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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この異世界転生物語は、フィクションではありません。~異世界転生した人は、チートスキルで大活躍してハッピーエンドになる。それが世界のルールです~

作者: 巫月雪風

優樹菜(ゆきな)。何の用?」


 高校の校舎裏。

 私、桜井(さくらい) 優樹菜が呼び出た優斗が、そう聞いてきた。

 彼、朝霧 優斗(あさぎり ゆうと)は、私の小さい頃からの幼馴染だ。

 ちなみに、お互いに十六歳の高校生。


「うん、あのね……」


 私は一息つくと、


「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」


 私がそう言うと……

 優斗はポロポロと涙を流した。


「ゆ、優斗……どうしたの?」

「だって……だって……」


 優斗は涙を流しながら本当に嬉しそうに笑った。


「最近、ずっと話せなくて、嫌われていると思ったから、嬉しくて」

「優斗……」

「ありがとう。僕も、ずっと好きだったよ。これからもよろしくね」


 そう言って彼が涙をぬぐった瞬間……


「「「「「ドッキリ大成功~!!!」」」」」


 そう言って、私の背後、つまり優斗からは死角となる位置から、何人ものクラスメイトが現れた。


「いやー、面白いもの見せてもらったよ」

「ほんとほんと。バカだとは思っていたけど、ここまでバカとはね」

「って言うか、顔見た?面白すぎ。ってかさ、ちゃんと録画してる?」

「してるしてる。Me Tube(動画サイト)にもアップするしな。後で見直そうぜ!」


 みんなそう言って爆笑している。

 そう、これは私が皆に頼まれて行った嘘の告白、つまり嘘告だ。

 幼馴染の私に嘘告させて、それをばらして楽しもうという内容。


 優斗は高校に入ってから虐められている。

 ……クラスメイト全員に。

 きっかけは、多分彼が一年の時にテストで学年一位になったからだと思う。

 元々大人しかった彼は目を付けられ、やがて皆に虐めれるようになっていった。

 当然、教師は見て見ぬふりだ。


 私はと言うと……虐めに加わっていた。

 だって、虐めないと皆に虐められるから。

 私にとって幸運だったのは、優斗を表立って虐めなくて済んだことだ。

 その代わり、優斗の事をクラスメイトに色々教えさせられた。

 幼馴染だからこそ知っている、彼の秘密、トラウマ等々。

 皆はそれを使って彼を虐めぬいていた。


 ……今日の噓告も、そういった虐めの一環だった。

 そう……クラスメイト達は、とうとう私にも虐めに直接加わるように言ってきたのだ。

 私に断る度胸は無かった。


「そっか……そうだよね。優樹菜みたいな人気者が、僕なんかに告白するはずないよね」


 優斗は自虐的にそう笑って言った。


「ってかさ、今まで気づいてなかったの?俺らがお前らの事を色々知ってたの、優樹菜ちゃんが色々教えてくれてたからだぜ!」


 !!!

 それ、優斗に言わないって約束してたのに!!


「優樹菜……僕との事を話してたって…………本当なの?」

「え、えっとね……」


 優斗の問いに、私は思わず口ごもった。

 代わりに応えたのは、クラスメイトだった。


「そうだぜ、優樹菜ちゃん、お前の事色々喋ってくれてたんだぜ」

「そうそう、お前と優樹菜ちゃんと二人であれやったこれやった~って話とか、二人の秘密の話とかさ、色々教えてくれたんだぜ」


 ……二人の秘密の話。

 それは、二人だけの秘密の約束。

 誰にも言わないっていう、約束。

 でも、言ってしまった。


 だって、……だってだって、しょうがないじゃない!

 最近は、話す内容がどんどん無くなってきて……

 このままじゃ虐めに直接加わらなければいけなくなると思ったから。

 ……結局、話す内容が無くなってこんな事になっちゃったけど。


「ハハハ……そっか。やっぱりそうだったんだ。信じたくなかった。あり得ないって、ずっと思ってた。でも、これが真実なんだね。二人だけの秘密の約束を破るくらい、僕は嫌われていたんだ」

