暴力
怪我の描写が出てきます。苦手な方は飛ばしてくださるとありがたいです。
長期休み中の会えない日は毎日花束が届けられた。手紙が添えられていることもある。アメリーが疑われないようにと家族への配慮なのだろう。ビルが届けてくれ、ギルバートの様子を話してくれる。(仮の)婚約者様はお忙しそうだ。アメリーも勉強に励むことにした。
もちろん外国語は力を入れた。一度だけお茶会に招待されたことがあり、例の計画を打ち明けてみたら大笑いされた。アメリーはかなり真剣だったのでぽかんとしてしまった。
「アメリーって賢いのにとてつもないことを考えつくんだね。それはとっても高い薬になるだろうね。僕の家は金持ちだけどそんな危ないものにお金は出せないよ」
「申し訳ありませんでした。考えなしでした」
しゅんとしたアメリーが可哀想になったのだろう
「そんなところが君の良いところなんだけどね。今のことは誰にも話さないでね。君なら作ってしまいそうだから」
「薬草の知識は平均並みなので作れないと思います」
「薬草の知識まで持ってるの?アメリーは凄い人だね」
「普通だと思います。ポーションを作って一人暮らしもいいかもしれませんね」
「えっポーション作れるの?あの回復に効く?」
「薬草さえあれば作れます、皆様作れるのではないですか?」
「作れないよ、アメリーのことで知らないことが沢山ありそうだね。今度ビルに薬草を持たせるから作ってみてくれる?それとも家で作る?」
「汚れますので家で作ります。私だけしか知らない部屋があるんです。物置にしか見えないので誰も近づきません」
「メグも知らないの?」
「メグは知っていると思いますが、そこで何をしているかまではわかっていないと思います。一人にしてもらっていますので」
「君は危なっかしくて目が離せないな」
影からはそういう話は聞いていない。きつく言っておかないとと思うギルバートだった。
「この間注文していたドレスが届いたんだ、見てみるかい?」
気を取り直したギルバートは客間に案内をした。そこには色とりどりのデイドレスと夜会用のドレスが並んでいた。
「こう沢山並んでいると圧倒されます。こんなに買って頂きありがとうございます」
「夜会用のドレスは家において置くとしてデイドレスは後で届けさせよう。毎日着てほしい。見ることが出来なくて残念だけど」
「こんなにしていただき何をお返しすればいいのでしょうか」
「気にしなくていいけど、ポーションには興味があるからそれでお願いしたいな」
「わかりました、必ずお作りしますね」
「肌と髪の手入れはきちんとしているみたいだね、凄く綺麗になったよ」
真っ赤になったアメリーが
「ありがとうございます」
と小さな声で答え俯いてしまった。何だろうこの可愛さは今迄何とも思っていなかったはずなのにドキッとしてしまった。
長期休暇の間にポーションを作りビルを通じてギルバートに届けてもらった。味も苦くならないようにした。
思いの外喜んでもらったようで疲れが取れたと言ってもらえた。嬉しかった。
ポーションを作れるのは家族には内緒だった。関心がないので何も言わないとは思うが、知られると色々面倒だ。外国での暮らしにも響くかもしれない。
メグは全てを分かっていて黙っていてくれる。得難い侍女だ。さすが公爵家の侍女は違うと深く納得するアメリーなのだった。
長期休暇も終わりギルバートが迎えに来てくれるようになった。解消方法はまだ浮かんではいない。言い出したのはアメリーなのだから何か考えないとと思うのだが出て来ない。
試験があったり、ランチを食べたりと普段通りに過ごしていたある日の事だった。二階にある音楽室にピアノの楽譜を取りに行った時に事件は起こった。階段の中頃まで降りた時に誰かに背中を押されたのだ。
身体がふわっと浮き足元に何も無くなった。隣にいたメグが腕を引っ張ろうとしたのがわかったが、意識はそこまでだった。
気がつけば知らない部屋に寝かされていた。酷い顔をしたメグがベッドに張り付いていた。
「お嬢様、気が付かれましたか、良かったです。私が付いていながら大怪我を負わせてしまい申し訳ありませんでした。このお詫びは命を持って償います」
「待って、待って、命を持って償うなんて止めて。私はどうしてこんな事になっているか教えて欲しいんだけど」
「お嬢様は階段で背中を押されて落ちてしまわれたのです。犯人は捕まえて牢獄に入っております。直ぐに処刑になりますからご安心を。お水をお飲みになられますか?」
「ええ、何日くらい眠っていたのかしら?」
「一週間でございます。御主人様とお医者様を呼んでまいりますのでお待ちください」
「わかったけど、命で償わないでね、帰ってきて、必ずよ」
「使命に失敗いたしましたのでそれくらいの覚悟はしていましたのに」
「メグが好きなの、側にいてほしいの。だから、ね、帰ってきてね」
暗い顔のメグが出て行ってすぐギルバートとおじいちゃんの医者らしき人が入って来た。
「アメリー目が覚めてよかった。僕のせいで死んでしまったらどうしようかと思ったよ」
「腕と脚の骨折と脇の骨が少し折れておる。高熱が出ていたが下がったようじゃな」
身体を見ると全身包帯でぐるぐる巻きだった。
「どれくらいで治るんですか?ちゃんと治りますか?ここはどこですか?」
「ここは公爵家の屋敷だ。学院から近かったし、この先生も常駐してもらっているから直ぐに診てもらうことが出来た」
「落ちてすぐの手当が的確で良かった。そして複雑には折れてはいないが半年以上はかかる。顔に傷がなくて幸いだった」
「そんな・・・試験もあるのに」
「それは家の力でなんとかしよう。犯人だがきみを逆恨みした者の仕業だった。自分のほうが婚約者に相応しいとかぶつぶつ呟いていた。済まない、こんなことばかりで」
「ギルバート様が悪いのではないのでお気になさらないでください。メグも命で償うなどと言っていましたが止めるようにギルバート様から言ってあげてくださいね」
「ありがとう、そうするよ」
誤字報告ありがとうございます。感謝しかありません。
階段から突き落とすのは犯罪です。犯人は馬鹿なんでしょうね。直ぐ捕まります。