誰も幸せになど出来ない
次の日ー
荷物の準備を済ませた。渡す紙をきちんと見ていなかった。
宇宙兄さんは、有名なお医者さんだからちゃんと書いてくれたよな。
(橘月 男として無能である。
精子の数0、妊娠させる能力はありません。子供を望むなら別の人を選ぶべきである。………ご愁傷さま)
真ん中は、ちゃんとそれなりの文章なのに最初と最後のご愁傷さまをどうやって消せばいい?
紙を持つ手が、震える。
「月、送るよ」
流星兄さんに声をかけられた。
俺は、紙を鞄にしまった。
「今いく」
そう言って、流星兄さんの車に向かった。
乗り込んだ瞬間、「なんか不思議だね」「兄さんは恥ずかしいね」「流星でもいいんだよ」とかいっぱい話してくれるのに、俺はうん、うん?、うんとうんだけで会話をして家の前についた。
「月」そう言って流星兄さんが、俺の手を握ろうとしたのを察知してシートベルトを外して降りた。
一瞬、悲しそうに目を伏せた。
そしてすぐに、「トランクからキャリーケースとって」と言った。
俺は、トランクからキャリーケースを取り出した。
星が、見えた。
「ありがとう」
「じゃあ」
流星兄さんが、去っていく。
いつまでも見送っていた。
星と久しぶりに会った。
ドキン…前よりも愛情を注がれて可憐に咲く花のようだった。
ちゃんと愛し愛されてたのがわかる。
話をした、同時に聞いて笑った。
なんか、少しホッとした。
部屋の鍵をあけると同時に星を家に入れた。
紙を見せた。消し方が知りたかった。
支えるって言われても、抱き締められても、受け止められなかった。
星の頬に触れさえできなかった。
俺は、星を追い出して玄関に座り込んだ。
宇宙兄さんは、研究だけが好きだと流星兄さんが言っていた。
確かにあの日、顕微鏡を覗く宇宙兄さんは楽しそうに笑っていた。
歪みきって腐ってる。
この紙をニコニコ顔で書いたのは、俺への復讐だ。
ずっと、母さんの愛をもらえなかったから…。
流星兄さんの愛をもらった罰なのだ。
報いを受けるのは、当然の結果なのだ。
宇宙兄さんは、自分以外の人間、嫌、自分さえも嫌いなのだと思った。
こんな文章を書くほど、頭の中が腐りきってるなんてな。
俺は、紙をまた鞄にしまった。
怖くて誰にも触れられない。
お前は、男としてダメだと言われた。
幸せに出来ないと言われた。
烙印を押されたのだ。
この紙は、俺を歪んだ愛に連れ戻していく。
婆ちゃんや爺ちゃんがくれた愛が、流星兄さんが最後までくれた愛が、ジリジリと体の中で燃やされていくのを感じる。
この痛み(ひ)が、消えたら俺の中に歪んだ愛しか残らなくて
また、誰かに傷つけてもらう事を望むんだ。
敷きっぱなしだった布団に寝転んだ。
星と俺の匂いが、かすかに残ってる。
ズキンズキンと胸の奥を突き上げる痛みとギリギリジリジリと焼きつくされる痛みに、気づいたら目を閉じていた。
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目を開けた俺の隣にピッタリと星がくっついていた。
出会ったあの日みたいに
「もしもし、星。何してるの?」
そう言った俺の声に目を開けた。
「よかった。とまった」
そう言って抱き締めてきた。
「あの、何かリピートしてる?」
俺は、そう言って星を離そうとするけど離してくれない。
「傷つけるなら、僕にして」
えっ…何言ってるの?
「この先、歪んだ愛しかなくて振り出しに戻っちゃったなら…僕を傷つけて」
俺は、その言葉に起き上がった。
「離せよ、お前なんかいらねーよ。」
寝ている間にどこまで燃やされたんだろうか?
「離さないよ」また、抱きついてきた。
「いい加減にしろ」
振り上げた手で星を殴ろうとした。
「いいよ、殴って、いいよ、傷つけて」
顔をあげた星の目に涙が溜まっていく。
トクン…胸の奥で音がする。
「月、愛って退屈なんだよ。退屈だけど幸せなんだよ。僕は、月にそんな愛しかあげないよ」
その言葉に、涙が流れた。
別の場所に隠れていた想いが、心の中を一気に駆け巡った。
「あっ、はぁ。痛い、苦しい」
押し潰される程の想いが、心を満たしていく。
「月、大丈夫だから」
ギュッーって星が抱き締めてくれた。
少しだけ、息ができた。




