偶然の出会い
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アメリーは伯爵家の長女だが、兄がいるので後継の心配はない。この国は三代前の王太子が夜会で婚約者を冤罪で断罪するという愚行を犯したせいで恋愛結婚が主流になっていた。子供の頃からの婚約者を雑に扱い他国のスパイにハニトラされた話は今でも語り継がれていた。
アメリーももう十七歳、両親から相手を見つけなさいと口煩く言われてうんざりしていた。学院で見つけなさいと言われて入学してみれば恋愛よりも勉強が面白く、成績も良かったため王宮に文官として就職したいと思っていた。
学院の人たちは垢抜けていて自分など足元にも及ばない。容姿だって平凡だ。男子学生が好むのは可愛らしい容姿の令嬢なのだ。黒髪で金色の瞳のアメリーなどどこにでもいる女の子の一人に過ぎない。
何処かに仮の婚約者になってくれる男性がいればいいなと考えながら歩いてせいかもしれない。注意が散漫だった。あっと思った時には誰かとぶつかってしまっていた。
相手は学院で一番人気の公爵令息ギルバートだった。書物を沢山運んでいたために向こうも前が良く見えていなかったのが災いしたのだろう。書物が足に落ちて思わず座り込んでしまった。とても痛い。後から腫れてくるのかなとぼんやり考えていた。
その途端身体が浮いたような気がした。従者に書物を任せアメリーを横抱きして医務室に連れて行ってくれるようだ。
「あ、あの歩けます。降ろしてください」
「僕がよく見ていなかったからぶつかってしまい申し訳なかった。このまま医務室に行くから君はじっと捕まっていて」
「私もぼんやり歩いていたのでお互い様です。大丈夫ですから降ろしてください」
「書物を効率的に運ぶことを重視してしまった。申し訳なかった」
このまま謝り合っていてもしょうがないのでアメリーは大人しく運んで貰うことにした。ギルバートは頭脳明晰、容姿端麗、性格は穏やかで剣術にも長けているのに婚約者どころか恋人の噂も聞いた事がない。爽やかが服を着て歩いているくらいの人なので明日になればこの事もあっという間に広まってしまうだろう。
全校の女子学生を敵に回したと覚悟を決めたアメリーだった。
医務室に行くと校医がいてよく効く湿布を出すけど足の腫れが引くまで暫くは休みなさいと言われた。
痛み止めも一週間分出して貰い仕方がないので自宅で休むことに決めた。
あまり暗い顔をしているとギルバート・ノートン公爵令息様が気にされるといけないので、無理矢理笑顔を作った。官吏試験の勉強をするのに丁度いいかもしれないと考えを改める事にした。
「アメリー・ブライスです。この度はお世話をおかけしましてありがとうございました」
「ギルバート・ノートンだ。同じクラスだけど話をしたことはなかったよね。考えると変な話だね二年間も同じクラスにいて話したことのない人がいるなんて」
貴方は人気者でいつも周りには誰かいますし、私はアナトリアという親友しか話をしていないのでなんて言えるはずもないので、曖昧に笑っておいた。
もちろん登校時や下校時にはクラスメイトには挨拶はしている。
私の印象がそれくらいだということだ。
「あっ、いつも成績が上位だよね。僕も上位なんだよ、知ってた?」
「もちろんです、ノートン公爵令息様は有名人ですから」
「嫌だなあ、クラスメイトなんだから名前で呼んでほしいな。それと敬語も止めてほしいんだけど」
「でも話をするのは初めてですし」
この人こんな軽い感じの人だったんだ、さっきまで申し訳ないと言ってた時と感じが違うんだけど。
ギルバートは邪な目で見て来ない女性に初めて会い感動していた。大体自分の見目と地位にすり寄って来るのだ。毎日うんざりしながらすり抜けているのにこの新鮮さはどうだろう。楽に息ができる。足の怪我だってギルバートのせいにしてすり寄って来られるのかと警戒していたのだ。
そうなら侍従に任せてしまおうと思っていた。
アメリーと言う名前には覚えがあった。頭の良い生徒だ。試験の結果発表の時にいつも張り出されていた。一生懸命勉強をしていたのに休む事になり申し訳ない。その間のノートは届けてあげようかと思うギルバートだった。
この足では靴が履けないので歩けないだろう。伯爵家の馬車には先に帰ってもらうよう事情を告げて、公爵家の馬車で送って行くことにした。ご両親にもこうなった事を話して謝らなくてはならない。
アメリーはいきなり送って行くと言われて驚いてしまった。お互い様の事なのだ。なんて真面目な人なのだろうか、人気があるのも頷けると納得した。
公爵家の馬車は乗り心地が大層良かった。揺れないのだ。伯爵家の馬車だってそれなりだと思っていたが想像を超えていた。目の前の人との身分の違いを改めて感じた。
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