無言の帰宅〜うちの旦那様は死んだふりがお得意でして。〜
「またですか、旦那様」
私は彼のことを冷めた目で見る。
「今度は一体、どんな風に『戦死』なさったので?」
「馬から落ちて頭を打ったんだけど、奇跡的に回復したのさー」
数ヶ月ぶりに戦地から帰宅した旦那様は、ヘラヘラとそう口にした。
彼がそうして家に戻ってくるのは、これで10回目である。
「奇跡の復活を何度も繰り返すより、戦果を挙げられませ」
「やだよ。戦うなんて怖いし、最悪死ぬかもしれないじゃない」
物言わぬ死体となって家に戻ってくることを『無言の帰宅』などと言うようだけれど。
うちの旦那様は、『戦死』していると口にしながら、無言での帰宅などしたことがない。
彼はいつだって元気に『雄弁な帰宅』をするのである。
そしてその内容は、世迷い言ばかりだ。
私は思わずため息を吐いた。
こんな調子だから、うちの領地はいつまでも大きくならないのである。
「旦那様は、お強いのに臆病で困りますね」
「誰も困ってないから大丈夫大丈夫」
私の旦那様は、名声にも栄誉にも褒賞にも興味がなく、出世するつもりがさらさらないのだ。
けれど、私は知っている。
彼は毎回毎回、本当に戦死を装って逃げ帰っている訳ではない。
ただ、どれだけ戦果を挙げようと、その功績を人に譲っているだけだ。
そして何の成果も報奨も持ち帰らないのは、今の生活に満足しているから。
「世の中、目立たないようにのんべんだらりと生きるのが一番幸せだよ、うんうん」
「目立って、過剰に人付き合いをしなければいけなくなるのが煩わしいだけでしょう」
「そうとも言うね」
私は再度ため息を吐くが……別に本心で苦言を呈している訳ではない。
この小さな領地での安寧な生活を、私自身も気に入っているのは事実である。
ただ、旦那様が戦場に召集される度に、お戻りになるまで心配に悩まされるのが嫌なだけだ。
少しくらい不満をぶつけたってバチは当たらない筈である。
「困ったものです。ですが、旦那様」
「うん?」
「……今回も、無事のお戻りで何よりです」
私がそう口にすると、旦那様は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ありがとう。これでしばらくはまた平和だよ。ただいま」
本当のことを何も語らない旦那様は、そう言って私を抱き締めた。
面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、いいね、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等宜しくお願い致しますー♪
この後書きの下部にスクロールすると、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価出来るようになっておりますー!
『侯爵令嬢の不在証明。』という新連載も本日始めておりますので、よろしければ下のランキングタグからご覧いただければ幸いですー♪