手
これは私と、友達だったある人とのお話です。
高校1年生の頃、私は結衣という女の子と仲良くしていました。結衣と私は共にバドミントン部に入部して知り合いになりました。最初のうちは、業務連絡をするだけの仲だったのですがたまたま家の方向が同じだったので部活終わりに一緒に帰るようになりました。すると、結衣と私はびっくりするほどに話が合い、すぐに仲良くなりました。一生仲良くしようねと言い合うほどでした。そんなこんなで高校生になって2ヶ月もしたころには結衣と私は大親友になっていたのです。
その日も私と結衣はいつも通り家まで帰っていました。
「結衣とはなんでこんなに気があうんだろうね」
「うーん。なんでだろう、運命かな」
「そそそみー ふぁふぁふぁれーてか。結衣ったら運命なんてまたまたそんなこと言っちゃって。というか、どうする今日もカフェ行く?」
「今日はいいかな宿題やらなきゃだし。それよりさ手繋ごうよ」
手を繋ぐ..?結衣がそんなことを言い出すのは初めてだったので少し驚きましたが、仲の良い子同士が手を繋いで歩くことはそこまで珍しいことでもなかったので了承しました。
「こうして友達と手を繋いで歩くのは何年振りかな、小学校の時以来かも」
「友達?」
「あっ、ごめん。親友ね親友」
私たちは他愛もないことを話しながら歩いていました。いつもと変わらぬ景色、いつも一緒の親友、こんな平和な時間がずっと続けばいいのにな。なんてふわふわ考えながら歩いていた時、私は靴紐が解けていることに気づきました。私は、結衣の手をさっと振り解いてその場にかがんで靴紐を直そうとしました。その時結衣はたしか私の数歩前にいたはずです。
悲劇は、一瞬にして起こります。それは私が靴紐を結び直し、ごめん待たせたと言って顔を上げた瞬間の出来事でした。歩道にトラックが突っ込んできて結衣にちょうどぶつかりました。
「結衣、結衣、大丈夫っ。結衣」
私は自分がギリギリでトラックとの衝突を避けれたことに安堵する余裕もないくらい、無我夢中で結衣の名前を呼び続けました。しかし、結衣が私の呼びかけに答えてくれることはありませんでした。
一年後、私は高校2年生になっていました。その頃には結衣を失ったショックから立ち直りつつあり、新しい友達もたくさんできていました。ただ、その日はあれはちょうど去年の今頃だったよなと、どこかで結衣を意識して過ごしていたと思います。部活が終わって電車に乗りながら、1人での部活帰りも慣れてしまえばそこまでつまらないものでもないなと、ふとそう思っていました。
ぼーっとしていたからでしょうか、電車が揺れますのでお近くの吊り革やてすりにおつかまりください。のアナウンスを聞き流してしまった私は、電車の激しい揺れによって、大きく体勢を崩してしまいました。私は慌てて、周りからの視線を気にしつつ吊り革をぎゅっと握り姿勢を立て直しました。一息ついて揺れがおさまり、吊り革を握る手を弱めようとした時、私は手に違和感を感じました。なんと言えばいいのでしょうか。私が吊り革を握っているだけじゃない、吊り革から握り返されているような感じがしたのです。恐る恐る上を見上げてみると、そこにあったはずの吊り革は人間の手になっていました。
「いや、怖い。離して」
突然の出来事に恐怖しながらも、この手は結衣の手だと直感的に思いました。
「なんで、結衣。離してよ」
【ずっと一緒だよって言ってたのに、なんであの時手を離したの?もう離さない、もう離さない、もう離さない、もう離さない、もう離さない、もう離さない、もう離さない、もう離さない、ずっと一緒】
突然頭の中に聞こえてきた結衣の声に私は冷や汗が止まりませんでした。このままじゃ連れてかれる、誰か助けて。そう思っていた時、誰かにぽんっと肩を叩かれました。
「終点ですよ、降りてください」
私は、駅員さんの声ではっと冷静さを取り戻しました。そして、手に目をやるとただの吊り革に戻っていました。気付けば自宅の最寄り駅を過ぎて終点まで来てしまっていたようで、その日はなんとか家まで帰ることができました。
その後私はバドミントン部はやめてしまいました。結衣のことを思い出すあの場所で、ラケットを"握る"ということができなくなってしまったからです。あの時、駅員さんが声をかけてくれなかったら私はどうなってしまったのでしょうか。高校を卒業した今でも、手にはあのときの感覚が残っています。




