やっぱりモテるよな。
真子から、もう5年も付き合ってるんだから結婚してよと催促がきたのは2年前だった。
キラキラ将来を語られる。子供は何人作って、戸建てに住んでって
最初から与えられないものを欲しがられてる人間の気持ちわかるか?
母親は、頭のいい人だった。
胸が締め付けられる。
20歳の時、俺を病院に連れていき意図も簡単に精神異常者に作り上げた。
あの人にとっては、息を吐くぐらい簡単な事。
それからは、あの人の思うように事が運んだ。
全てが終わった後で、あの人は俺に言った。
「よかった。これ以上、橘の血を汚す人間が増えなくて」
「それは、子供にいう事?」
「あなたの事をおっしゃってます?あなたは、私の子供ではありませんよ。最初から、醜くて大嫌い。」
そう言って笑って行ってしまった。
兄貴二人は、父さんにとても似てた。
俺は…。…。
嫌いなんでしょ?
ヤバい、星を拒んだせいで変な事思い出した。
ダメだな、俺。
真子とちゃんと別れなきゃいけないよな。
望むものが、与えられないんだ。
別れなきゃいけないよ。
涙が、流れて止まらない。
23歳の俺は、自暴自棄に陥ってた。
ホストになって、沢山の女の人と遊んだ。
辛い気持ちも、悲しい気持ちも、誰かを抱くと消えた気がした。
そんな泥の中を潜ってるような日々の中で真子に出会った。
「最低ね」バチン
ありがとう、最低だから。
「大丈夫?」
「大丈夫だから」
「いつも、此処で女の人に殴られてるよね?」
「あっ、知ってたの?」
「はい、君の分」
そう言ってアイスキャンディーを渡された。
「ありがとう」
「夜のお仕事の人?」
「ああ、まあな。」
「こんな事、言ったら驚くだろうけど。私、君が好き。付き合ってくれない?」
「ああ、いいよ。」
「よかった。」
こんな風に優しくされたの初めてで、俺は真子を受け入れた。
結婚…この二文字が出るまで、凄く楽しかったのにな。
俺は、目を閉じて眠った。
頭イタッ…。顔洗って、歯磨いて今何時?10時か…。
自販機行くかな?外に出た。
階段上がってる、星が見える。
「よかった。」
「やっぱり、綺麗だね。」
「そんな事ないよ」部屋に入れた。
俺と目が合って軽く会釈された。
腕組んでた。
へー。男もいけるタイプなんだ。
俺は、階段降りて自販機に行った。
気持ち悪いとか思わなかった。
なんか、俺にも望みあるんじゃないのって感じた。
コーヒー買って、部屋にもどる。
壁に耳をつけてしまった。
何をしてるのかハッキリわかる。
ポタポタって手に雫が落ちた。
なに泣いてんだ、俺。
「泣いてる顔が、やっぱり綺麗だね。」その声がやけに耳にこびりついた。
あの顔、そいつにも見せてんだな。
出ていく音がした。
また、自販機行くフリして声でもかけるかな。
コーヒーを飲まずに置いて、家を出た。
「そんなに、喜んでくれるなんて」
「本当に、嬉しい。」
ちょうど家の前に星が、女と居た。
どういうシチュエーション?
モテるんだな。
両方いけるんだな。
また、会釈した。
入っていった。
俺は、すぐに部屋に入る。
星の部屋の壁に、耳をつけた。
何をしてるかわかった。
「泣き顔、綺麗だね」女も同じ事を言ってる。
誰とでも出来るから、俺も受け入れようとしたんだな。
壁から耳を離して、缶コーヒーを開けた。
なんで、泣いてんだろう。
相手は、男だし。
俺、興味ないじゃん。
男なんて…。
頭の中に、昨日の星が浮かぶ。
涙が、流れてくる。
止まらない。
止められない。
触れたい。
触れて欲しい。
苦しくて、胸の奥が痛い。