表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話.姫と誓いのキスをしたら女神が登場って本当ですか?

「どうしたドウテイ殿、リーナ様の御前でそんな(ほう)けて。かの美しさに見惚れたか?」


···確かに、ずっと片想いしている相手に姿が似ていて驚いたということは、”美しさに見惚れた”と同義かもしれない。


「そうですね、すみません。リーナ様のお顔が知り合いにそっくりだったのでつい···」


「あら、そうでしたか。それは偶然のイタズラかしらね」


ふふふと笑う姫君の顔は、まさに”彼女”の笑顔そのもので、俺の胸は不覚にも、張り裂けそうなほど高鳴っていた。


「そのお方とはどのようなご関係か、伺ってもいいかしら?」


「知り合い、いや、ただの幼馴染ですよ···」

「そうですか···」


こちらの内心を知ってか知らずか、姫様はそれ以上の詮索はしてこなかった。


やはり一国の姫ともなると、器の大きさが覗えるな。


話を深掘りしたくて隣でめちゃくちゃソワソワしている、どこぞの教皇様とは大違いだ。






「ドウテイ様、遠い異世界からこの国にお越し頂きありがとうございます」


まぁ、正確には”召喚”されたんだけど。


「ティアナから話は聞いているかもしれませんが、改めて私からもお願いをさせてください。ドウテイ様、その伝説の力をもって、どうかこのファンザニア王国の再興の為に、是が非でも協力をお願いしたいのです。どうか、私にその力を預からせてくださいませ」


深々と、俺に頭を下げるリーナ様。


その姫様の行動に対し、宰相らしき御仁が露骨に取り乱している。

「い、いけませぬ姫様!一国の領主がそう安々と頭を下げては!」


「安々とではありません!この国の未来に関わる話です。そもそも、領主とは”国”があってこその存在。ファンザニアの地を救う為なら、私のこの身も心も、神にでも悪魔にでも捧げる覚悟はできております!」


「あの〜、姫様、立派なご覚悟に大変感銘を受けますが、生憎(あいにく)と俺は神でも悪魔でもないので、その頭を上げてもらってもいいですか?」


「は、はい。わかりました」


改めて、背筋を伸ばし凛とした立ち姿に戻る彼女。


「ええと、正直、俺、自分が”伝説”の存在って自覚が一切ないので、堅苦しいのは無しで行きませんか?」


「わ、わかりました···堅苦しくないという事は、それはつまり、どういう事なのでしょうか?」


「つまり、国を救うとかそんな大それた話は置いといて、俺は今、1人の男として、1人の女の子を救いたいと思っています」


「1人の、女の子···」


「はい。”伝説のドウテイ”として”一国の姫君”を救うのは俺には荷が重すぎる···だから、1人の男として、1人の女の子を救いたいと思います。いや、是非とも、救わせてください、この俺に···。天童貞治は、リーナ様の為に、この身も心も捧げる覚悟はできています」


「は、はい///で、では、ご協力をお願い致します///ふ、ふつつか者ですが、宜しくお願いします···///」


···あれ?リーナ様の態度がちょっと変わった?

俺、また無自覚にマズい事言っちまったのかな?

まぁ、隣の口うるさそうな宰相(?)さんも静かだし、大丈夫か。


ヒソヒソ。

「ドウテイ様、見かけによらず大胆なお方だなぁ」

「リーナ様に対してあのような物言い、ほとんどプロポーズみたいなものではないか」

「あまりの予期せぬ発言に、宰相殿が白目を向いて立ったまま気絶されておる···」

「まぁ、姫様も”女の子”として喜んでおられる様だし、この件は不問でよかろう」






「で、ではドウテイ殿、準備が整ったので、祭儀を始めるぞ···よいな···」


「は、はい!」

ティアナさん、心なしか、さっきよりちょっと不機嫌になってる?

