アメリーとギルバートの新しい楽しみ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
アメリーは自分がこんなに変わるなんて想像もしていなかった。今迄勉強ばかりして美容に興味のなかったせいでもある。平凡だと決めつけて何もしてこなかった。目から鱗というのはこういうことなのかと自覚した。
隣にいる超絶美形の男性には遠く及ばないが、努力して出来るものなら少しでも上を目指したい。メイク技術もパターンがいろいろありそうで面白い。他所の家のメイドに技術を教えるのは問題があるかもしれないが、一応今は婚約者なのである。「教えてくださらない」と可愛くお願いすれば叶うのではないだろうか。元が真面目なアメリーは美容を頑張ってみることにした。
ギルバートもアメリーの変身ぶりにはびっくりしていた。少し手をかけただけで見違えるような美少女になった。別荘にいるうちは毎日マッサージをさせようと思う。褒めて自信もつけさせたい。明日はドレスを注文しにドレスショップに行こうと思った。
少しおかしいかもしれないが、初心な女性を自信にあふれる大人の女性にさせる楽しい遊びを見つけたと思った。
アメリーのお茶を飲む所作は美しい。伯爵令嬢なだけある。なのにどうして自分をあんなに卑下するのだろう。自己肯定感が低すぎるのだ。
ビルに命じてブライス伯爵家の内情を探らせることにした。
調査の結果アメリーの両親は後継の兄を尊重しアメリーはいずれ家を出ていくものとして扱っていることが分かった。貴族の家は娘が嫁ぐ事は当たり前だ。普通の親だとは思う。しかしアメリーは頭が良いのだ。もっと伸ばしてやれば良いものをと思った。
アメリーの兄は整った顔の綺麗な男だった。頭の良さはアメリーほどではないがそれほど酷くはない。領主としてやっていくには不足がないくらいの物だった。
しかも伯爵家の嫡男として学院でも人気を博していたらしい。
嫡男には価値があり大事にするが娘には普通に結婚をと思うことはおかしくはないが、娘の望みは王宮官吏になることなのだ。親として誇りに思ってもいいくらいの事なのに頭ごなしに結婚ばかりを勧めているらしい。
今は公爵家から縁談があり落ち着いているようだが婚約を解消したら逆戻りだがそれでいいのだろうか。
貴族の中には娘を駒にする家も多い。まだましか、できるだけ合格するまでは守ってやりたいと、報告書を見ながら思うギルバートだった。
「せっかく綺麗になったんだから明日は付き合ってもらいたいところがあるんだ、良い?」
「もちろんです」
にっこり笑ったアメリーはとても可愛らしかった。
アメリーと(仮の)婚約者になってからは突撃してくる女性が格段に減った。害虫駆除も出来た。円満解消とはどうすれば出来るのか頭が痛いギルバートだった。解消して彼女を傷つける者が出てくるのは避けたかった。アメリーは善良だったから。
翌日ギルバートはアメリーを連れてドレスショップに行った。夜会用のドレスとデイドレスを数着買うつもりだった。
採寸がいる夜会用のドレスときちんとしたデイドレスは生地とデザインを決めて本邸の方に届けてもらうようにした。出来合いのデイドレスを数着買って帰ることにした。
「ギルバート様、こんなに買っていただくわけにはいきませんわ」
「アメリーにはいろいろな色が似合うと思うんだよね。僕が見たいから買うんだけど駄目だった?」
「駄目ではありませんが、勿体ないです」
「着てくれればいいだけだよ」
「身体は一つです」
「毎日着がえるだろう。靴も揃えるからね。着て見せてよね」
「うっ、頑張ります、ありがとうございます」
ショップの店員が生暖かい目で二人を見ていたがアメリーには気付く余裕がなかった。
アメリーはメイド達からメイクの仕方をを教えてもらい沢山の化粧品と髪用のケア商品も買って帰ることにした。自分で稼ぐようになったら品質を下げて行けばいいのだ。
自分を磨くことがこんなに楽しいなんてギルバート様のおかげだと改めて衷心を尽くそうと思った。
勉強だけではない人生の楽しさを知ってアメリーの人生は豊かに変わり始めていた。
超絶美形の男性と歩くと注目されるのは学院で慣れているつもりだったが、街なかはそれ以上だった。視線が皆ギルバートに注がれていた。思わずため息が出そうになったが、せっかくのお出かけなので何でも無い風を装った。街でもギルバートは優しくエスコートしてくれた。もう優しくしないでと心が悲鳴を上げそうになっていることにアメリーは突然気が付いた。
アメリーは早く別荘に帰り一人になりたかった。心臓がドキドキして苦しい。想いを自覚してしまえば、ギルバートを欺くことになる。早く自分の思いに蓋をしなくてはいけない。
契約に反することをしてギルバートに愛想を尽かされるのはどうしても嫌だった。笑ってありがとうございましたで終わらせたいと思った。
別荘から帰ったら暫くはギルバートに会えなくなった。公爵令息として後継の
仕事があるそうだ。会えなくてアメリーは少しほっとした。
自分の気持ちを整理することができる。あんなイケメンに(仮の)婚約者として優しくされて絆されないようにするのは至難の技だ。恋愛の何たるかを知らなかったからあんな契約が出来たのだと思い知った。
こうなれば一時的に仮死状態になって婚約を解消できたら良いなと突拍子もない事を考え始めたアメリーだ。死んだように見せかけて遠くの国へ行き名前を変えて働きながら暮らすのはどうだろうか。幸い五カ国語は話せる。
そんな凄い薬は伯爵家では手に入らない。公爵家の力で何とかならないだろうかと、どうしようもない願いをギルバートに相談しようかと思い悩むアメリーだった。
誤字報告ありがとうございます。感謝しています。
何やら解消に自信がありそうだったギルバートはこれと言ったアイデアがあったわけではないみたいです。格好付けただけだけみたいですね。