「当たり前だろ、バーカ。お前みたいなゴミを好きになる女なんかいねーよ」


 優斗の絶望した顔から発せられた、乾いた笑いと言葉。

 それに対して、クラスメイト達は嘲笑で返していた。


「ほんとほんと。ってかさ、優樹菜もかわいそうだよね。こんな奴が幼馴染でさ」

「そうだよね~。優樹菜って見た目もいいし文武両道なのに、こんな奴が幼馴染ってだけで人生損してるよね」

「そうだよな。なぁ、優樹菜、言ってやれよ。とっとと死んでくれって」

「「「「「そうだそうだ、言ってやれ言ってやれ」」」」」


 皆がはやし立てる。

 私は……

 

「本当そうだよね。こんな奴が幼馴染なんて本当に嫌だよ。早く死んでほしい」


 言うしかなかった。


「よく言った!そこに痺れる憧れる!」

「分かったかよ、優斗。彼女を好きならとっとと死んでやれ」

「そうそう」

「「「「「死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!死~ね!」」」」」


 死ねの連呼。

 拍手もしている。

 途中から私も加わった。

 だって、加わらないと私も虐められるから。


 彼は、無言で走り出した。

 涙を腕で拭きながら。

 私達とは逆方向の、学校の外へ向かって。


「ははは、だっせー」

「お似合いの姿よね」


 皆が彼を指さして笑う。

 私も一緒に笑う。


 私は、笑いながら自分がドンドン壊れていくのを感じていた。

 元々壊れかけていたのが、完膚なきまでに壊れていく感覚を。

 私は昔から優斗の事が好きだった。

 もちろん初恋で……今も変わらず好きで。

 いつかは愛に変わっていった。


 でも、もう私に彼を愛する資格はない。

 いや、誰かを愛する資格すらないのだ。

 わが身可愛さに好きな人を売い、あざ笑う私にはそんな資格は無い。

 今まで認めたくはなかったその事実を、私は認め、受け止めた。


 さようなら、私の初恋。

 さようなら、私の人を好きになる心。


 私は、彼の後姿を見ながら、そう思っていた。

 そして、彼が学校から出た……その瞬間。

 キキキーッ、ドン!!


 優斗がトラックに跳ねられて吹っ飛んだ。


 私の周囲の空気が凍った。

 助けに行かないと。

 いや、まずは救急車?

 そう思った瞬間……

 

「「「「「プッ……アハハハハハハハハ!」」」」」


 皆が爆笑し始めた。


「ねぇねぇ、見た今の!すごい勢いで吹っ飛んだよ」

「おれ、交通事故の現場ってはじめて見た。おもしれ―!」

「ってかさ、あれ絶対死んだよね。ウケる~」

「よかったね、優樹菜。願いが叶って」

「あぁ、これでゴミが消えてすっきりしたな」


 何を……何を言っているの?

人が轢かれたんだよ?

 助けないといけないんじゃないの?


「で、でもほら、一応救急車を……」


 私はそう言ったんだけど……

 

「おいおい、何言ってんだよ。それで助かっちまったらどうすんだよ」

「そうそう、せっかく死んでくれるのにさ。助けるなんて馬鹿な事する必要ないよ」

「皆の言う通りだよ。ってかさ、ばれる前に逃げようぜ」


 意志の弱い私は……。


「そ、そうだよね。助けるなんて馬鹿のする事だよね。逃げよう」


 そう言って逃げる事しかなかった。

 きっと誰かが救急車を呼んでくれる。

 そう信じて。




 その日の夜。


「優樹菜、由香里(ゆかり)


 夕飯を妹の由香里(小学五年生、十歳)と一緒に食べていると、お母さんが青白い顔をして話しかけていた。

 私は食欲が全く無かったけど、無理してお腹に詰め込んでいる。


「優斗君がね……」

「お兄ちゃんが、どうしたの?」


 由香里は優斗が大好きだ。

 お兄ちゃんと呼び慕って、よく優斗と遊んでいる。

 そして、夕飯の時はよく何をして遊んだかを楽しそうに話すのがよくある風景だったりする。


「亡くなったって」

「?」


 由香里は持っている箸を落とした。

 私は……フリーズしてしまった。

 きっと助かってる、そうに違いない。

 そう信じていた私の願いは、叶わなかった。


「急に道路に飛び出たところをトラックに跳ねられて……意識があった可能性が高くて、すぐに救急車を呼べば助かったんだろうけど、たまたま誰もいなかったらしくて。トラックの運転手も気を失っていたそうだから……」


