(仮の)婚約者としての覚悟
読んでいただきありがとうございます。暇つぶしにしていただければ良いなと思っています。
結局ギルバートは契約の婚約者になる事を引き受けることにした。アメリーの置かれた立場を守るためと自分の女性よけのためだ。
世間で言われているほど自分はいい人間ではないと思っている。しかし信頼出来る相手を切り捨てるほど非道ではないと思う。
来年学院を卒業したら婚約者を決めろと親から言われるはずだ。アメリーの話は渡りに船だった。どうやって世間的に問題なく婚約を解消に持っていくかが課題だった。
他の女性に乗り換えるからなんて言う酷いものは嫌だ。ギルバートは考えを巡らせ始めた。
父親に話を通しておいた。相手が伯爵家なのでまあ良いだろうと了承がもらえた。ブライス家は中立派だ。政事には関心がないらしい。ノートン公爵家はもちろん王族を支持している。
公爵家から婚約の申込みをした。人の良さそうなアメリーの両親が驚く様子が目に浮かび気の毒になった。
ギルバートもブライス家に申し込みに行った。親だけでなくアメリーがあわあわしていたのが可笑しかった。
「お庭をご案内しますね」
とアメリーが言い二人で歩くことになった。ここからの話は誰にも聞かれるわけにはいかないので丁度良かった。
「無理を聞いていただきありがとうございます。このご恩は忘れません」
「私達は婚約者になったんだ、敬語はやめよう。君は仕事に就くため、僕は女性よけのためだ。ギルバートと呼んでくれないかな」
「ギルバート様、試験に受かりましたら約束通り私のことなど気にせず婚約は解消していただいて結構です」
「解消の理由を考えているところだから任せておいて。これからだけど君に対する嫌がらせが酷くなると思うんだよね。公爵家の影って分かる?君に付けるよ。プライベートなところでも目を離さないように言ってある。もちろん女性だから安心して。それと君を守ってくれる侍女兼護衛のメグだ。学院の同級生として側にいさせる」
女子学生にしか見えない人がササッと傍にやって来た。今迄何処にいたの?眼鏡を掛けていて三つ編みをして純朴そうな女の子にしか見えない。こんな人が護衛なんて公爵家凄すぎる。
「とんでもないお願いをしてしまったのですね。申し訳ありません。メグ様よろしくお願いします」
「彼女はアメリーの遠縁の女の子という設定だから呼び捨てで。メグもアメリーを呼び捨てだ、いいね」
「かしこまりました」
「メグは伯爵家で暮らしてもらうよう話がつけてある」
ギルバート様は仕事が早いしテキパキとしていらっしゃる。こんな凄い方になんというお願いをしてしまったのだろう、お役に立たねば。
「足はもういいのかな?」
「明日には学院に復帰できます」
「僕が毎日送迎すれば婚約の噂は広まるね。できるだけ睨みを効かせるから安心はして欲しい」
「はい、よろしくお願いします」
「砕けた話し方の練習をしなくてはいけないね、言ってみて」
「ギルバート様は食べ物では何がお好きですか?」
「違うよ」
「ギルバート様は食べ物では何が好きなのかしら?」
「肉かな、君のように真っ赤な林檎も好きだよ」
私はいつの間にか頬が真っ赤になっていたらしい。恥ずかしい。
「明日から送迎とお昼を一緒に食べることにしよう、良い?」
「いつも友人と食べていたのですが」
「その友達とメグと僕の侍従と五人というのはどうかな?その友達は信用のおける人なの?」
「優しい人ですが、ギルバートと(仮の)婚約をしたと知ったら驚きますね。急には受け入れてくれないかもしれません」
「どこから秘密が漏れるか分からないから黙っておくほうがいいかもしれないね。時間が経てば分かってくれる可能性はあるかもしれないけど。ほら言葉が元に戻っているよ」
「あっ、ごめんなさい。でも直ぐには無理です」
「仕方がないか、婚約したばかりだものね」
歩きながらかなり話していたので東屋にお茶の用意をしてもらい休憩することにした。紅茶と色とりどりのスイーツが並べてあった。メイドがお茶を淹れて去っていった。
「スイーツはお好きですか?」
「好きだよ」
じっと見つめて言われたのでつい俯いてしまう。普段からこんなやり取りをしていれば大抵のご令嬢は誤解をするだろう。自分の行動に自覚がないのだろうか。
明日から厳しい日々が始まるのだ。いくら護衛のメグが側にいても一人の時を狙われるに決まっている。少しくらい夢をもらっておこうと思うアメリーだった。
皆の憧れの人の婚約者と言う立場がどれほど妬まれるか、覚悟をしていたアメリーだが、実際のやっかみがどれくらい酷いのか実はまだ分かっていなかった。
誤字報告ありがとうございます。ヒーローは良いやつです。
女の子からのやっかみがすごそうですね。