表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二十年後に好きになる君へ

作者: 村崎羯諦

 突然の手紙でごめんなさい。クラスメイトの長岡緑です。私は今、君がいる二十年後の未来から、君に向けて手紙を書いてます。


 私が子供の頃、つまりは今君がいる時代は、二十年後の自分に向けて手紙を書くことが流行っていたかと思います。だけど、二十年後になると、物体を過去や未来に送ることができる技術が発明されていて、こうやって昔の人に手紙を送れるようになっているんです。科学の進歩ってすごいね。


 多分、君は私からこんな手紙を受け取って戸惑っていると思います。無理もありません。だって、二十年前の君は私とそんなに話したこともないし、私のことをクラスメイトの一人としか考えていなかったはずだから。でもね、実は二十年後の未来では、私と君は結婚しているんです。


 学校を卒業した後、大人になってから参加した同窓会で君は私と再会します。もちろん君には私と特別な思い出があるわけではありません。だけど、君は、私が自分と同じ職業についている事を知って、それをきっかけに意気投合することになります。


 それから連絡先を交換して、二人で遊びにいくようになって、君が私に告白をしてくれました。それからも二人でいろんな所に行って、いろんなことを話して、付き合ってから三年後の秋に君はプロポーズをしてくれました。決してロマンチックじゃなかったし、君は緊張のしすぎでセリフも噛み噛みだったけれど、あの瞬間は今でも鮮明に思い出す事ができます。


 長くなってごめんね。別に私と君の馴れ初めを話したくて、手紙を出したわけではありません。私が君に手紙を出したのは、あるお願いがあるからです。


 君が将来参加する同窓会、そこで私には話しかけないでください。いや、そもそも同窓会自体に参加しないで欲しいです。つまりは、同窓会で私と意気投合して、今のように結婚する人生を歩まないで欲しいということです。今とは違う、もっと別の、素敵な未来のために。


 君と結婚することができて、私は心から幸せでした。これは本当です。愛する君と毎日を過ごせる事が、こんなにも素晴らしい事だなんて思ってもいませんでした。その幸せが眩し過ぎて、取り返しのつかない間違いを犯していることに、私は気がつかなかったのかもしれません。


 結婚後すぐに不況になって、会社からリストラされたことをきっかけに君は次第に精神がおかしくなっていきました。言動がおかしくなり、些細なことで怒ったり、そうかと思えば怯えて泣き出すことが多くなりました。目は虚になり、いつもぼーっとどこかを見ている。不眠で目の下には真っ黒なクマができて、顔も身体も痩せ細っていきました。


 そんな君を見て、私は心が躍りました。ボロボロになった君の姿は、どうしようもないほどに愛おしかったから。


 結婚してからというもの、私は君とたくさんの楽しいことをしてきました。精神的に君を追い詰めることはもちろん、身体を使った遊びもたくさんしました。殴ったり、蹴ったり、つねったり、叩いたり、引っ張ったり、刺したり、剥がしたり、燃やしたり、裂いたり、締めたりしました。


 君は私にされるがままでした。もちろん精神と身体がボロボロで、抵抗する力がなかったのもあったのかもしれません。でも、それにしても君は私に対して全然抵抗する素振りを見せなかったから、私は不思議に思いました。ある日、なんで無抵抗なの? と君に聞きました。すると、君は虚な目で、私を愛しているからだと答えてくれました。


 その言葉を聞いた時、私はなんで酷い間違いをしてしまったんだろうと思いました。だって、そうでしょう? 私はもっと君に抵抗したり、嫌がって欲しいのに、変に恋愛という過程を経てしまったせいで、抵抗してくれなくなったのだから。


 君は私のことを単なるクラスメイトと思っていたからもしれません。だけど、私はずっとずっと君のことが好きでした。


 二十年前の私は、毎日君のことを考えていて、ボロボロになった君の姿を想像して胸をキュンとさせていました。私が君と同じ職業についていると言いましたね。これは決して偶然ではなくて、私はあえて君と同じ職業についたんです。他にも君は自分との共通点を見つけるかもしれないけど、それは全部、私が君のために作ったものなんです。


 反応しないおもちゃほど退屈なものはありません。君の愛していると言う言葉を聞いた後、私はこれまでの全てを捨てることにしました。今君は私に殺されて、ベッドの上に横になってます(ちなみに刺して殺しました)。私は死んだ君と同じ部屋で、この手紙を書いています。


 長々と書いてしまってごめんなさい。つまり、君には私を愛して欲しくないんです。


 君が同窓会で私に話しかけさえしなければ、君が同窓会に参加することがなければ、君は私を好きになることはないでしょう。そうすれば、君は私のことを何とも思わないはずです。そうなったら私は前々から準備していた別のプランを実行し、君のことを誘拐して、とある山小屋に監禁していたはずです。何とも思っていない相手であれば、きっと君は激しく抵抗してくれるだろうし、もっともっと楽しいことができると思っています。


 もちろん君がこの計画を知っていても、いくら警戒していても、君には私を止めることはできないと思います。私はいつだって君のことを監視して、計画を成功させるチャンスを何年も、何十年も待ち続けることができるのだから。


 最後にもう一度。


 私のことを、二十年後に好きになる君へ。お願いだから、私のことを好きにはならないでください。私のことを何とも思わないでください。


 そうすればきっと私たちは素敵な関係になれると思います。君とたくさん楽しいことができる未来を、私は心から祈っています。


 二十年前から、君のことを愛している長岡緑より。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