 私は青ざめた。

 あの時、あの時救急車を呼ぶ勇気が私にあれば、助かったのかもしれないのに……。

 それに、意識があったなんて……。

 彼は轢かれた後、何を考えていたんだろう。


「嘘だ!だってお兄ちゃんいつも言ってたもん。道路に飛び出しちゃいけないよって!お兄ちゃんが道路に飛び出るなんてこと絶対しない!」


 そう、彼はそういう人だった。

 でも、あの時の彼は……きっとそんな事を考える余裕は無かったんだろう。


「細かい事は分からないけど……とにかく私は優斗君の家に行ってくるから、留守番よろしくね」


 彼の家と私の家は家族ぐるみの付き合いだから、何かあったらお互い様。

 助け合うのはいつもの事だ。

 こうして、お母さんは出かけて行った。


「お姉ちゃん……嘘だよね。お兄ちゃんが死んだなんて、絶対嘘だよね」

「……」

「嘘だ、嘘だ。絶対嘘だ!」


 私は、泣きじゃくる由香里を抱きしめながら、頭を撫でてあげる事しかできなかった。

 彼女が泣き疲れて眠った後、私は自室で通話アプリLIMEを開いた。


 既に虐めグループ、通称<汚物消毒サークル>のグループ会話で、色々と書かれてあった。


『ねぇねぇ知ってる?あいつ、死んだんだって』

『あー、やっぱり。で、即死?』

『違うって。何でも意識があってすぐに救急車呼べば助かったんだろうってwww』

『ちな、トラックの運転手は?』

『気絶してたんだってさ。一緒に死んでれば面白かったのに』

『てかさ、ゴミに意識が有ってトラックの運ちゃんが気を失ってたんなら、あいつが死ぬまでの所を撮影しときゃよかったねwww』

『だよねー。トラックに跳ねられた人間が死ぬまでの観察なんて、もう二度と見れないよね』

『そうそう、きっと死ぬ直前の虫みたいにピクピクしてたんだろうしね。面白いだろうな』

『ほんと。あー残念(笑)』

『引かれた時どんな感じだったとか、全身から血が出ている感じとか聞きたかったよね~。残念www』

『優樹菜はどう思う?見たら感想よろ♪』


 こんな事が書かれてあった。

 この人達、人間じゃない。

 そう思ったけど、私は……


『みんなの言う通りだねwww』


 そう返した。


 あぁ、そっか。

 私も人間じゃないんだ。


「アハ、ハハハハハハハハハハ……」


 私は狂ったように笑った。

 涙が出て来た。

 多分、これは私が流す最後の涙。






 そして、彼の葬式も終わった数日後。


 両親が出かけているある日の午後。

 由香里が私に急に声を掛けて来た。


「お姉ちゃん……」


 由香里が私のスマホを持っていた。


「由香里、私のスマホを勝手に使っちゃダメって言……」


 そう言った瞬間、私は黙ってしまった。

 スマホに映っていたのは動画。

 私が優斗に噓告をして、彼が逃げ出して……そして車に引かれた後に私達が救急車を呼ばずに逃げ出した、あの時の動画。

 クラスメイトが撮ったこの動画は、皆で共有しようと送られてきた物だ。

 消そうとも思ったが、そうするとまた虐められるかもと思い、消せなかった。


「LIMEも見た。最近お姉ちゃん様子がおかしかったから。何が原因か知りたくて」


 私は何も言えなかった。

 由香里は今まで見た事も無いような憎しみのこもった眼で私を睨んでいる。

 そして、彼女は絶叫した。


「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがお兄ちゃんを殺したんだ!」

「ち、違……」

「どこが違うの?お兄ちゃんの気持ちを弄んで、最低!」

「わ、わた……しは」

「それに、どうして救急車を呼ばなかったの?命を何だと思っているの!」

「そ、それは……」

「お兄ちゃんはずっとお姉ちゃんの事が好きだったのに……このクズ!」

「ま、待って由香里……」

「おじさんとおばさんに言う!お父さんとお母さんにも!」

「それだけは、それだけはやめて!」


 外に向かって歩き出した由香里の手を掴む。


「離せ、人殺し!鬼、悪魔!!」

「違う、私は……」

「どこが違うの!あんたなんかお姉ちゃんじゃない!!死んじゃえ!!」

「!!!」


 由香里の言葉に、私は思わず手を離した。


「あ……」


 由香里は外に出て行った。

 そして……

 キキキーッ、グシャ!!


