氷雨との日々
僕は、氷雨から離れた。
「兄さんの病院に行く前に、着替えてきます。」
「僕も着替えていくよ。」
「僕と離れるのが、寂しいですか?」
そう言って氷雨は、僕の頬に手を当てる。
今、寂しい顔していたのかもしれない。
自分では、気づかなかった。
氷雨は、そう言って僕を抱き締める。氷雨のほのかに香る柑橘系の香りと煙草の香りが、僕を包み込む。
僕は、氷雨を抱き締めた。
「氷雨、ありがとう」
「うん。」
ブーブーって氷雨のスマホが鳴る。
「ごめん。ちょっと待って」
氷雨は、電話に出た。洗面所に行ってしまった。
僕は、ベッドに寝転がった。
昨日の出来事を全然思い出せない。
時雨の弟とそんな関係になってしまったなんて。
氷雨が、もどってきた。
「ごめん。」
「お母さん?」
「ううん。婚約者だった。母さんが、心配してかけたみたい。友達の所にいるって話したから」
「そっか」
僕どんな顔してる。
「ヤキモチやいてくれたの?」
「やいてないよ。」
「つまんない。ちょっとぐらいヤキモチやいてくれたらいいのに…。」
なぜ、僕は遊ばれている?
「氷雨は、僕にヤキモチをやいてほしいの?」
「そうだよ」
素直すぎて、可愛いよ。
「僕とどうにかなりたかったの?」
「そうだよ。」
氷雨は、無邪気に笑う。
「いつから?」
「言えない。」
氷雨は、首を横にふる。
「僕は、氷雨とは」
「わかってるから、言わないで。」
氷雨は、首をさらにふった。
「少しの間、利用する関係でも本当にいいの?」
胸が痛むけど、ちゃんと言わなきゃいけないから…。
「いいよ。そうして、欲しい」
氷雨は、潤んだ目を僕に向けてくる。
「そんなに、優しくされたら僕は氷雨を求めちゃうよ。」
僕の目から涙が流れる。
氷雨を傷つけたくない自分と氷雨を傷つけてしまいたい自分。
氷雨を受け入れたい自分と氷雨を受け入れたくない自分。
葛藤すればする程に、涙が流れてくる。
「泣かないで、泣かないで。星は、何も考えなくていいから」
そう言って、僕を抱き締めてきた。
氷雨は流されるままにキスなどもしなかった。
今の状況なら、時雨とならキスをしている。
でも、氷雨は違う。
「僕は、星が何をして欲しいかがよくわからない。でも、して欲しい事があったら答えるから」
氷雨は、僕の頭を優しく撫でる。
何をして欲しいかわからないからしないのか?
違う。自分がしたくても、しないのだ。
僕がちゃんとしたいと言わなければ、氷雨は何もしないのだ。
「もうすぐしたら、いったん家に帰るね。」
「うん。」
「僕は、一週間会社の休みをとってるんだよ。その間だけでも、星といれたら嬉しいよ。」
そう言うとまた抱き締めてくれた。
「僕は、一人暮らしじゃないから星の家に行くのはダメかな?」
「いいよ。」
「今日も、一緒に飲みたい。」
「飲むだけなら、いいよ。」
「やったー。じゃあ、母さんに泊まるって話してくるね。」
氷雨の笑顔は、本当に可愛い。
「じゃあ、タクシー呼ぶよ」
そう言って氷雨は、タクシーを呼んだ。
タクシーに乗り込んだ。
「星の家から、送るから」
そう言って僕の家を告げた。
タクシーが、家についた。
月もちょうど、車から降りてきていた。
「後でね」
「うん、後で」
僕は、氷雨に手をふった。
月も車の人に手をふっていた。
「おはよう」
僕は、月に声をかけた。
「新しい人出来たんだな」って笑った。
「違うよ、あれは時雨の弟」
「言い訳しなくていいよ。俺は、暫く兄さんとこで暮らすから」
キャリーケースをひいて歩き出す。
横に並ぶと薬品の匂いと月の香りが混ざり合ってる。
家について、月が部屋の鍵を開けて入る瞬間に僕も月の部屋にはいった。
「なに?」
「ごめん。でもね、言わなくちゃだめだから」
「だから、なに?」
「……………月も同じでしょ?」
僕が聞いた言葉に驚いた顔をした。
「ごめん。今はその」
「わかってるから、僕もさっきの子を利用してる」
「ごめん。」
「だけど、抱き締めさせて辛かったんでしょ?彼女に色々言われて」
「うん。」
僕は、月を抱き締めた。
そして、玄関を出て部屋に入った。