いや、重要な祭儀を前に緊張しているだけかもしれない。


リーナ様が座っておられた椅子の前に、何やらデカい鏡の様なモノがセットされた。


「ドウテイ殿,リーナ様、その”マジックミラー”の前で向かい合ってお立ち下さい」


ティアナさんの指示通り、向かい合う俺たち。


ほんと、近くで見れば見るほど、見惚れるほど彼女の顔は夏帆にそっくりで、俺は、嬉しさ半分,切なさ半分といった心境だった。






「今から神言(しんげん)の詠唱を執り行います。それが終わり次第、ドウテイ殿とリーナ様には”ベロチュッチュ”をして頂きます。よいですね」


「はい」「わかりました」


「では、始めさせて頂きます」

ティアナさんが、俺にはよく分からない難解な言葉の羅列を読み上げていく。


向かい合うリーナ様にだけ聞こえる程の小声で語りかける。

「すみません、俺、キスとか初めてなので、その、上手くいかないかもですけど···」

情けないが、一応事前に伝えておこう。

 

「あ、ドウテイ様もでしたか···私も、その、初めてなので、その···///」

モジモジと頬を赤らめて視線を泳がせる彼女。


マジか。

俺が、彼女のファーストキスの相手···


役得だ!と、浮かれる事ができる性分であれば良かったのだが、生憎と俺はそれ程お調子モノでもないので、普通に申し訳ない気分だった。


罪悪感に近いモヤモヤを押し殺すように、口から言葉が溢れ出た。

「すみません、初めてが俺なんかで···」


口に出した後で、後悔した。

コレは国を救うための神事なのに、俺はいったい何をつまらない事を言っているのかと。

こういうところこそが”童貞臭さ”なんだろうなと、自己嫌悪せずにはいられなかった。


「い、いえ、むしろ、その、良かったです///」

「え?」

「初めてが、ドウテイ様で、良かったです///先ほど、一国の姫としてではなく、1人の女の子として向き合って頂けて、私、嬉しかったから、だから···///」


顔をあげ、まっすぐと俺の目を見つめる彼女。

「初めてがドウテイ様で、私、嬉しいです///」


その彼女の顔を見て、俺の中で覚悟がきまった。

いや、気持ちを抑え込むのを諦めた、というのが正解かもしれない。


「リーナ様、俺のことは、貞治(さだはる)って呼んでもらってもいいですか。”ドウテイ”という肩書ではなく、俺のことを、名前で呼んで下さい」

あなたには、そう呼んでもらいたい。

夏帆が俺をそう呼ぶのと同じように···


「サダハル様ですね、わかりました」

「リーナ様、”様”は不要です、”サダハル”でいいですよ」

「そうですか、では、サダハルも私のことはリーナと呼んで下さい」

「そんな、流石にそれは失礼にあたるかと···」

「お互いさまじゃないですか」

「いや、しかし」

「では、一国の姫としてサダハルに命じます!私のことをリーナと呼びなさい!」

「ひ、卑怯じゃないですか、ソレは」

「ふふふ、使えるものは何でも使う主義なのよ、私」

「結構(したた)かですね、リーナ様···」

「リーナ、でしょ」

「···リ、リーナ///これで良いですか///」

「ふふふ、宜しいです///」


「あの〜、ご両人、とっくに詠唱は終わってるんですけど〜」

教団員の1人が、申し訳なさそうに進言してきた。


「あっ!す、すみません!もしかして、今の会話···」

「当然、周りに丸聞こえでしたよ」

「わ、私としたことが···流石に恥ずかしいですね///」


チラッと、ティアナさんの方へ目を向ける。

「こらっ、ドウテイ殿っ!姫様と乳繰り合ってる暇があるならさっさと進めんかっ!このナンパ者っ!浮気者っ!」


あ〜、かなりお怒りのようだ。

この神事が終わった後で面倒な事になりそうだなぁ。

浮気者呼ばわりされるのはよく分からんけども。






「では、リーナ様、ドウテイ殿、どうぞ」


皆に見つめられながら、リーナの肩に手を回す。


「リーナ、その、目を閉じてもらっていいか」

「···はい///」


目を瞑り、クイッと顔を上に向けた彼女。

いわゆるその”キス顔”は余りにも美しく、そして、俺が見たことのない、俺がいつの日か見たいと願っていた、平沢夏帆の表情だった···


思わず、カラダが動いた。

強く、強く、抱きしめるように彼女のカラダを引き寄せ、そして、俺は自らの唇を彼女の唇に重ね合わせた。


チュッ。


ファーストキスのその感触に想いを馳せる間もなく、その刹那(せつな)、俺たちの隣にあった鏡が光輝き出し、そして、金髪碧眼の少女が目の前に現れた。


その姿を見て、俺はとっさに天使が現れたと思った。

なぜなら、彼女は宙に浮かんでいたからだ。


『やぁ、初めましてドウテイ君!ボクは、君が始めたこの”物語”の案内人だよ、ヨロシクね♡』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