はじまり
彼の者の怒りは地震のように大地を揺るがす。
彼の者の憤りはすべての王国を揺るがし、全世界にも轟く。
彼の者の憤懣は地獄の業火が呪われた者の魂を焼き尽くすように敵の魂を焼き尽くす
彼の者の憤怒は潮流をかき乱し、その行く手にあるすべてのものを飲み込む
彼の者の力は月が太陽から裂けたように、天を裂くことができる
彼の者は自然そのものであり、揺るぎない、止められない、理解できない力であり、我々が持っているどんな理論も覆すことができる。かの者は駆逐、絶滅をもたらし、かの者の邪魔をするものすべてに終止符を打つ。
彼の者はこの地球が見たこともないような強烈な恐怖なのだ。人間が感じることのできない最も深い恐怖である。自分に逆らうすべての者の悪夢である。人類が築き上げてきたものはすべて、かの者が持つ無限の能力のほんの一部に匹敵することすらできない。かの者の目は、最も原始的な本質における純粋な死を映し出している。そして、かの者の前にいるあなたにできることは...かの者がもたらす地獄から早く殺されることを祈ることだけだ。
未来を見通す偉大なる魔術師「クロノトロフィア」直筆
「プロフィテイスト・スタ・ペラタ・トゥ・コスモウ (世界の果てまでの予言書)」
に記された最後の予言「エクストリーム・モメントゥン(最後のひととき)」の一部
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遥か昔、惑星の創造が「パリオイ・セオイ(古の神々)」の頭の中に理想化されるようなものでもなく、そのような神々が存在すらしていなかった時代、宇宙はただ巨大な“無”であった。その無はやがて「カオス」とよばれるようになる。完全な闇、計り知れない広大さが、宇宙全体を覆っていた。この状態が宇宙でいつまで続いたかを計算することは、我々人類には不可能。何千年、何億年、何兆年経ったのか知ることはできない。また、起こったことがすべて、ほんの千分の一秒の間に起こったことではないのかどうかも、決してわからない。わかっているのは、ある時点で、カオスに意識と呼ぶものが芽生えた。どのようにして、あるいはなぜそうなったのかは、その理由は「創造の第一の謎」とされている。あるいは、「無」が宇宙を包み込み、無限に広がる生命体だったのか、それとも別の銀河系からやってきた強力な存在が、不思議な方法でこの宇宙にたどり着き、ひとり眠っていたのか。我々にはわからない。しかし、一つだけ確かなことがある。孤独は、生きていようといまいと、どんな存在にとっても最悪の恐怖なのだ。宇宙をさまよい、何も見ず、何も感じず、何も聞こえない。孤独がもたらす影響は計り知れないが、カオスでさえ長い間、それに耐えることができなかった。このように広大で拡大し続ける世界で孤独であることの苦悩は、かつて「オラ(すべて)」となったものの自己認識そのものに影響を与えた。
何もなかったのが、2つになった。2つの存在、2つの実体、2つのもの、2つの完全に分離した意識のある生命体。宇宙に初めて、カオス以外の何かが現れたのだ。そして初めて、カオスはもはや孤独ではなくなった。どちらが最初に生まれたなのかは誰にもわからないし、率直に言って、どうでもいいことだ。同じ存在の2つの半分が、互いに影響し合うことができるようになったのだ。イリミタタとイデムと呼ばれる存在の誕生は、時間そして空間の誕生を意味した。それは2人にとって宇宙は彼らが干渉できる「場所」のなり、「永遠」にもう2度と孤独を経験せずに生きられる。イリミタタとイデムは何百万年もの間、自分たちの住む宇宙について語り合い、何回も宇宙創造し破壊する。必然的に、かつて1つだった2人は、自分たちのような他の存在がいることは、2人にとって有益であるという結論に達した。同じ存在の一部であると同時に、2人は互いに異なっていた。意見が分かれたり収束したりするのは、2人にとって信じられないことだった。相手の考えがわからないということは、カオスが感じていた計り知れない孤独に終止符を打つことになる。しかし、それと同時に、異なる意見をもつ存在を誕生した。イデムとイリミタタはカオスから引き継いだ「もの」は全くの真逆であり、それでも互いを完結させる。陰と陽。例えるなら、2人は硬貨の表と裏である。片方なしに片方は存在せず、だからと言って彼らが向いている方向はいつも真逆。2人は同じ存在でありながらも別の存在でもあった。だから、彼らのような存在がもっといれば宇宙について新たな結論を導き出すことができるだろう。そういう想いで彼らはもう一度分離した。しかし、前回と違って2人はただ孤独を凌ぐ術を求めていなかった。彼らの目的は宇宙の在り方を決めることだった。どれだけ長く話し合っても2人は全く別のものを望んでいた。イリミタタは、他の銀河を融合させ、一つの宇宙の中に生き、時間の概念を消し、イデムと永遠に語らうことを望んでいた。しかし、イデムは時間こそ彼らを動き出す燃料であり、時間が経過するからこそカオスと同じ孤独を味合わずに済むと信じていた。宇宙の中に時間の概念を消しても一度時間を創造した彼らの頭から時間の概念は消えることがなく、彼らが永遠だと思う時間にやがて退屈するだろうとイデムは思っていた。どれだけ話し合っても彼らの考えを変えることは決してなかった。
