき部分に叩きつける!
さすがにこれは効果があったようで、スライムの動きが一瞬止まる。すかさず、もう一度石ころをペーストして叩きつける!
これを数回繰り返すと、スライムは形を保てなくなり、どろりと溶けるようにして動かなくなった。
(なるほど、物理攻撃が効きにくい相手には、質量のあるものをぶつけるのが有効か)
戦闘を通じて、少しずつこの世界の法則と、自分のスキルの応用方法を学んでいく。
さらに進むと、天井の一部が崩れかかっている危険な箇所を見つけた。ここで、考えていたスキル検証を試してみることにした。
近くの頑丈そうな岩盤の一部に意識を集中し、「コピー」。《[硬い岩盤データ]をコピーしました》。
そして、崩れそうな天井の下あたりに狙いを定め、「ペースト」! MPを消費し、コピーした岩盤データが実体化し、既存の天井を支えるような形で簡易的な支柱が生成された!
(おお、成功だ!)
これで、少なくともここを通過する間の安全は確保できるだろう。不安定な足場を補強したり、簡単な壁を作ったりと、地形操作はダンジョン攻略においてかなり役立ちそうだ。
ただし、生成した支柱は元の岩盤ほど頑丈ではなさそうで、MP消費も無視できないレベルだった。使いどころは見極める必要がある。
ついでに、もう一つの検証。松明の「光」そのものをコピーできないか試してみる。
(コピー!)
結果は……やはり失敗。《光のような純粋なエネルギーや現象のコピーは不可能です》。まあ、そうだろうな。
では、光ではなく、「燃えている松明の先端部分」ならどうだ?
(コピー!)
《[燃焼中の松明先端]をコピーしました》
(いけるか?)
試しに少し離れた壁際に「ペースト」してみる。
すると、ボッと音を立てて、燃えている松明の先端だけが空中に現れた! しばらくは燃えているが、元の松明のように安定した炎ではなく、数分もしないうちに勢いを失い、消えてしまった。
(うーん、微妙だな……)
予備の光源としては心許ないが、一時的に周囲を明るくしたり、あるいは敵への目くらましや着火用には使えるかもしれない。これも使い方次第か。
スキル検証を終え、さらに坑道の奥へと進む。すると、徐々に人工的な痕跡が目立つようになってきた。かつて、ここで多くの人々が働いていたのだろう。
そして、ついに発見した。壁の一部が、他とは違う、淡い光を放っている箇所がある。近づいて松明で照らすと、岩盤の隙間に埋まるようにして、青白い燐光を放つ美しい鉱石がいくつも見えた。
(これが……魔鉱石か!)
写真や映像でしか見たことのない、神秘的な輝き。これが様々な魔道具の材料になるという。
俺はリュックからピッケルを取り出し、慎重に鉱石を掘り出そうと、壁に打ち付けた。
カン! カン! と硬い音が響く。鉱石自体はそれほど硬くないようだが、周囲の岩盤がしっかりしている。
その時だった。
ガサガサッ! バリバリッ!
鉱石を掘る音に反応したのか、近くに積み上がっていた瓦礫の中から、そして反対側の壁の亀裂から、複数の何かが這い出してくる音がした!
松明を向けると、そこには硬い岩のような甲羅を背負い、鋭い顎を持った、人の頭ほどの大きさの虫が三匹現れていた! エマさんが言っていた「鉱石を食べる硬い甲羅を持った虫」、ロックイーターだ!
「グルルル……」
低い唸り声を上げ、ロックイーターたちは明らかに敵意を剥き出しにして、こちらに迫ってきた!




