僕が支えるから
次の日ー
タクシーがきたみたいで、氷雨は降りていった。
「月星花に、明後日8時までにはきてね。」
「大きな式場だよね。」
「うん、そうだよ。」
「有名だよね、月町と星町で一番大きくて」
「待ってるから、僕。」
「うん、必ず行くから」
氷雨を下まで送ると、月が車から降りてきた。
「じゃあね、星」
「うん、バイバイ」
タクシーが見えなくなるまで手をふった。
振り返ると月も、車が見えなくなるまで手をふっていた。
「久しぶり、帰ってきたんだ」
トクンって胸が痛む。
「ああ、今日からこっち。」
そう言ってキャリーケースをひきながら歩く。
「終わったの?」同時に聞いた。
「アハハ、アハハ」僕と月は、笑ってしまった。
「終わったよ。3日後には、彼は結婚するから」
涙がポタポタ流れては落ちる。
「そんな顔すんなよ。ちゃんと愛し愛されてたんだろ。」
僕は、頷いた。そう言って月は、歩いてる。
「そっちは?」
「終わった。もう、兄貴になったよ。」
月の目からも涙が溢れてる。
「愛し愛されたんだね。ちゃんと」
月は、頷いて、玄関の鍵を開けて中にはいる。
「ちょっと、いいか?」
「なに?」
「兄貴には、見せなかったけど。こんな紙、修正とかできるかな?」
月が、僕に紙を見せてきた。
「なに、これ…」
絶望しか書かれていない紙
(橘月 男として無能である。
精子の数0、妊娠させる能力はありません。子供を望むなら別の人を選ぶべきである………ご愁傷さま)
「本当にお医者さんが書いた文章なのこれ?」
「ああ、もう一人の兄貴が書いた。」
「そんな、言葉の選び方とかあるでしょ?」
「イライラしてたんじゃないかな?」
今すぐにでも破り捨ててやりたかった。
「ご愁傷さまって書いてるのも?」
「ああ、その場でも言われたし」
「ひどいよ。そんなの」
「そこだけ破いたらなんとかなるかな?それか、そのままやっぱり渡すべきだよな」
「そんな顔しないで。」
僕は、月に久しぶりに触れてしまった。
「あっ、ごめん。なんでかな?直したはずなのにな」
そう言って泣いてる。
何を直せるの?
こんな言葉を書かれた紙を見て、悲しくない人なんている?
「この紙、いつ読んだの?」
「ちゃんと見たのは、今朝用意した時だった。もらった時から鞄にしまってたから…。ま、彼女に渡さなくちゃならないから」
そう言った月の手は、震えてる。
「こんなのを渡すの?」
「うん、ちゃんと医者の判子ついてるから」
よくもまあ、こんな紙に判子がつけるな。橘宇宙ってサインまでしてあるし…。
「月にだけじゃなくて、この人は他の人にもそう思ってるんだよね。」
「えっ…」
月が顔をあげた。
「人間になんて興味ないんだよね」
「そうだろ、俺の兄貴だから」
って月が笑った。
反射的に抱き締めていた。
「月や、星城病院のお兄さんは違うよ。少なくともこんな言葉を並べる人じゃない。」
「星、ありがとう。」
さらに泣く月を強く抱き締めた。
「僕が、僕が支えるから。月を守ってあげるから…」
月が、僕から離れた。
「そんな顔するな。」
そう言って頬を触ろうとする手が震えている。
抱き締めた時も、僕を抱き締め返さなかった。
「怖いんだね。触れるのが」
僕の言葉に月は、僕の目を見つめる。
「男としての烙印を押された気がした。もう、誰も幸せに出来ないとハッキリと言われた気がした。触れたいのに、震えが止まらない。さっきも、流星兄さんが俺の震えに気づて手を握ろうとしたけど…。かわしてしまった。悲しい顔をさせてしまった。」
どこまでも続く歪みは、月を傷つけるんだね。
「月は、誰よりも幸せに出来る人だよ。」
「今は、ごめん。信じられない」
「僕が、ずっといるから」
その言葉に月は、目を伏せた。
「ごめん。へんなの見せてごめん。ありがとう。」
そう言って、月は紙をとって玄関から僕を追い出した。
パタンて閉められた玄関の前で、しばらく立ち尽くした。
どうして、僕を拒むの?
歪んだ愛の炎にやかれてる月を感じた。
トボトボと引きずるように玄関を開けた。




