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出生の事情

 時は江戸、宝歴六年に鳥文斎栄之チョウブンサイエイシこと細田時富ホソダトキトミは生まれた。細田家念願の第一子であった。

 細田家は、五百石取りの直参旗本で祖父時敏は勘定奉行を務めた。五百石は、めずらしい石高ではなく同じくらいの石高の武家ならば五千近くある旗本のうち九割が持っている。しかし下にいる旗本からしてみれば多いほうだったかもしれない。いわゆる中の上。

 それゆえ第一子として時富は、大事に育てられた。父は明るく朗らか、母は体調を崩したものの優しく芯のある女性だった。父と母は、お互いを愛していて二人を見るとほほえましくも恥ずかしく感じていた。そんな二人を好きで尊敬していた。

 ただある一点に関して、時富はひたすら恨んでいた。それは時富が一生縛られる秘密であり明かされることのなかった真実である。


 時富は『女』であった。


 なぜそんなことになったのか。それは、父が母を愛するがゆえの出来事だった。


 母は、子どもを産みにくい体質だと医師に言われていた。そのため祖父は、父に妾腹をもてと再三言ったが戦略結婚に関わらず母を愛していたので断っていた。それから奇跡的に時富が生まれ家族全員喜んでいたらしい。男児ならば跡継ぎとして育てられるし女児でも婿養子をとればよい。この時代、長男以外はどこかの家に嫁ぐか城務めをして独り立ちするのが一般的であった。


 時富が女として生まれてきても問題なかったはずだった。それが覆されるのは、時富が生まれた一カ月後に決められたこと『家を継ぐのは、直系のものだけで婿は認めない』という取り決めだった。


 現在、細川の家の直系は父のみで子どもは時富のみ。母が男児を産めば問題が解消されるが、母は出産で体調を崩し子どもを授かるのは絶望的であった。なおさら祖父は、妾腹の必要性を説いたが父は聞き入れない。


 この説明では、祖父が悪役のように聞こえるが理由がある。女はいずれ分家もしくは他家に嫁ぎよほど器量のよいものでなければ同等の家になる。細田家は、中の上であったから同じもしくはそれ以下の可能性が高い。だが父が死に家督を継ぐものがいない場合お家が断絶される。それが時富の嫁いだ後ならばいいが、ひとたび疫病や火災などあれば人は簡単に死んでしまう世である。お家断絶された娘を娶りたいという酔狂なものはそうそういない。よくて妾腹、悪くて吉原に売られる。


 祖父の説得は、時富を思っての言葉であった。そして父と祖父は、苦渋の決断をした。


 時富を女ではなく男として城に届ることでお家断絶を免れた。世継ぎには、分家から適当な女を迎え妻とし同じく分家から男を屋敷に迎えるということにしたらしい。そんな企みが上手くいくかと思ったが分家としても本家がお家断絶されると困るので分家とは話がついた。

 かくして時富は、女の身なれど男として育つこととなった。

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