アメリーの怪我
読んでいただきありがとうございます。感謝しています。
「怪我をして直ぐに君のお父上が娘をよろしくお願いしますと来られた。君は高熱だったので寝顔だけ見られて帰っていただいた。あれ以来は訪問はされていない」
「公爵家にお世話になっていれば安心だと考えているのだと思います。申し訳ございません」
「別に怒っているわけではないんだ。確かに家だと最高の手当が出来るのは間違いがない。唯の報告だよ、気にさせてしまったね。済まない」
「このご恩は怪我が治りましたら働いてお返しいたします」
「そんな事は考えなくていいよ、婚約者として当たり前の事だ。原因は僕だしね、完治するまでゆっくりするといい。取り敢えず疲れただろうからお休み」
「おやすみなさいませ」
薬の影響と怪我のせいで体力も無くなっているのだろう、アメリーはあっという間に眠ってしまった。
眠ってしまったアメリーを見ながら、この前迄笑顔を見せていた姿が目に浮かんできた。マッサージで変身し美容に目覚め楽しそうだった事、ポーションを褒めると嬉しそうだった。
未来を見つめ好きな勉強に取り組み凛としていたのに、夢が手のひらから溢れ落ちそうになっている。儚げなこの人を何としても守りたいと強く思った。
メグはアメリーのお気に入りになっていたので怪我を防げなかったが代える気はなかった。影は犯人をすぐ捕まえた。アメリーの部屋の前と窓の下に護衛を配置する事にした。ギルバートは学院での教科の履修をほぼ終えていたので、登校しなくて済むようにした。アメリーも優秀だったので残りは公爵邸で勉強をさせ、試験だけで卒業できるようにした。
それにしても頭のおかしなあの女は子爵家の庶子だった。あんな事をして逃げ切れるとでも思ったのだろうか?後ろに高位貴族が付いているのかと調べさせたが単独犯だった。騎士団に突き出し公開処刑にして貰うよう公爵家として要請している。公爵家を敵に回せばどういうことになるか見せしめになってもらわなくてはならない。
もちろん子爵家はとり潰しになった。
きちんと躾の出来ていない娘を社会に出した罪は重い。
アメリーの容態は一進一退だった。調子が良くなったと思ったら熱を出して寝込んでしまう。痛みも薬の切れ間に襲ってくるようでよく魘されていた。メグが献身的に世話をしていた。休ませないといけないので時々ギルバートが代わるようにした。頭に乗せるタオルを代えたり、汗を拭いたり、魘されている時は手を握ったりした。
一月ほど経った頃にようやく回復の目処が立ってきた。ベッドに起きて座れるようになってきた。背にクッションを入れ食事をしたり。短い本なら読めるようになった。
「ようやく座れるようになり嬉しいです。普通の生活がどれほど有難いか分かりました」
「うん、良かったよ、起き上がれれば食事も変わってくる、そうすればもっと元気になるのが早くなるよ」
「ベッドの上で脚もそっとですが動かしてもらっていましたので、歩く練習もスムーズにいくと思います」
「無理はしないで、ゆっくりでいいんだからね」
「ギルバート様にはこんなにしていただき一生足を向けて眠れません」
「僕が原因なんだからもっと威張っていればいいんだよ」
「私が変なお願いをしたからですわ」
「もうやめよう、きりがないよ」
「はい、そうします。ではお願いが一つあるのですが」
「僕に出来ることかい?」
「お時間のある時でいいのです、夜寝る前に少しの時間でいいので本を読んでいただけないでしょうか?元気な時は寝る前の読書は習慣だったのですが、こういう状態だとなかなか難しくて」
「いいよ、お安い御用だ。どんな本が良いの?」
「ハラハラするものでなければ構いません。ミステリーや冒険物は続きが気になって仕方が無くなると思うので。いつもお読みになるような経営の本でもいいです。難しい本は寝る前に読むといい睡眠導入剤になっていました」
「優しい物語を見繕ってくるよ」
「我儘を言って申し訳ありません」
「もっと良くなったら車椅子で外に散歩に出られるようにしよう。陽に当たればお腹もすくだろうし、気分転換になるから夜もよく眠れるようになるよ」
「車椅子ですか?楽しみです」
久しぶりにアメリーの笑顔を見たような気がした。
髪と身体は湯で拭かせているが顔をマッサージさせるのはどうだろう。少しでも気分転換になる事ならいいのではないだろうか。後でメイドに命じておこうと思うギルバートだった。
執務室に帰る途中に廊下で母に会った。
「アメリーさんの具合はどうなの?大事にしているようだからいいけどきちんと治るまで責任は持ちなさいね」
にっこり笑った母の目は笑っておらずギルバートはどこまで知っているのかわからない母が恐ろしくなった。
誤字報告ありがとうございます。感謝しています。怪我の具合が酷くて可哀想過ぎますね。