思いついた解消の理由
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三ヶ月ほど経ちアメリーの怪我も大分良くなってきていた。車椅子での散歩も日常のようになっていた。散歩の付き添いはメグだが、時間の空いている時にはギルバートが押してくれゆっくり歩いてくれた。
色々な花が沢山咲いている庭園は見飽きるということがなかった。
「綺麗なお花を見ると心が洗われるようですわ。大分お世話を掛けてしまいましたし、そろそろ自宅に帰ろうかと思うのですが」
「きちんと治っていないのだから駄目だよ。いい加減なところで放り出したなどと噂が立っては困る。家が恋しくなったのかな?」
「そんな訳ありませんわ、こんなに良くして頂いてありがたいといつも思っています」
「じゃあ、その話はなしだよ」
「でもこの怪我が婚約解消の良い理由になりますね。世間的には傷物令嬢ですしギルバート様はこんなに優しく看病をしてくださったのです。悪く言う人は何処にもいないでしょう。私も約束が守れてほっとしております」
「君は僕が嫌いなの?」
震える声でギルバートが聞いた。
「そんな訳ありません。ギルバート様のような方を嫌いな人が何処にいるでしょう。ただ約束を守りたい、それだけです」
ギルバートは何故自分がこんなに動揺しているのか分からなかった。熱のこもった目で見てこない、変わった契約を持ちかけてきたこの令嬢に翻弄されている理由が理解できていないただの残念な男だった。
「取り敢えずは脚が治るまではここにいて。治ったかどうか分からないのに解消するなんて無責任なことは出来ないよ」
「ギルバート様は真面目ですものね、中途半端はお嫌いですよね。でも解消するちゃんとした理由が見つかって良かったです」
「何故、喜んでいるの?早く解消したかった?」
「私から一年の契約でとお願いしたのにギルバート様の名誉が傷つかない理由が見つけられていなくて心苦しかったのです。出来るなら笑ってありがとうございましたと契約を終わりにしたかったのです」
とにこにこしながら話すアメリーの顔がきちんと見られなくなったギルバートは早めに散歩を切り上げた。
アメリーのいる生活は楽しいものだった。難しい外交の話や薬草の話をしてもつきあってくれた。外国語で会話するのも楽しかった。寝る前の読書も何を読んであげようかと迷うところから楽しかった。
別荘に行った時にマッサージで見違えるように綺麗になった時は驚いた。アメリーも美容に目覚めたようで自分から積極的に綺麗になろうとしていて微笑ましくなった。勉強ばかりで自分を磨いていなかったのだろう。
一緒にドレスを注文したときにもこんなに沢山買っていただいてと遠慮していたのが好感が持てた。
もっと自信を付けて貰おうと思っていたのに、怪我でままならなくなり中途半端だ。マッサージは顔は美容を重点的に、身体はリハビリが目的でオイルを使い軽い運動を兼ねた物にしていると報告を貰っていた。
本格的なリハビリはかなり良くならないと治りを悪くするのでまだやってはいけないと、昔から居るサム医師に言われているので、アメリーもわかっているはずだ。
解消の理由を見つけましたと言われ自分はショックを受けているのだろうか、初めからわかっていたことなのにどうしてなのか戸惑ってしまうむギルバートだった。
とうとう解消の理由を見つけギルバートに伝えたアメリーは一旦蓋をした自分の恋心がじくじくして苦しくて堪らなくなった。これは知られてはいけない心なのだから隠し通さないとギルバートに軽蔑される。
優しくして貰ったのに邪な考えを持っていると知られたら(仮の)婚約者の立場は直ぐになくなってしまう。怪我が治ったら隣国へ行き試験を受けることにしよう。彼が綺麗な女性と笑い合っているのを見ているのは辛い。いい思い出を沢山頂いたのだからそれだけで一生、生きて行ける。
本当なら恋心に気づかれないように実家に帰って療養をしたかったが、責任感の強いギルバート様のことだから完治するまでは面倒をみたいと言われるに違いない。
おじいちゃん先生の言う事を良く聞いて、食事と薬で早く治るように頑張ろう。離れてしまえばお姿を見ることも叶わなくなるのだから、今のうちに目に焼き付けておこうと思うアメリーだ。
友達のアナトリアとは手紙でやり取りをしていた。とても心配させてしまったようで申し訳なかったが、公爵家のベッドの住人であるアメリーは起き上がれるようになって暫くしてやっと返事を書くことができるようになっていた。
アナトリアは学院の様子を書いてくれ、アメリーがいなくて寂しいが怪我のことを第一に考えてと手紙をくれていた。
犯人の令嬢のことは一行も書かれていなかった。彼女はそういう人だなと納得したアメリーだ。
誤字報告ありがとうございます。大変感謝しています。




