第4話.姫の顔が幼馴染と瓜二つって本当ですか?
デカニュウリング教の皆さんが、走り去ったティアナさんを連れ戻してきてからしばらく経った。
やっと落ち着きを取り戻したティアナさんだったが、目の周りはまだ少し赤い。
「ほら、ティアナ様、ドウテイ様にちゃんと謝って下さい」
「グスッ···ドウテイ殿、勝手に期待して、ひとりで舞い上がっちゃってゴメンね···」
「そんな、いいですよ、気にしないで下さい。俺の方も悪かったと思いますし···」
正直、何が悪かったのか自覚は無いけど。
「キュン♡ドウテイ殿、優しい///好き♡」
「いい加減にしろ、この色ボケ!」
「美人だからって何でも許されると思うなよ、年増が!」
「その気まぐれな発情に毎度付き合わされるこっちの身にもなってくれよ···」
「ぴえ〜ん、ドウテイ殿〜、あのジジイ達がイジメてくるよ〜」
俺の胸に顔を埋めるティアナさん。
「ははは···」
この人、めっちゃいい匂いする···///
「グスン、慰めて···」
「はい?」
「慰めて!アタマなでなでしてっ!」
「は、はぁ···」
なでなで。
「えへへ〜///」
なんぞ、このカワイイ生き物は···
「ドウテイ様!甘やかしてはいけませぬぞ!」
「この女、すぐに調子に乗るんだから、取り扱いには気をつけて頂かないと」
「それともなんですか、ドウテイ様が責任をもってコイツを引き取ってくれるんですか?どうなんです?」
「いや〜、それはちょっと···」
なでなで。
「えへへ〜///」
···悪くない提案に思えてきたな。
「ティアナ様、いい加減ドウテイ様から離れてください!見苦しいにも程があります!」
「やだやだ、もうちょっとだけ、もうちょっとなでなでしてもらうもん!」
「ははは···」
教団員の方がティアナさんを俺から引き剥がそうと奮闘していたら、バンッと、出入り口の扉が勢いよく開け放たれた。
そして、いかにも”使いの者”という雰囲気の従者の方が、飛び込むように部屋に入ってきた。
「ティアナ様、ナカオレール王から儀式の認可が降りました。つきましては、至急祭儀の準備を進めて頂きたく、お知らせにあがりました」
サッと俺から距離をおき、スッと背筋を伸ばしたティアナさん。
俺が初めて目にした時の、凛とした雰囲気の彼女の出で立ちそのものだった。
「流石は盟主、病に伏してなお、素晴らしい決断力であるな。皆のもの、聞いての通りだ。すぐに儀式の準備に取り掛かれ!」
「「「はっ!」」」
ティアナさんの号令のもと、教団員の方々は散り散りに行動を開始する。
「ドウテイ殿も、リーナ様への謁見の後、直ぐに儀式を執り行うゆえ、覚悟を決めてもらうぞ、よいな」
「は、はい、わかりました!」
ティアナさん、急に人が変わったみたいだ···
教団員のひとりが、俺に近づきボソッと呟く。
「ドウテイ様、ティアナ様はご覧の通り、我々身内の前でのみポンコツなのです。頭首の恥は、我々デカニュウリング教としても恥···くれぐれも、外部にはご内密にお願いします」
「は、はぁ···」
「では皆のもの、いざ参るぞ!」
そう指揮を執るティアナさんの横顔は、間違いなく教皇の立場に相応しい貫禄に満ちていた。
「いつもああなら苦労はしないのにのぅ···」
隣で溜息をつく教団員の方には申し訳ないが、俺は、ポンコツ状態のティアナさんの方が好みだなと、無責任にそう思った。
デカニュウリング教の教会?を跡にし、城へと馳せ参じたティアナさんと数名の教団員と俺。
いかにも”王族の居る部屋”へと続いてそうな厳かな廊下を進み、そして、これまた絢爛な階段を上ったその先で、明らかに気品が高い扉の前に辿り着いた。
「ドウテイ殿、この先にリーナ様が居られる。くれぐれも粗相が無いように頼むぞ」
「はい」
王族相手に失礼を働いたらどうなることやら···気を引き締めねば。
「ふふ、リーナ様のあまりの美しさに取り乱すでないぞ」
「その点に関しては、ティアナさんの美しさでだいぶ慣らされたので、大丈夫だとは思いますけど···」
と口に出したところで、マズいことを言ってしまった自分の愚かさに気付いた。
「···ドウテイ殿、後からじっくりと、”ティアナさんの美しさ”についてお話を聞かせてもらおうか···///」
「···はい」
「では、参ろうか」
”王の間”の扉が開かれる。
その広々とした空間の中にも、これまた絢爛な大階段があり、その上の玉座に、1人の女性が座っていた。
いかにも”王国の姫君”といった出で立ちの彼女。
水色の気品溢れるドレスに、高価そうだが清楚なデザインのティアラと首飾り。
それらを身に纏う、その姫君の姿を目の当たりにし、俺の心は酷く動揺していた。
!? !? !?
な、なんでっ!?
ただ、その動揺と等しく、自分の中で1つ腑に落ちたこともあった。
なぜ、この国の姫を救う使命を与えられた”救世主”に、俺が選ばれたのか···
おそらくは、そういう神の導き、つまりは”運命”だったのだろう、と。
だって、目の前に居るお姫様のその御尊顔は···
「初めまして、ドウテイ様。私は、ファンザニア・オナフォール・マンコリーナと申します」
俺が、長年恋焦がれてきた幼馴染、平沢夏帆と瓜二つだったのだから···