だが、分離を決めたからと言って存在という素晴らしいものに目覚めた2人は長らく求めていたものを手放し彼らの意識を犠牲に新しい意識を持つ生命体を生み出すことを一切考えなかった。そして分離に関して1つの問題があった。カオスは完璧な分離を行なったため、同量の力を持つ生命体を生み出してしまった。イデムとイリミタタの力が拮抗しているため、彼らの意見が完全に一致しない限り宇宙を変えることは不可能だ。1人が賛成できなければ1人が想像するだけで片方の創造物を無に返すことができる。
今回の分離の根本が違うものにする必要があると、2人は知っていた。よって、彼らの存在を保つことを大前提として、彼らが持つ力の一部を手放し新しく生まれる生命体に適当に分配することを決めた。それは、彼らと違ってその生命体は不完全な状態で作ることを意味する。全知全能の2人は、計り知れない知識や力を持つからこそ打開策を考えることが不可能と2人は考えた。不完全だからこそ考えられることがあると2人は信じていた。このような計画を作るにつれ彼らは1つの結論に至った。宇宙の在り方について2人が関わる必要ないという結論。1つの方向にしか向かない硬貨を2枚作るよりも、時には表、時には裏、時には同じ方向を向く硬貨を作った方が良いと彼らは感じた。一見無計画と呼べるが、彼らが永遠と話し合い、妥協も譲歩もできなかった2人がその件に関して考えてももう一度永遠が経過するだけで状況は何も変わらない。だから2人はこの件に関して無干渉を決した。新しく生命体を作り彼らに判断を委ねることのほうが公平でなにより早く終わる。
やがて、イデムとイリミタタは7人の生命体を作った。この数字には極めて重要な意味がある。
「パリオイ・セオイ(古の神々)」
7は人類の全ての文化において「完璧」「成功」「完全」の意味を持つ数字である。それは「パリオイ・セオイ」に因んでいる。イデムとイリミタタは2人だった。違う面しか向かない硬貨2枚。しかし、もう一枚硬貨があったなら話は違っていたことは誰もが想像できる。奇数は優柔不断の終わりを表し、多数決による議論を終わらせる有効な手段である。その後、イデムとイリミタタはそれぞれ、自分たちを象徴する意識を完全に映し出す3つの新しい存在を創造した。それぞれが異なる創造主を持つ2つの三位一体「トリアダ」は、彼らの声、手、意志となるように創造された。ただし、2つの「トリアダ」つまり6つの存在では問題を解決することはできない。双方を理解し、新たな解決策を提供し、未完成の議論にバランスをもたらすことのできる、もう一人の当事者が必要なのだ。イデムとイリミタタは一緒になって、彼らの意識の半分を受け継ぐ新しい存在を創造した。絶対的な力を持つ者でさえ垣間見ることのできない地平線を見ることのできる新しい存在。混沌に平和を、混沌に平和をもたらす存在。『絶対法廷』、『先を見据える者』、『神々を見通す賢者』、『最終審判者』、『永遠の均衡』、あるいは単に『均衡の女神』サピエンティアが誕生した。
サピエンティアとともに『創造の神』ディミウルゴス、『時の神』テンプス、『想像の神』コギターレに代表されるイデムのトリアダと、『破壊の女神』イムテリトゥス、『空間の女神』ローカス、『力の女神』ポテスタスからなるティラニスのトリアダは、創造主の手と頭脳となる1つの使命をもって創造された。
そしてこの7人の神々が思うがままに宇宙を作ってきた。
『想像の神』コギターレは神々の中で最も苦労した。彼は宇宙を改良するために何百万、いや何十億ものアイデアを思いついた。宇宙全体を支配する複雑な法則から、今日私たちが惑星と呼んでいるものがどのように形成され、どのような生物がそこに生息するかまで。
『想像の神』コギターレが想像した後、『均衡の女神』サピエンティアは他の神々とともにそのアイデアを審査する役割を担った。もしそのアイデアが承認されれば、『均衡の女神』サピエンティアはそのアイデアに調和をもたらし、完璧なバランスを与え、互いに衝突しないようにする責任を負う。もし承認されなかったとしても、『均衡の女神』サピエンティアはその計画を心に留めておき、後で『想像の神』コギターレと新たな試みに向けた改善策を話し合うこともサピエンティアの役目であった。
承認された提案は『創造の神』ディミウルゴス及び『破壊の女神』イムテリトゥスの手によって実現された。
次に、『空間の女神』ローカス、『時の神』テンプスそして『力の女神』ポテスタス。
そうやって宇宙は「パリオイ・セオイ(古の神々)」によって創造された。星や惑星、そしてそれらを支配する物理原理や化学反応が神々に何回も想像・調整・破壊され、完璧なバランスを実現するまで神々は永遠の時間を費やした。