 由香里が大型のトラックに轢かれてしまった。

 妹の小さな体はトラックの下敷きになり、グシャグシャになっていた。

 もう助からないのは……誰の目にも明らかだった。


 ……由香里の死は、彼女が急に飛び出した事が原因の事故と判断された。

 そして…………私の罪は、暴かれずに済んだ。






 由香里が死んでから、半年が過ぎた。


 私達家族は、遠くに引っ越している。

 お母さんは心を病んで精神病院に入院し、お父さんは仕事にのめり込んで家に帰って来なくなった。

 転校した私は友達を作る事もせず、ただただ人形のように生きている。


 優斗の家族がどうなったかは知らない。

 私には知る資格がないと思っている。

 いや、知る勇気が無いというのが本音だ。


 そうして暮らしていたある日。

 最近異世界転生物の小説が流行っている事を知った。

 そのお約束が、トラックに轢かれるという事も。


 そして、いくつかの異世界転生を題材にした物語を読んだ私は、気付いた。



 そっか……


 あの二人は異世界転生したんだ。

 そうだ、そうに違いない。

 だって、トラックに轢かれて死んだんだから。

 それに、あんなに優しい二人が、異世界転生しないはずがない。

 きっと今頃異世界でチートスキルでブイブイ言わせているに違いない。

 そう、そうだよ。

 そうじゃなきゃおかしい。

 あの二人が死ぬなんて、絶対ありえないもの。


 トラックに轢かれた人は異世界転生して、チートスキルで大活躍してハッピーエンドになる。

 それが世界のルールなんだ。

 決まり事なんだ!



 ……この日から、私は夢を見るようになった。

 その夢の中では、異世界転生した優斗と由香里がチートスキルで多くの人を救っているのだ。

 優斗はお姫様や貴族に平民、エルフや猫耳少女にモテモテで。

 由香里はそれに嫉妬しているんだけど、でも優斗が一番愛しているのは由香里で。

 両想いの二人は、世界を楽しく旅していて、いつも幸せで……。


 私は夢で見た内容を小説にする事にした。

 この小説は人気が出て、書籍化する事が出来た。


 今日は担当編集との打ち合わせ。


「あの、先生。どうして主人公とヒロインの外見にそんなにこだわるんですか?モデルの写真を持ってきてくれるのはとてもありがたいのですが、正直主人公とヒロインなのですからもっと見栄えを良くしても……」

「この写真のままにしてください。でなければ辞めます」


 担当編集の意見に、私は即答する。

 この要望は絶対だ。


「まぁ、いいですけど……それより作者コメントにあるこの文章は何ですか?」

「何って、そのままの内容ですけど?」

「まぁ、先生がいいなら、いいんですけどね……」


 私が書いた作者コメントの末尾には、こう書かれている。




 この異世界転生物語は、フィクションではありません。

お楽しみいただけましたでしょうか?

まぁ、楽しめる内容じゃないですけど。


この内容は唐突に思いつきました。

ちなみに、初期のイメージでは妹は異世界転生しませんでした。

ふと、妹も異世界転生した方が面白くね?と思ったのでしてもらう事に。

おかげでタイトルを考え直さなければならなくなりましたけど。

これって私に対するザマァですかね?


ちなみに、最初に考えていたタイトルは、

この異世界転生物語は、フィクションではありません。 ~異世界転生した幼馴染は、チートスキルで大活躍してハーレムを作る~

でした。

ですが、投稿した内容ですと、転生したのは幼馴染だけじゃない。

→ハーレム作ると妹がかわいそう。

で、今のタイトルになりました。


あと、クラスメイトのザマァが無いのは、こういう奴らってずるがしこいから簡単にはザマァされない=長くなるからです。

本筋じゃない内容を長くするのもどうかと思いますし。

例えば

仲間割れして~、とか一応考えましたけど、何か違うと思って書きませんでした。

まして、罪の意識で~なんてこいつらにはないでしょうし。


色々な作品で、こういうひどい奴らが出てくると、

「こんな事するなんて、お前ら人間じゃねぇ!」

ってセリフを主人公達が言いますが、私は

「ひどい事をするのが人間です。むしろあんたらみたいな善人こそ、本当に人間なの?」

って言いたくなります。


まぁ、だからアニメや小説って楽しいんですけどね。

悪党倒してすっきりできますし。


ちなみに、優斗の両親は離婚してます。


よろしければ、ご意見ご感想、レビュー以外にも、誤字脱字やおかしい箇所を指摘していただけると幸いです。

いいねや星での評価もお願いいたします。

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