話し合いで解決しましょう
警察官は少し厳しい表情で続ける。
「正社員だったらこんな事してたらダメじゃないですか? お兄さんだって、お仕事先に迷惑かけたくないでしょ?」
セイギは拳を握りしめ、熱弁する。
「そ、それは分かってる! でも俺にしかできないことなんだ!」
警察官は穏やかに説得する。
「お兄さんにしか出来ない事は、しっかりお仕事先でケーキ作る事でしょ? この辺のケーキ屋さんって言うたら限られてますよ? お兄さん、お仕事先に迷惑かけたくないでしょ?」
セイギは唇を噛み、声を震わせる。
「くっ…確かに職場にバレるのは避けたい。でも、みんなの平和を守らないわけにはいかないんだ!」
警察官はメモ帳をしまい、優しく提案する。
「もうね? 平和を守るのは、我々警察官に任せて下さい。それでお兄さんも、イリファスさんに思う事があるなら、そんな格好でうろちょろせんでも、お仕事帰りに付近の交番に寄ってくれたら僕ら話聞きますから。」
セイギは俯きながら言う。
「わかった…交番に寄るようにする。」
警察官は優しげに答える。
「ほな、お兄さん、今日は見なかった事にするから。ねっ? 最近、銀ピカの変な人が街彷徨いてるって通報相次いでるんですよ。お兄さん、先週の金曜の夜も、その格好でなんかしてたでしょ?」
セイギは肩を落とす。
「まじか…気づかれてたとはな。でも、あの日は本当に人助けをしていただけなんだ。信じてくれ。」
警察官は笑みを浮かべ、メモをしまう。
「もう、それはこっちは何十年と人見てますからわかります。お兄さん、悪い人じゃないです。そんな悪い人はケーキさんの社員になりません。ただ、お兄さん、そんな銀ピカの格好でうろちょろしなくても、何かあったら先ず警察に通報して下さい。通報あったら僕ら動きますんで。」
セイギは銀ピカのマスクを外し、苦笑いを浮かべる。
「すまない、心配をかけちまってな。今後は目立たないよう気をつけるさ。」
警察官は指を差す。
「じゃあ、お兄さん、今日はもう帰りなさい。着替えとか持ってるの? そこのトイレで着替えておいで。」
セイギは頷き、路地の奥へ歩き出す。
「ああ、近くの公園のロッカーに入れてあるんだ。心配かけちまったな。すまない。」
繁華街のネオンが、セイギの銀ピカスーツを照らす。ヒーローの使命は、職務質問で一時休止となった。
この戦いに勝者はいない。
何故なら、二人には同じ『熱き正義の魂』があるからだ。少しの食い違いが起きてただけ。
皆、いい人。うん、凄くいい人。




