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満たされたから、大丈夫

隣で眠る氷雨の頭を撫でていた。


幸福感が、身体中を駆け巡っている。


「寝ちゃってた。」


氷雨の目に輝きが戻っていた。


「おはよう」


そう言った僕に氷雨は、抱きついた。


「もう大丈夫だよ。星の愛がしっかりと(ここ)に貼りついた。」


そう言って、自分の胸を覗き込んでいる。


「よかった。」


そう言って笑うと、氷雨は


「僕は、この先、星に会うのは、兄さんが目を覚まさない限り無理だと思う。」


「そうだね。」


「約束してよ。兄さんが目覚めたらこうやって会って」


「わかった。」


「手だけは繋いでいい?」


「ダメ」


「なんで?」


「人のものだから」


「そっか」


氷雨は、寂しそうに目を伏せた。


「星、兄さんが目覚めたら左手の小指につけるリングを買いにいこう」


「いいの?」


「同じものをつけていたい。欲張りだけど。彼に悪いかな?」


「彼は、大丈夫。僕の世界一の理解者だから」


「別の人を愛してるの?」


「そうだよ、彼は他に愛してる人がいる。叶わない人」


そう言うと氷雨は、さらに僕を抱き締める。


「一生こうやっていれたらどんなに幸せな事だろうか」


「うん」


「来世では、一緒になりたい」


「探すよ。氷雨の事」


「見つけてね。ちゃんと」


そう言って氷雨は、僕をずっと抱き締めてくれる。


「何か作ってあげようか?」


「レシピ教えてくれる」


「うん。」


「得意なのは、何?」


「いつも、材料を置いてるのは麻婆豆腐」


「すごいね。」


「昔の彼氏が中国の人だったから。」


「へー。食べてみたいな。」


「そんなに辛くないようにアレンジしてるから食べてみる?」


「うん。」


そう言うとキッチンに立った。


氷雨は、隣に張り付いてずっと見ている。


見られているだけで、ドキドキする。


「レシピ教えてよ」


「作るの?」


「うん。食べ物ならすぐに星を感じられるから」


そう言って笑ってる。


「香水もあげるよ。」


「本当に?」


「うん。」


「僕のもあげるよ。」


「持ってきてるの?」


「うん。」


「ありがとう」


そう言って笑った。


麻婆豆腐は、あっという間にできた。


「いただきます。」


氷雨は喜んで食べてる。


この指も、この目も、この唇も、この髪も、氷雨の全てはもう人のものなんだ。


左手の指輪がキラキラ光ってる。


「すごく、美味しいよ」


なんでだろう?


帰って欲しくない。


一番好きな人とは一緒にいれない


ママの言葉が響く。


そっか、醜くなるんだ。


氷雨を食べて身体の一部にでもしてしまいたい衝動。


ママもパパに感じてた?


氷雨に誰の事も見て欲しくない、誰にも氷雨を見て欲しくない。


沸き上がる感情(きもち)を押さえられなくなる。


だから、一緒にいれないのだ。


このままいると進むべき道を間違ってしまいそうだ。


「そんな顔しないで」


氷雨が、頬に手を当てた。


器をもっていたからか、手が暖かい。


「僕も、星を食べて僕の一部にしたい。同じでしょ?」


えっ?


頷いた。


「だから、居ちゃダメなんだよね。きっと…。」


そう言うと氷雨の目にも涙が溜まっていく。


「昔、ママが一番好きな人とはいれないって醜くくなるからって、同じだったのかな?」


「そうだと思う。だって、沸き上がるのは支配したい、取り込みたい、傷つけたい、愛されたいって感情(きもち)ばかりだから」


「僕も同じ」


「いつかどちらかを滅ぼすんだ。この愛は…。」


「わかってる。」


「ごめんね。こんなに愛してしまって」


「ううん。僕もこんなに愛してごめん。」


氷雨は泣いてる僕の涙を拭ってくれる。

これを食べたら、氷雨は帰る。


この先、これほどまでの愛をもらう事も与える事もないのがわかる。


氷雨は、麻婆豆腐を食べ終わった。服を着替えてる間にレシピを書いてあげた。


「これが、本当のサヨナラだね。」


「うん。サヨナラ」


そう言いながら香水のボトルを交換した。


そして、暫く抱き締めあった。


ふーってお互いに深呼吸をした。


「さようなら、星さん」


「さようなら、氷雨君」


振り返らずに氷雨君は、歩きだした。


泣いてるのが、わかる。


僕は、小さくなるまでずっと見ていた。



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